各分野は異なるものの、人間が作り出した芸術の根底には、本来追求したい美しさや調和、そして意味が込められています。その事実を認識する過程で出会った男女が互いの不足を補い合いながらロマンスに発展していくストーリーを扱う小説作品です。
そして、小説の内容やストーリーの進行過程での描写が非常に美しく緻密でありながらも繊細に書かれており、登場人物の対話や感情表現における表現も人工的な感じよりも非常に自然で、まるで実際に小説の中の場面を観察しているような感覚を受けます。
その他にも、作中で登場する様々な要素が調和を成し、自然な雰囲気と演出を提供しており、作品を読んで理解する部分においても負担を感じません。
最後に、この素晴らしい小説作品を創作してくださった作者様に、感謝の気持ちを伝えたいです。
ピアニストのゆきと画家の大悟はお互いを心から愛し、尊敬し、夢を応援しあっている。人生を芸術と、愛する人に捧げた二人は、理想と現実の間で、喜びや苦悩に揺れる。
まず驚いたのは、入念な下調べを感じさせる描写の数々です。それは、コンテストや曲などの知識的なものだけでなく、ピアニストが理想の音を追い求める様などの、より専門的で個人的なものにまで及んでいます。
特に後者は、知識だけでは完全にはカバーできない、体験的なものが伴っていなければ描け得ないものに感じました。本気の人間の気迫やこだわり、熱意がここにはあります。
自分の中にある理想と、実際にアウトプットできたもの。周りが求めているものと、自分の目指したいもの。
本気で表現をするからこそぶち当たる内外の葛藤が、この作品では様々な角度から丁寧に描かれています。それはきっとプロアマ関係なく、本気で自分や作品や夢といったものと向き合ったことのある方ならば、共感できるものだと思います。
音楽や絵に決まった物差しはありません。その評価は様々な要因で揺れ動きます。また、自己表現としての芸術は、それ自体も様々なものに左右されます。
自他から影響を受ける表現というものは、そういった変化や危うさも孕んでいるものではないかと思います。
だからこそ、二人の愛は相手のことを時に支え、時に傷つけます。
理想を追い求めた二人が、何を最も尊び、光とするのか。
最後まで見届けたいと思います。
※第43話までを読んでのレビューです。
クラシック音楽と印象派の絵画がお好きな方におススメの恋愛小説。
主人公はピアニストの女性、水無瀬ゆき。
彼女は印象派の絵画を描く画家の男性、来栖大悟と出会います。
交流を深めるうち、ふたりは恋人同士になり、主人公のピアニストはピアノコンクールに出場するのですが……
追いかけるモノはちがいますが、夢を追いかけるふたりの恋を描く物語です。
やりたいことがある者同士のカップルということもあり、それぞれの目的を追う二人はすれちがいかけたりもして、ひやひやする場面も。
それでも、お互いの良さを知っている二人は、離れることなく切磋琢磨し、お互いを高めあって愛を育んでいきます。
音楽と印象派の絵画の知識が豊富さが、本作の売りだと思います。
私は音楽にも絵画にもそこまで詳しくないのですが、造詣の深い方ならより楽しめると思われる描写に溢れた作品です。
最後に、個人的な注目ポイントをひとつ。
主要登場人物であるピアニストの女性も、画家の男性も、福岡出身という設定であるため、福岡の街の描写が多く見られます。
ですので、福岡好きの人も意外と楽しく読める作品かもしれません。
絵画にも、音楽にも、芸術活動にはすべて、絶対の「正解」はありません。
追い求めるものはひとつ。自分自身の中にある「理想」。表現者はみな、一度は悩んだ覚えがあるでしょう。永遠のテーマです。
この作品の中で、私が一番グッときたのは、主人公ゆきと大悟の、悩み足掻く姿です。
理想の音を求めて。理想の光を求めて。表現方法は違いますが、彼らは悩み、違和感を覚え、惑い、迷いながら、手探りで前に進んでいきます。
そこに、二人の恋愛模様がうまく絡まり、芸術的な成功と私生活での成功を両立できるかどうか、も語られます。
彼らの悩む姿、恋に翻弄される様は、それだけで輝かしく、ありとあらゆる色彩に溢れ、複雑な響きを持っている。
拝読しながら、そのようなイメージを抱きました。
色彩と音と光の奔流に溺れたい方は、是非。お勧めいたします。
芸術は敷居が高いと思われることも多く、私自身もそのひとりです。
そんな私がタイトルを見て、手に取ってみたくなった作品「売れない画家とピアニスト」。
文章を読むごとに、美しい。
私からすると、〈絵画〉という曖昧で抽象的なものを〈文章〉でこんなに表現できるのか……と素直に、素晴らしいなと思います。
ゆきが奏でるピアノの〈音〉の表現も美しいです。
二人の関係性は、互いに〈目標〉があるパートナーシップの困難さや、喜び、それによって育まれる愛が描かれています。
途中、大悟がどうなってしまうのか……とハラハラしましたが、それにともなうゆきの決断や、彼に寄り添う姿が、美しくもつよく、逞しいです。
最終話がまたロマンチックで素敵でした!