第15話 土曜日遊べなかったから 2

 日曜日の午前5時。

 もうだいぶ外も明るくなって、窓からの光が強くなってきた頃。


 いつもなら眠っているはずの時間なのに、突然目が覚めた。


「まだこんな時間か……」


 俺はそう呟いて、眠れる気はしないがもう一度目を瞑ってみた。


 昨日疲れて早く寝たというのもあるのだろうが、こんな時間に目が覚めるなんて今までほとんど無かったので案外驚いていたりする。


「……早くもっと明るくならないかな」


 どうしてこんなに早く起きれたのか。

 理由は自分でもなんとなくわかっている。


 ベッドの上でボーっとしていると、唐突にスマホから着信音が鳴った。


心陽こはるかな……?」


 ちょっとドキドキしながら相手を確認し、期待通りだったので思わず小さくガッツポーズを取ってしまった。


 送られてきていたのは、起きてる? という一言だけが、それでも十分嬉しい。

 要は起きていたら話がしたいということなのだろうから。多分。


 俺はすぐに返事を送った。


「楽しみすぎて寝れない……っと」


 寝転んでいた状態から上半身だけ起こし、俺は部屋の隅に置かれたカバンに視線を移した。

 実は今日、心陽こはると遊ぶことになったのだ。昨日で潰れた分として。


 楽しみすぎて目が覚めるほど、俺は彼女とのデートが楽しみで仕方なかった。

 昨日誘われた時は急な出来事すぎてリアクションが薄くなったが今日は我慢できない。


「もう朝ごはん食べとこうかな」


 いつでも出れる状態にしておかないと落ち着かないような気がして、俺は思わず立ち上がった。


 ちょうどその時、彼女からは返事が来る代わりに、電話がかかってきたのだった。





◇ □ ◇ □ ◇





 電話で少し話した結果、映画を見ることになった。

 なので今は一番近くのショッピングモールの映画館の前にいる。


「どの映画見るの?」


 心陽こはるはキラキラした目をこちらに向けて尋ねてきた。

 可愛い笑顔が眩しい。

 目の保養になる。


「ミドリムシ戦闘記2」

「絶対面白くないよそれ」

「…………」


 せっかく提案したのに即否定されて、さすがに少し傷ついた。

 しかし、特に気にせずに俺は言葉を続ける。


「1は正直ただグロいだけだった」

「じゃあ恋愛系でいこうよ。せっかく二人なんだし」


 期待していたような映画じゃなかったからか、彼女は少し不機嫌そうに頬を膨らませて言った。


「えー……、恋愛系とか見たこと無いからな……」

「じゃあ始まる時間が近い『もう、普通の人間に恋は出来ない』は?」

「……なんか、めっちゃ微妙そうだな」

「内容はおもしろいかもよ?」

「まあ、それでいいや」

「おっけー」


 そんな風になんとなくで映画を選び、ポップコーンを買って映画館の中へ。

 ポップコーンは俺も心陽こはるも塩が好きだったので、大きいヤツを一つだけ購入した。


「館内に入った瞬間に周りの音が消えたみたいに静かになるの、ちょっと好きなんだよね」


 彼女はゆっくり歩きながら、そんなことを小声で呟くように言った。


 確かにそれはわかるかもしれない。

 自分の世界に入り込んだみたいな感覚になるのは、妙に心地よかったりするから。


「わかる」


 あまりうるさいと迷惑だろうから、返事は一言で終わらせて座席についた。

 ただ映画を見るだけなのに、周りが暗いからというよもあるのか不思議と緊張してしまう。


 それから映画が始まるまでは心陽こはると一言も会話は交わさなかったが、特に気まずくなるというような感じはなかった。

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