金を探して

 徳川埋蔵金よりも確実に、お金はこの世界のどこかに存在する。少なくとも僕の5千円は間違いなくどこかにいるはずだ。


 アイスが買えなかった僕は、その数十分後に、最高に明るい未来を夢見てトレジャーハンターになったわけだけど、まずは、朝ごはんは食べないといけない。でも、お金はない。お金がないと食べ物も買えない。食べ物も買えないと生きていけない。つまり、お金がないということは、生きていけないということなんだなぁ。

 ド貧民の僕でも、生命の危機を感じたことは、これまで一度もなかった。貴重な経験だ、なんていえるほどの余裕はないけれど、僕がトレジャーハンターするというのは、生きるために行動するということであって、人工的な習慣が排除されたそれは、自然の理のように美しく思えた。


 現実問題、家にあったお米と塩は、もう残り少ない。食糧難は眼前に迫っている。とりあえず、1000円でもいいから探し出さないと、死ねる。


 そんなわけで、近くの公園とか、公衆トイレとか、電話ボックスの中なんかを手当たり次第に探してみた。だけど、どこにもいない。灯台下暗しを期待して、自分の部屋も隈なく探してみたけれど、お札の姿は見当たらなかった。

 そういえば、と思い、井戸端会議をしていた女の人に話を聞くことにした。

 僕がコンビニのレジでお金がないと叫んで、帰ってきてから、かれこれ、一時間以上が経過しているけれども、女性達は、まだそこにいた。というか、二人だったのが、三人になっていた。

「あの」と僕は声を掛けた。お金が飛ぶという、緊急事態が発生しているので、僕は話し掛けやすかったのだけど、女の人達は怪訝な顔を浮かべていた。

「あっ、僕、近くに住んでいる大学生なんですけど」焦ってやたら饒舌。「なんか、お札とかが財布からなくなってて、それで、さっきここを通ったとき、ちょっと、そんな感じのお話をしているような気がして、あ、いや別に一生懸命聞いていたわけではないんですけど、あはは」

 頭をかきながら、笑って、誤魔化していると。

「私たちも、みんな、同じよ」一人の女性がいった。

「もうね、この辺みんなそうみたい」もう一人の女性も後に続く。この辺、といった時に巨神兵のビームみたいな感じで、指をさしながらぐるりと手を回した。

「どこに行ったかとか、みたりしましたか?」

「それがね」と言って、一人の女性が口をつぐんだ。他の二人の顔を交互にみている。すると、別の女性が語り始めた。

「誰が見たってわけじゃないんだけどね……。なんかこう、フワフワっと浮いて、ふっと消えちゃったの、手品みたいに」

「まじっすか」驚いた僕は、つい、若者口調になってしまった。

「まじっす」と女の人が答えた。


 有力な情報を手に入れた僕は、お姉さま達にお礼を言って、その場を立ち去った。ネットでみたお札が飛んでいる映像も、ひょっとするとフェイクだったのかもしれない。あの映像は、確か、お札が消えたりはしていなかったはず。

 手品のように消えたと教えてくれたお姉さんは、又聞きのように話していたけど、きっと、真の目撃者は語ってくれたお姉さんだったに違いない。僕は、小学校の頃の担当に似ていたお姉さんの話を信じるけど、そうだとすると、困ったことになってしまう。

 浮いて消えたなら、どこへいったのか、全くわからない。北とか南とか、空へとか、地面へとか、せめて方角だけでもわかればよかったのに。


 結局、手掛かりなし。仕方がないので、ネットの情報を漁ってみると、夜、電灯に集まっているらしいというタレコミを発見した。蛾のような性質が発現しているらしい。お札や硬貨に寄生した卵が孵化して、蛾のようなお金になっているということなのだが、なぜ、お札もしくは硬貨が、蛾と融合したのかは、語られていなかった。

 難しいことはさておき、想像してごらん、光に集まる虫達が、金であるという状況を。虫取り少年は金取り少年に進化しましたね。


 その情報を信じて、日が暮れてから、近所の街灯を見に行った。

 でも、どうやらそれはガセネタだったらしい。お札どころか蛾すらも姿が見えない。ああ、そうかLEDか。


 まんまと騙された僕は、懲りずにネットで耳より情報を探した。

 ネットサーフィンしまくって、気付いたら、WEBマンガを読んでいたりもしたけど、お金飛ぶ事件に関しては、大して何も得られなかった。


 やっぱりという感じで、僕と同じように、トレジャーハンターを名乗る人物も大勢現れた。とあるユーチューバーは僕と同じように、“お金、蛾になった説”を信じて、夜な夜な街を徘徊していたようだけど、オチは、ガセネタでした! だった。知ってるし、と思ったし、その七文字のために15分の動画とか、長すぎでしょと思ったりもした。他に、トレジャーハンター系ユーチューバーの動画をみたけど、情報という点では無価値に思え、さらに、オチはお茶も濁らないほどにつまらなかった。


 嗚呼、お金は、どこかへ消えてしまった。僕の5千円。君はどこへいってしまったんだい。嗚呼、僕の5千円、愛おしい僕の最愛の人。

 ハーモニカでも吹きたくなる気分で、5千円のことを想った。いや千円でもいい。どうせなら一万円がいいけど。

 にしても、本当に、お金はどこにいるのだろう?

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金、飛ぶ 朝山力一 @mazenta

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