豚と嘘

とある地方都市。毎年5,000人を超えるという人口減少に苦しむその県の中心都市の、築40年にはなりそうなビルの一角に、その男の事務所はあった。
その男は、自らを"先生"と呼ばせることに余念がなかった。
男の小さな自慢は、この県でもっとも業歴の長い社会保険労務士事務所を経営しているということであった。しかし、長年の業歴に反比例するかのように、顧問料は県内でも最も安く、事務員も一人しかいないのが通常だ。

男は今日も、巨大な下腹部を、えっちら、おっちらと抱えながら、走行距離10万キロにも迫ろうかという中古のシビックで、事務所にやってくる。
——正月明けのある日。そんな男の事務所に、10年ぶりの来訪者があった。
地方の零細個人事務所特有の課題を描き出すだけでなく、不況下でも倦まずに働く労働者たちの…続きを読む