第14話 土曜日遊べなかったから 1

 しばらくして、ようやく心陽こはるの様子が落ち着いてきた。

 さっきまでは見せなかった安心したような表情をしている。


 そこで俺は、今のうちに疑問に思っていたことを訊いてみようと思った。


「そういえばさ、なんで海人かいと家に入れてたの?」


 あんなヤツ、入れないほうが絶対によかったはずだったのに。


 実は、これだけは連絡が来た時からずっと気になっていたのだ。

 あまり話したいことではないとは思いながらも、彼女にそう尋ねてみる。


「……だって、うるさかったから……」

「……え? どういうこと……?」

「ドア叩きながらあのバカでかい声でずっと叫ばれたらさ、さすがに近所迷惑でしょ……」

「あぁ……、」


 どうやら彼女はあんな状況でも他人に気をかけることが出来るらしい。

 確かにそれはいいことだけど、俺なら周りに迷惑だろうが自分の身を優先するけどな。

 なんて考えながらも、適当に相槌を打つ。


 少し間をあけて、心陽こはるは続けた。


「まあ、一番の理由は……。その、弱みを握られてるからっていうか……」

「……そっか」

「何とは言わないけど、あけないと広めるぞって脅されて……」


 相当辛そうに、彼女は床を見つめたまま言った。

 どんな弱みなのかは本音を言えば気になるところだが、当然そんなこと聞くなんてことはしない。


「……とにかく今日はありがとう。二回目だけど……」

「うん」

「面倒なことに巻き込んでごめん。せっかくの休みだったのにね……」


 ゆっくりと心陽こはるは顔を上げて、悲しそうな目をこちらに向けた。


「どうせ暇だったし。全然いいけどな」

「そう……だったんだ……」

「……まあな」


 正直、こんなことになるのなら家でゴロゴロしていればよかったと思ったのも本当だが、ちょっとでも彼女の助けになれたのならそれで十分だ。


「じゃあ、これからどうする? ……って、遊びたい気分でもないか」

「……うん、ごめん」


 俺としても、こんな微妙な空気では何をしても楽しめそうにないので、言い方は悪くなるが今は遊びたくない。


「もうちょっと、ここにいようか?」


 俺は辛いときは誰かにいてほしいと思うタイプだけど、全員そうとは限らない。

 一応そう確認して彼女が首を振ったので、俺はこのタイミングで帰ることにしたのだった。




◇ □ ◇ □ ◇





 家に着いた俺は、すぐにスマホを見た。

 もはや機械的に行動しているような毎回同じパターンの動きに少し危機を覚える。


 このままいけばスマホ依存症まっしぐらだな、なんて心で笑いながら、いつの間にか届いていた心陽こはるからのメッセージを確認した。


 内容は、明日は遊べないかという誘いの言葉だった。


「明日は……、なにもないか」


 俺は塾に行っているわけでもないのでそもそも用事自体少ないが、一応カレンダーに視線を移してから呟く。

 それからすぐに、俺は返事を返した。


 遊べるよと伝える文章を。

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