No.6-1 RPG主人公の生き別れた姉で悪の組織の中ボスに生まれ変わったのでお祭りに行きます

ゲーム”忌み物グリムと妖精物語“の始まりはこの世界の神話について語られる。

パッケージ、cm、紹介動画でしかゲームを知らないプレイヤーに世界観や最も重要視される設定で要である妖精との契約について認知させ物語への没入感と一体感を促すための、俗に言うオープニングだ。


ムービーは切り替わり、回想だと気づかせるためにか少し古ぼけて荒い画像が流れる。


倒壊した建物や崩れた破片、煙、粉塵、倒れ臥す兵士、泣きじゃくる子供、流れる血、まごうことなき戦場。

騎士によって倒される黒い影。

歓喜、希望、油断。

崩れた黒い影に残った“バケモノ”。

厄災。

倒れる騎士。

悔しげに涙を流しながら覚悟を決めた男、申し訳なさそうに必死に子供を抱きしめる女。

その子供に黒い光が収められるところでOPムービーは終了し、木造の小屋の中、ぽつりと突っ立つキャラクターこと主人公シックスの操作説明へと移る。



“「今日は俺の15歳の誕生日……ってことは、とうとう俺も妖精召喚儀式の日だ!」

シックスは嬉しそうな声をあげ、年甲斐もなく飛び跳ねた。

年に一度行われる妖精召喚の儀式への参加資格である“15歳”をようやく獲得したからだ。

「俺、どんな妖精と契約するのかな。たのしみだなぁ。」

住処である小屋を飛び出し、街への道を颯爽と駆け出した。”




主人公シックスが15才の誕生日を迎え妖精召喚の儀式に参加しようとするところからゲームが、物語が正式に始まる。

そうして辛くて悲しくて、けれど幸せになるための少年の冒険譚が幕を上げる。







幾度とループしてプレイした“わたし”の記憶をあらためて整理した。

不思議と“わたし”のゲームの記憶ははっきりと焼きついたように思い出せた。


“妖精物語”のストーリーは大体4つ程の章で構成される。(公式で章分けされているわけでなくプレイヤーが語る際に分かりやすくするために勝手につけた区分である)


序章_物語の冒頭、街での主人公のざっくりとした村八分感の演出と暴走によって主人公の設定(厄災が封じられていること)やそれに至るための回想が語られる。

魔法学校編_暴走の件、15になったこともあり王国都市にある魔法学校に主人公が入学することになり魔法学校で仲間を作ったり学校生活を楽しむ。

厄災編_厄災を封じている子供、と言うことが正式に周囲にバレる。同時期厄災復活を目論むグリムノワールが表での活動を活性化させる。グリムノワールを止めるため、完全な厄災消失のために旅に出る。

(ちなみにこの章に“アノン”ことテトラも登場する。)

結末_グリムノワールとの完全な決着、厄災の果て、エンディングと平和な世界での所謂オマケ要素も含まれている。。


(シックスが厄災を封じた子供である、と言う事実は当時戦いに参加していたような大人や国の重鎮辺りしか本当は知らない事実。魔法学校で出会う仲間たちも実際厄災編になるまで知らなかったし…)


プレイヤー“わたし”の時から「おや?」と最初は疑問に思った。

序章で暴走したシックスを止める騎士は厄災が封印されているということを話す際その事実は秘匿されている、なんて言っていたくせに街で村八分にあっている主人公シックス

厄災のことを知っているようなそぶりをする街の大人たち。


(皮肉なことに平和な子供生活を願って移されたはずの街の大人たちに信頼していた騎士が秘匿の事実を話すんだけどね。)


フィーアは序盤で出てくる敵キャラクターだった。

世話役を放棄し、幼い子供たちを森の小屋で見捨て、少女を追い詰めたことに後悔の念に駆られ続け自分自身を呪った。

子供たちに起きていることを国に報告することすら口封じの魔法で叶わず、犯罪者に身を堕とすことで罪を晒そうとした哀れな暗殺者。


「シックス、悪いが味見をしてくれないか。」

「からい!」

「すまん…」

【ガァウッ】

「そんな呆れた目で見ないでくれないか…」


昼食を用意しながら味見をしたシックスにダメ出しされ、まだ?と半ばナメられている姿は、そんなもの見る影もないけど。

シックスはフィーアに大分気を許しているように思える。

テトラがフィーアのことをお母さんの伝手で面倒を見に来てくれたひと、と説明したからだろうか。


嘘をつく事をしない子供の舌に翻弄されて、フィーアがしょぼんと肩を下げていたが助け舟は出すつもりはなかった。


(正直“わたし”がフィーアが好感を持てるって言えるのが、その口封じの魔法をかけた少し前までここで監視役をしてた騎士共が“クソ”過ぎたってこともあるんだけどね。)


シックスに厄災が封じられたあと、まだ生きていた“お母さん”は王国都市で2人を育てることは難しいと気づいていた。

だから国王に頼み込み、故郷だった街に移り住んだ。

しかし厄災の傷が悪化したことなどもあり、2人が3才になった頃に亡くなってしまう。


王国都市にテトラとシックスを戻すことも案に挙げられたそうだが国王が無理を通し、世話役を兼ねた監視と警護に騎士をつけることで2人はこのまま街に住むこととなる。

まだ国も荒れていたうえに、もしも態とらしく王国都市に戻して厄災を封じた子供だと大々的にバレてしまうことを恐れてのことでもあったのだろう。

あえて田舎の街に置いておくことで厄災の封じ子の存在を秘匿した。


“お母さん”も当然に誰にも、例え故郷の人であってもシックスが厄災の封じ子だとなんて当然言わなかった。

母の故郷で、2人はその日までは真っ当に可愛がられていた。


(まぁ全部くそやろうがおじゃんにするんですけど。)


全年齢のゲームだったために大分と暈されて表現はされていたが。

世話役の騎士たちが割と初日にそれらを放置、放棄するので見かねた街の大人が様子を観にくるのだ。

様子を観に来た街の大人に、あろうことか、昼間から酒を煽っていたその騎士は。


『そいつの中には世界を滅ぼす厄災がいるんだぜ?そんな真っ当な子供のナリをしていて多くの人間の命を奪った!母親だってなんで死んだのやら…死ななきゃいいんだよ、苦しんで生きるのがお似合いだぜ。』


(狭い田舎の街だから、そんなのすぐに広まった。これはやばいと口封じのための魔法をかけて街の外には広まらないようにしたみたいだけど、遅いんだよ。無償に愛せる子供じゃない。1人や2人心配しても、こんな狭い街で表立って庇いでもしたら自分や家族がどうなるかわからない。そうして“なんでもしていい作品”みたいに成り果てた。)


ゲームにおいても、この世界においても、街で村八分にされて針の筵の中どこにも行けずに2人ぼっちの双子はこうして出来上がる。

罪の共有意識とは恐ろしいもので、最初こそ唯一狼狽えていたらしい描写があるフィーアも結局“あの日”までは2人、というよりも主人公シックスの境遇を当たり前にしていた。


(ゲームじゃテトラが失踪する事件で完全に正気に戻って発狂して、自分達がしてきたことを国に報告しようとするわけだけど。結局それ引き合いに出されてくそやろうに口封じの魔法をかけられて、最終的に“あぁ”なる。)


今のフィーアはテトラが制止したことで国への報告を差し止めているため、口封じもかけられていない。

それでもまだここに住んでいたいから、と嘘までついて。


(あのくそやろうが国で悠々自適してるのは腹立つけど、今だとお兄さんフィーアが報告しようとしても、邪魔されかねない。…………必ず地獄に落としてやる。)


生きてて苦しむのがお似合いなのはそっちになる日が、楽しみだなぁなんて。

結局わたしは清廉潔白な可愛いこにはなれないんだよなぁ。









【ガゥ】

「ん?どうしたの、サンク。」


ちょん、と爪で傷つけないように恐る恐ると言った様子で腕を突かれ見下ろせば何かを咥えて見上げられる。

見慣れない紙に首を傾げる。

とうとうお腹が空き過ぎて抗議のためにテトラに持ってきたのか、とも思ったが純粋に見慣れない物を発見したので報告に来たらしい。


【ふすん】

「ふは、ありがとーね。」


少し顔を上げてドヤっと鼻を鳴らすサンクの頭を撫でる。

出会った時とは打って変わり、主にテトラの手によってシャンプーリンスーブラッシングを経てウルツヤかつもふもふマシマシ毛並みへと進化したサンクの手触りは至福と言っても過言ではない。


「ふーどまーけっとかいさいけってい!めずらしいきょうどりょうりやふだんおうこくだけにうっているたべものなどがこのじきだけあつまります!ごさんかはだれでもだいじょうぶです…?」


[フードマーケット開催決定!]

珍しい郷土料理や普段は王国だけに売っている食べ物などが期間限定で“ロマの街”に大集結!

あのフードマーケットがかえってきた!

料理品だけでなく素材の販売もありますのでお土産もご購入できます!

参加無料、誰でも歓迎です!

〜今回の目玉食材〜

王国都市で⭐︎3を取った“バードブレイン”による“具材たっぷりらぁめん”

氷の国より初出店、“ラプラ”の色を変える“ジュエリーアイス”

他にも“ジンジャーココア”や“ラビットアップル”、“海藻ばくだんおにぎり”などなど目移りしちゃう食べ物が目白押し

ぜひぜひご参加ください!


*日によっては販売が終了しているものがある可能性があります

*魔法動物を連れてのご参加の場合はテイムの紋章“蒼”のご提示が必須となります

*迷惑行為は場合によっては騎士団に報告しますのでご容赦ください



顔を上げると先ほどまでフィーアの周りをうろうろとしていたはずのシックスが間近にいて、驚いて肩が跳ねた。

それほどまだ難しい単語を読むことができないシックスだが、テトラの言葉にフードマーケットとは何か?を理解できたらしい。

見間違えでなく同じはちみつ色の瞳がきらきらと輝いていた。


「あ、そうだった。実はこくお……じゃなくて、俺の…その…上司から送られてきて、参加したいならしておいでってことでな。」


厄災妖精のことも、フィーアをただの親切で面倒を見てくれているだけのお兄さんだとしか知らないシックスのために濁した言葉が“上司”。

顔を隠して笑いを堪えた、間違えてはいない。


(フードマーケットかぁ、ゲームでも不定期に開催するミニイベントでマーケットっていうか屋台ひしめくお祭りって感じだったような……)


フードマーケットでしか手に入らないレア素材などもあるので開催の案内があるととりあえず一通り見て回ったのが懐かしい。

プレイヤー同様に主人公シックスも初めて参加するときにフードマーケットのことは知らない様子だったので子供時代には参加できない物だとすっかり忘れていた。


(ゲームでのフィーアが案内を破棄したのか、テトラが失踪した直後だったからそもそも案内しなかったのか、なのかな。まぁ別にその辺はいいか、どうでも。)


漫画的表現ならきらきらしたエフェクトがテトラの全身に刺さっていた。


ゲームの主人公は食事系アイテムの取捨はプレイヤーに当然依存するため好き嫌いは愚か要するに食べれるものは食べる健啖家だった。

元より生活のせいで、幼いシックスも同様に生きるために食事として食物を腹につめる、残さない子供。

テトラが“わたし”の影響もあって料理や合成を大人並みにできること、そしてフィーアの登場によってレパートリーが増えたこと、ようやくと子供らしいちょっとした我儘が言える相手ができたこと。

まっとうに”美味しい“を強請れるようになってここ最近のシックスは味覚がようやくと発達し、好きや嫌い、辛いや苦いの主張ができるようになった。


お腹いっぱい食べたい、から美味しいものをいっぱい食べたい、に変化出来たのは良い変化といえる。

聞くまでもなく返事は分かりきっていた。


「シックス、いきたい?」

「い、いいのっ!?」


それでも、街に降りることだって精一杯のシックスがどうしたって自分からは口にし難いだろう事をあえて聞けば「そんな贅沢が許されるんですか!?」みたいな驚き方をした。

ほっぺたを抑えて自分自身を落ち着かせようとしながら、ゆっくりと上目遣いで頷く姿はあざといくらいかわいいなぁ、なんて。


「ふは。おにいさんがつれてってくれるんだって。おいしいがいっぱいたべれるよ。」

「ほ、ほんと!?やったぁ!」


両手を上げて飛び跳ねるシックスの喜びようが見れただけでフィーアを引き込んだ甲斐があったものだった。


【ヴー…】

「ここならサンクもいっしょにいけるよ。たのしみだね。」

【ギャワッ】


置いていかれるのかと耳を垂らしたサンクにそう告げると、ピンと張った尻尾を大きく揺らして喜びのあまりテトラに飛びついた。

小柄なテトラがそのまま後ろに転がってしまったのは、ここ数日でのお約束になりつつある。







フードマーケット前日の夜。

うとうとと眠りにつきかけていたテトラとは反対に、シックスはごろごろと寝返りを繰り返していた。

元々“おかあさん”が更に幼かったテトラとシックスと共に寝るためにと買った大きめのベッドは、小柄な2人だけだと寂しいくらい広い。

少し前までは広さも生かさず2人でぎゅっとくっついて眠っていたベットだったが、それをいいことにとサンクが生まれた時からここにいましたって顔をして一緒に寝っ転がる。

寝転がっては時折手持ちぶたさにサンクを撫でたり抱きしめたりとしてもシックスの体には眠気が一向にやってこなかった。


「……しっくす…ねれないの…?」

「…ちょっとだけ……」


テトラが半ば寝つきかけていたことを分かっているから、起こしてしまったことへの申し訳なさを含んだ言い訳じみた言い方だった。

口をもにょもにょとさせて服の端を掴む。


「ふは…ちょっとて、なぁに…?ほらぁ、おいで…」


腕を広げゆらゆら手を揺らして「ぎゅー」するポーズ。

ぱっと顔を明るくさせたシックスがそこに飛び込むと、慣れた手つきで抱きしめた。

2人分のどくどくした心臓の音と子供特有のあったかい体温、怖いことがあってもいつだってこれがあれば安心して眠れた。

今日は初めて、楽しみで嬉しくて、そういう意味でのドキドキだけど。


「あした、たのしみだねぇ。」

「…おれ、おそとにあそびにいけるなんておもってなかった。」

「……そうだね。」


ゲームの主人公シックスは何も知らない。

初見プレイヤーの知らない事を主人公が訳知り顔で完結して進んだり、知ったかぶったような言い方にならないための処置だったのかはテトラには知りようがない。

結局そこに至るための設定が“厄災を封印されていた子供”で、“ひとりぼっちの子供”。

街に降りても針の筵、何処かに行くにも許可がいって、そんな我儘を言う相手すら与えられなかった。


テトラもシックスもこの小屋以外の世界を知らない。

その末路が敵役と英雄様の2人ぼっちの仲直り。


(幸せに、なりたい。ありふれた幸福が欲しい。身を削って、死にぞこなって、そうしてようやく生きていてよかったなんて思えるような幸せなんて欲しくない。)



「シックス、あした、たのしみだね。」

「うん。」



同じ言葉を繰り返した。

シックスにとってもテトラにとっても嘘偽りのない言葉には違いなかった。

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