第9話 彼女の家に行くことになった 2
さすが女子の部屋、というべきだろうか。
自分の部屋でも結構綺麗な方だと思っていたのに、それ以上の、もはや美しさまで感じてしまいそうなほど丁寧に整理されている空間に、俺は驚愕した。
「まじか……」
思わずそう漏らしながら、もう一度ぐるっと部屋を一周見渡してみた。
床やベッドの一部が木製というのもあってか、この場所にいるだけで落ち着ける秘密基地のような感じがする。
それでも控えめに装飾はされており、オシャレとも思うことができる。
「どう、綺麗でしょ?」
なにかを求めている時のような、ちょっと緊張してこわばった顔をしている。
「……うん。めっちゃ綺麗」
正直にそう答えると、彼女は嬉しそうに表情を綻ばせて笑った。
猫みたいな、なんとも愛おしい笑みだ。
「頑張って掃除したんだからねっ」
「わざわざそんなことしなくてもよかったのに」
「でも綺麗になって損することはないでしょ」
なんて言いながら彼女はベッドに寝転んだ。
続けて、彼女は俺を呼ぶようにベッドをポンポン叩く。
「……え?」
「ん?」
「なに?」
「いや、座らないのかなって」
彼女は足を伸ばしていて太ももが結構露出し、ズボンを履いているとはいえ短いので色っぽさを感じてしまう。
これ以上物理的な距離を縮めると、照れや恥ずかしさで燃え尽きてしまいそうだった俺は、その場を動かずに返事を返す。
「立ったままでいいよ」
そもそも女子の家に来るというだけでも緊張するというのに、慣れる時間もくれないのは酷いと思った。
しかも相手が好きな人であるのだから、余計に時間を要してしまう。
「だめです。来てください」
「……いやだ」
「あー、じゃあ来なくていいからもう一回告白してもらおうかな」
ちょっとずつ、彼女の顔が紅潮してきているような感じがするのは気の所為なのだろうか。
「……じゃあ、座るだけな」
「それ以上を求めるなら私は別にいいけど」
「今は座るだけでいいよ……」
呟くように言って、俺はゆっくりと
目の前まで来て覚悟を決めるように深呼吸してから、静かに腰を下ろした。
ちょっと古いベッドというのもあってか、俺が座ると少しだけ軋むような音が鳴った。
「……近いね」
彼女は聞こえるか聞こえないかのギリギリのラインを攻めるように声を出して、俺の服の裾を優しく掴んだ。
あまり力が入っていないのに、絶対に逃さないぞという謎の意志を感じる。
ふと視線を落として
自分から誘った割には照れている様子で、顔を真っ赤にして視線を泳がせている。
「可愛い」
思わず俺はそう口にしていた。
引かれるかもしれないようなことを言ってしまったと、気付いたときにはもう遅い。
慌てて取り繕おうと咳払いして視線を逸らす。
それでも焦りは収まらない。
しばらく
それと同時に、放課後に聞いたあのショックな言葉がフラッシュバックするように思い出された。
「っ…………、」
また、あの不快感が全身を襲う。
相変わらずのお腹の辺りがえぐられたような感じ。
もういっそのこと相手の為だと思って別れるのもアリなんじゃないかという考えが浮かんでしまったとき、ようやく
「あ……、りがとう……」
力の籠もっていない、そんな声だった。
不思議に思って、俺は視線を彼女に戻してみる。そして驚いた。
その明らかに照れて恥ずかしそうにしている様子を見て、先程まであったはずの不快感などは一瞬で吹き飛んでいったのだった。
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