第24話 復讐者

 愛莉あいりの主張は翔太朗しょうたろうにも把握できた。

 しかし、だからと言って、⑥班の生存者が、自分たちのことを殺そうとしているなぞとは、俄かには信じがたい。


 よしんば、愛莉あいりの思料するように、武具を盗んだのが⑥班なのだとしても、戻りたくない派の言動には、権蔵ごんぞうたちの先例がある。


 闇雲には他人を襲わないのだ。

 それも落ち着いて考えてみれば、当然だろう。

 嫌な言い方になるが、支給された装備は極めて貴重だ。それこそ、パースの文明に目を向けるまでもなく、再入手の機会なぞ、早々に訪れないと予見できる。おのずと倹約の料簡に至るはずである。


 仮に、相手の性格を曜介ようすけ並みの短絡さと定めてみても、そこから報復の暴挙に出るという結論は、直ちには出て来ないだろう。無論、日本に帰りたい派であるならば、言わずもがなだ。


 そうしている間に、みなのそばを離れ、一人で偵察に行っていた権蔵ごんぞうが戻っていた。

 彼は言う。


「顔に見覚えがあった。近づいているのは松本まつもと貴孫たかひろ愛莉あいりの想像どおり、ありゃ⑥班の生き残りだな」


「ほら、早く殺しましょう!」


 とたんに、真司・・が探るように権蔵ごんぞうを見返した。

 今の状況は、真司しんじにとっても想定外だろう。翔太朗しょうたろうにさえ、愛莉あいりは事前に何も話さなかったからだ。

 だが、いくら故意ではないとはいえ、④班に隠し事をしていた形になった点は否めない。権蔵ごんぞうが手のひらを返し、瞬く間に同盟がご破算になるのではないかと、真司しんじはすぐさま心配したのである。


 安心しろ。

 そう言いたげに、権蔵ごんぞう真司しんじの肩に手を置いた。


「まあ、落ち着けよ。一度、結んだ同盟だ。わざわざ、裏切ったりなんかしねえよ。貴孫たかひろをどうしたいのかは、お前らに委ねるがな。殺すなら加勢する。武器を奪ったってんのは、間違いねえだろうからな。無駄死にの危険がある中、ほかの班が興味本位で戻るわけがねえ。いくら弾薬に限りがあるって言ってもだ。しゃにむに取りに来るのは、⑤班以降だけなんだからな。バトるのなんか目に見えている。十分、殺されるだけのことはしてんだろう。……曜介ようすけ、お前も文句ねえよな?」


「えっ、俺? 俺は楽しけりゃ何でもいい感じ」

「……だとよ。そん代わし、お前らも二心なんか抱くんじゃねえぞ」

「ああ、それについては大丈夫だ。このメンバーに限って言えば、絶対にないと言い切れる。理由は各々で異なるが、俺たち全員が全員、本気で日本に帰りたいと思っているよ」


 それぞれの事情を、理解しているがゆえの発言だった。

 だが、事はそう単純ではないと、翔太朗しょうたろうは胸中で独り言ちる。


(そうじゃない……。真司しんじは肝心なところを誤解している)


 もとより、翔太朗しょうたろう真司しんじと別れるつもりなぞ毛頭ない。

 しかしながら、⑤班の願いを、微に入り細を穿ってまで説けば、お互いの望みが、完全には合致していないことに気がつくだろう。


 とりもなおさず、翔太朗しょうたろうの目当ては分け前の金だ。表向き、愛莉あいりの目的は戸籍の確保にあったが、そのゴールが資金の回収にあるところからして、やはり実態はあくまでも現金となる。


 だが、真司しんじは異なる。

 貨幣では解決することのできない、愛娘との接触。ここに真司しんじが調査員となった由来があるのだ。

 はっきり言えば、真司しんじだけは、どれだけ金を積まれても、そこに日本での自由がなければ、決して満足できないことになる。


 逆に、正直な話、翔太朗しょうたろうだけはどっちでもよかった。愛莉あいりとは異なり、労働を特段忌避しているわけではないからだ。真司しんじと同様に、束縛のない生活にあずかれるならば、自分で稼いで妹を助けるという手段がある。


 新たな戸籍に、遊べるだけのマネー。

 報酬の両方を貰えるならば、憂慮すべき事態は何もないだろう。

 だが、もしもそこに、万が一にでもひずみ・・・が生じることがあれば、この安定した結束は解けてしまいかねない。


 不吉な予感が拭えなかった。

 何か重要なことを見落としているのではないかと、恐ろしげな気配が、翔太朗しょうたろうの背中にまとわりついていた。

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異世界監獄――死刑囚による、禁じられた異世界の調査と、極限環境での魔法を使ったサバイバル。 御咲花 すゆ花 @suyuka_misahana

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