第8話 彼女の家に行くことになった 1

 今日は土曜日。

 彼女持ちの俺にはもちろん予定があった。


 それは。


「おぉぉっ……! 今日は新曲投稿されるのか……。まじで最高」


 俺はスマホの画面に表示された、大好きな音楽アーティストのお知らせを眺めながらそう呟いた。

 続けて俺はベッドに寝転がる。


「……とりあえずゲームでもしよっと」


 別に誰かが聞いているというわけでもないが言葉を口にして、リビングから取ってきたゲーム機の電源を付けた。

 音楽プレイヤーに繋いだイヤホンも耳にはめて、最高の状態で画面に視線を落とす。


 そう。

 実は予定とは、ただ趣味を全力で楽しむだけのことだったのだ。


 まあ、ちょっとぐらい勉強しないと落ち着かないとは思う人もいるとは思うが。

 俺はたまにはこういう日があってもいいと考える派なので、月に一度ぐらいは自由な日を確保するようにしている。

 人生楽しまないと損だし。


「誰かと一緒にやろうかなー……」


 なんて呟きながら俺はスマホに目を移した。

 それとほぼ同時にメッセージが届いたときの着信音が鳴って、通知が届く。


心陽こはるからか……」


 無意識のうちに口角があがって収まらなくなったのも気にせず、俺はメッセージを確認した。


 『今日ひま?』


 送られてきていたのはそれだけだった。

 それだけでも思わず立ち上がってしまうほど嬉しい言葉だったので、気分が高揚する。


 ドキドキしながら、すぐに俺は返事を返した。


 既読は数秒も経たずに付き、返信も即送られてくる。


 そして少しやり取りを行った後、何故か俺が心陽こはるの家に行くことになったのだった。





◇ □ ◇ □ ◇





「やっほ」


 ダボッとした大きめの私服姿でウチに現れた心陽こはるは、俺の姿を見るなり笑顔になってそう言った。

 どうやら彼女が道案内をしてくれるようで、向こうから迎えに来てくれたのだ。


 面倒だろうし、何度か家の前までは行っているので案内なんて必要ないのだが、何度断っても心陽こはるが折れる気配はしなかった。

 なので俺が諦めて、今の状況になっている。


「そういえば俺が心陽こはるの家に入るのは初めてか」


 彼女と肩を並べて歩いているとき、ふとそんなことを思い出した。

 いつも呼ぶ側だったので、こうして相手の家に向かうのは不思議な感じがする。


「何度か誘おうとは思ったんだけどね……。勇気出なくって」


 心陽こはるは少し気恥ずかしそうに視線をそらして、頬を朱色に染めながら言った。

 いちいち言動と仕草が可愛い。


「そういえばさっきまで家でなにしてたの?」

「ゲームの準備。そっちは?」

「十分ぐらい葛藤してた」

「え?」

「なんて誘おうかなって……」


 今度は耳の先まで顔を真っ赤に染めて、うつむきながら声を出した。


 心陽こはるは俺のことを意識してくれているのだ。

 当然ながら、俺は嬉しくなった。


 続けて顔が熱くなってきたので、俺は思わず視線を彼女の反対側に向ける。





 それからはお互いに一言も言葉を放つことなく目的地まで辿り着いたが、その間に気まずくなることはなく、恋人繋ぎまで出来て幸せなひと時を過ごせたのだった。

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