第7話 告白
授業が始まった。
今までに感じたことのないほど、憂鬱な授業が。
ふと、隣に座る
彼女は俺が見ているのに気付くと、ニヤッといやらしい笑みを浮かべる。
「まだかなぁ〜?」
なんて言いながら、頬杖をついてこちらをじっと見つめてくる。
心の準備をする時間すら与えないぞという、謎の圧力を感じた。
「…………今から準備します」
約束なので、本当は嫌だけど、仕方なく。
俺はため息を吐きながら告白の準備を始めた。
しかし、思い出すだけで身震いしそうになるあの告白をもう一度再現しろなんて、無茶振りだと思う。
あの時はテンションがバグっていたというのもあって勢いで押し切れたが、今回はそうはいかない。
緊張と不安で、腹の辺りが空洞になったような感覚がする。
「……再現ってさ、場所とか告白の方法とかも全部?」
「もちろん場所も方法も全部です。誤字もしっかりね」
隣に座る美少女様は、髪の毛をいじりながら微笑んだ。
「二度と思い出したくなかったのに……」
俺は思わず再びため息を漏らし、手元の紙切れに視線を落とした。
それから、準備をするためにどんな感じで告白したかなどを思い出していって、改めて自分の馬鹿さを実感することが出来た。
「いやぁ、あの告白は衝撃的だった」
笑いながら彼女は言うが、まさか授業中に告白されることがあるなんて、考えたことも無かっただろう。
しかも、紙の切れ端に文字を書いての告白。
目の前にいるんだから喋れよ、って思っていたんだろうなと考えると、さらに恥ずかしくなってくる。
おまけに俺は、誤字をするという最悪のミスを犯していたのだ。
「…………あー、しんど」
恥ずかしすぎて胸が苦しくなり、もうどうにかなってしまいそうな気までしてきた。
落ち着くために一度頭を上げて深呼吸してから、少しずつ紙に文字を書いていく。
それから1分ほど経って、一応準備は出来た。
「……はい」
俺はそれだけ言って、紙切れを
受け取った彼女は幸せそうな笑みを見せながら、ゆっくり文字を読んでいく。
「ぷっ……」
彼女は俺の誤字を見て、吹きそうになるのを必死に堪えるような素振りをした。
次にこちらをじっと見つめて、ついに我慢の限界がきたのか声を押し殺して笑い始めた。
授業中ではなくて、周りに俺以外の人がいなければ大きな声を出していたのだろう。
顔を見たらわかる、とびっきりの笑顔だ。
「ふっ……、まじ最高……。漢字間違えるとか、おもしろすぎるんだけど……。ふふっ……」
「……別に『付き合ってください』が『突き合ってください』になっててもわかるでしょ」
「いやそもそも普通間違えないからっ……!」
「緊張で頭がしっかりと働いてなかったんだよな……。多分……」
俺は顔が熱くなるのを我慢しながら、黒板に目線を固定して言った。
今すぐに燃えて消え去りたいと、初めて本気で願ったかも知れない。
どうせなら、呼び出して勇気を出して告白しておくべきだったと、今更後悔した。
「うわ、顔真っ赤じゃん。そんなに恥ずかしかった?」
「……黒歴史みたいな出来事晒すことになったら誰でも恥ずかしいでしょ」
俺が素っ気なくそう返すと、少し間を開けてから
そして静かにその指を頬に突付くように優しく触れた。
ほんのちょっとだけ、温もりが感じられるような気がした。
「……え?」
「あ、いやっ、突くって……」
「……ほっぺたを?」
「……なんでもない、です……」
なんてぎこちなく言いながら、向こうから仕掛けたことだというのに、彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた。
ほんの一瞬の出来事だったけど正直俺は嬉しく思っていたので、すぐに辞められてしまったことが少し残念だと思ったりしていた。
まあ本人に伝える勇気なんて出なかったけども。
それから
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