幕間

短編未満の番外編3部構成




・“テイム紋章の証”獲得イベント発生に伴い特定クエストのクリアが必須となります



[盗賊を捕まえたぁ?フィーちゃんって今やんごとなき方かなんかの護衛に駆り出されてるんじゃなかったか?]

「フィーちゃん言うな。あー…その人の住む付近の街を狙ってたんだよ。まぁ、捕まえたって言ってもだいぶ末端ぽいから本隊の情報もろくに知らないだろうけど。」

[んでぇ、そんなフィーちゃんがこの俺様になんのよーう。捕まえた奴らは駐屯の騎士に引き渡したんだろー?]

「フィーちゃん言うな。お前今確か魔法動物管理部の主任かなんかだったよな。」

[おーうともよ。元々第4騎士団は魔法動物と共にある為の騎士団だからな。俺様天職。ところで俺様の相棒最近気になる子ができたみたいでさ、めちゃうじうじしてんのよ。でもさぁ俺様恋とかわかんないのよ、どうすりゃいいかな。]

「そうか、大変だな。その盗賊が魔法動物をテイムしては違法に離して街を襲わせるっていう手口なのは知ってると思うんだが。」

[むなっくそわりぃ手口だよな俺様ぶち殺してやると決めてる。]

「あぁ、同意見だ。それで奴らが捕らえていた魔法動物の内一頭、引き取りたい子がいるんだ。」



[えぇ!?フィーちゃんに初めての相棒ができるってこと!?なーんだよ早く言えよどんなこ?可愛い系?かっこいい?綺麗系?いやぁ一言で言うのは難しいよな!写真とか送ってくれよ!馴れ初めは?]



「テイム紋章の証送ってくれ。」

[フィーちゃんの契約妖精月だもんな任せろよめちゃいいの送るなそれよりどんな子属性とか何型とかあるじゃん写真とか送って]

「早めに頼むな。じゃ。」


怒涛の間に通信用の魔法道具をぶち切りしたフィーアは深い深いため息を吐いた。

通話の相手は騎士時代からの数少ない友人。


妹を失ってから人付き合いが悪くなった上にシックスの護衛の任を受けたフィーアに、時折思い出したように通話をかけてきてはべらべらと一方的に喋ってくるのを鬱陶しく感じた時がなかったわけではない。

それでもフィーアに変わらない態度で接してくれる信用のおける友人だった。


それはそれとして一を聞けば十とんでABCまで話してくるのが玉に瑕だった。


‘フィーアの疲労と引き換えに“テイム紋章の証”獲得クエストをクリアしました’





・テイム紋章の証の使用には“名付け”が必須となります


テイムに際し、いつまでもサンダーウルフ種族名と呼ぶわけにもいかなかった。

紋章の証を使用するにあたって当然に必要なのが、名付けだった。

ゲームでもテイムした魔法動物にニックネームを付けることができる機能があった。


当然、名付けはテトラに一任された。


……ニックネームでは済まされない事態だ。

一日中、頭から煙が出るほど悩んで悩んで“わたし”の知識すらフル回転させた。

恐らく私史上1番に数えれるかもしれなかった。

それでもサンダーウルフを迎えたいと我儘を言ったのはテトラだった。

ゲームの時にテイムした子と同じ名前をつけるのも忍びなかった。


テトラの隣で寄り添ってくれるその姿に、ようやくと決めた。


『きめた、サンク。サンクってなまえにする。』


テトラとシックスの間の意味を持つ名前、ゲームでは決してその意味を持つ名前だけは登場しなかったから、祈りを込めて。

響きも似ているために覚えやすいだろうという意図もあった。

かくして、サンダーウルフはその日から“サンク”になった。






・アイテム”じーじへのおてがみ“を獲得しました


「国王陛下、フィーア・シャッテンより定期報告の手紙が。精査の上、問題はないようです。」


荘厳な一室、騎士の報告を受けた王は蓄えた髭を撫でさすりながら受け取った報告書に目を通し始めた。


「ふむ……ほう、あの・・ブルーローズの森にサンダーウルフとな。近頃活動を活性化しておる盗賊団の末端か…フィーア・シャッテンがおって助かったわい。むむっ。」

「どうされました。」

「なんと、なんと……あのテトラちゃんがわがままを!?サンダーウルフに懐かれるなど大人のテイマーでも難しいだろうに、あの子の優しさをわかるのじゃな…してテイム紋章の証は。」


威厳のある面持ちで難しい表情をしたかとおめば、でれりと顔を緩ませた。

王専属騎士は見慣れているので今更だが、慕う他の騎士が見たら二度見必須の顔面に違いない。


「第4騎士団よりテイム紋章の証をフィーア・シャッテンに、と既に送られています。こちらも精査の上問題はありませんでしたので許可を出しています。」

「うむ、よきにはからえ。しかし…今までのフィーア・シャッテンからの報告では随分と子供らしさが欠けておった…幼いとはいえ親を失ったことに対することを理解しておる子じゃ、フィーア・シャッテンに少しでも気を許せたのであれば、良いことじゃ…」

「……国王陛下におかれましては、あのおふたりに対して思われることはないのですか。」


俯いた騎士が想いを馳せるのは国を転覆間近にすら追いやった、世界が滅亡に瀕した厄災。

多くの命は奪われた、大勢の民の“大切”が失われた、王ですらも例外には漏れない。


瞼を伏せ、ゆっくりと口を開いた。

その声はひどく悲壮を滲ませ、けれど柔らかな色を含んでいた。


「思うておるよ、しかしそれは我が国の子としてじゃ。……あれは正しく厄災じゃった…災害と言い換えても良い。多くの民が失われた、多くの悲劇があった………それを治めたのはあの騎士であり、そして…幼き子じゃ。厄災は封印されているのではない、厄災を封印させてくれたのじゃ、間違えてはいけない、残された我らは彼らの遺してくれた今を、間違えてはいけないのじゃ……」

「御意に。」


そこには確かに、愛があった。






「ところで額とかないかの。」

「はい?どういったサイズのものでしょうか、すぐに用意させますが…」


唐突な問いかけに、騎士は狼狽えながらも問いかえす。


「いや見てみよ、同封されておる報告書とは別の紙にな、テトラちゃんとシックスくんの名前が書いてあるんじゃよ。お名前の練習しとったのかのぅ、テトラちゃんはもうしっかりお名前書けるようじゃがシックスくんはちょいとまだ苦手なようじゃのう。これ額に入れて飾ろうかと…」」

「国王陛下、流石に国宝に挟んで一般家庭における微笑ましいものを飾るのは流石に…!」


制止の声すら王からすればノイズに等しい。

ぬいぐるみとかに対するようにぎゅっと胸元で手紙を抱きしめた。

いい歳したおじいちゃんが恋する乙女みたいな仕草をするんじゃない。


「初めてのじーじへの手紙じゃぞ!?これを飾らんでなにをかざるというんじゃ!わしにとってはこれも国宝じゃ!」

「陛下一方的な爺馬鹿はおやめください。あと手紙ではないです。」


騎士の必死の制止によりかろうじて自称“じーじへのお手紙”を玉座の間に飾るという王の暴挙は止められた。

しかし玉座のチェストにそっと入れられているので、王は諦めてはいなかった。


‘自称“じーじへのお手紙”装飾の阻止イベントをクリアしましたが完全阻止には至りませんでした’

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