No.5-2 RPG主人公の生き別れた姉で悪の組織の中ボスに生まれ変わりましたがイベントをクリアします


森から街を見た西方部に、それはあった。


街は広大な草原とブルーローズの森で囲まれている。

そのどちらも小動物と称されるような魔法動物たちしかおらず、草原には行商らが通るためにと砂利の道が伸びているがその程度、都会のようにきちりと制定されているわけでもない。

これでは滅多に街の外を警戒すらしない住人たちでは絶対に気がつかないだろう。


草原にぽつりと置かれた大きめの岩。

その岩の下にへとほとんど色を失った線が伸びていた。

地下に隠れ家を作る、というのは“わたし”からすれば随分と手間のかかることだが奇跡を実行する魔法であれば大した労力ではない。


「俺は一体何をしてるんだ………6歳の子供に言いくるめられるし…結局こんなところに連れてきてるし…」


自己嫌悪に項垂れるフィーアには悪いが罪悪感はない。

森を抜けた辺りで慌ててテトラたちにかけられた魔法は存在感を消すとか、そういう類の効能なのかこんなに近くに寄っていても中にいる連中の反応は一切なかった。


テトラの行動心理は結局のところシックスの平和のために築かれる。


(盗賊団が街を襲うだけ・・で済むなら兎も角、もしも森にやってきたら?街の人たちが話したら?あのクズが施した口封じの魔法はあくまで厄災を封じた子供であるということに対して、シックスの存在そのものじゃ、ない。)


ゲームで街は盗賊団に襲われなかった。

すでに原作との乖離はテトラ自身の手で行われている。


(……万が一なんて行わせやしない。)


今、この場にいる盗賊たちはゲームでの本来ならばグリムノワールによって何らかの手段で処理される。

サンダーウルフを森に放すことすら出来ず。


主人公シックスは盗賊団の存在を、物語が始まるまで知らない。街にもそんな痕跡ひとつだってなかった。今ここで一網打尽にしても本陣は末端に対して、トカゲの尻尾切りで終わらせてしまいになる。)


成果を上げれなかった、連絡が途絶えた。

もしも本陣にとって気にかけるような人材であれば逃走したのではないか、死亡に際して何か手がかりを掴まれてはいないか、調査をする筈だ。

そんな事をすれば幾ら何でもフィーアが何らかの手掛かりを掴んでいてもおかしくはないのに、国の騎士団は盗賊団についての情報を物語が進展するまで結局掴みきれていない。


____結局こんな平和しかない平凡な街を襲うようなことに回されている人材である、というだけだったのだろう。


もしも死んでも、騎士に捕まっても、自分達に繋がることはないというだけの。

使い捨ての道具だったのは、結局何に対してだったのだろうか。


「おにいさんここまできちゃったんだからもうかんねんしてよ。どうせわたしたちだけにするのもしんぱいでしょ?」

「こんな所に連れてきたことの方が心配なんだが??あぁだめだやっぱり今なら帰ろ」


【グオオアァアアアアアア!!】


フィーアの声は遮られた。

バリバリとした轟音が大気ごと焼き焦がし、稲光が走る。

尚も大人としては真っ当な意見を口ずさんだフィーアの説得も虚しく、テトラ自作の拙い傷薬で持ち直したサンダーウルフの咆哮と共に雷鳴が弾けた。

感情のままに落とされた雷によって岩にヒビが入り、ごろりと割れた。

今更ながら、森で追われていた時に魔法を一度でも使われていたら一巻の終わりだったなぁと少し冷や汗が流れた。


その下にあるポッカリと空いた穴、わぁわぁと騒ぐ声。

幾らフィーアが見つからないように細工をしていたとはいえ警戒くらいしておけよ、と呆れてものも言えない。


サンダーウルフが牙を剥き唸り声が地面を這う。

後ろ足で苛立ち混じりに地を掻いたその頭に小さな手を乗せた。

三角の耳が後ろに傾く。


「かみころしちゃだめだよ。」


それに納得をしたのかはわからない。

一声吠えたサンダーウルフは跳び上がり岩の下の穴へと降りた。




フィーアは月の妖精と契約を交わしている。

ゲームにおいて妖精や魔法動物は属性という名称で区分されたその分類分けはこの世界にも存在する。


魔法学校編でようやくと妖精のことに対しての知識を得る主人公シックスは妖精によってその属性が異なることを知る。

序盤の戦闘チュートリアルはそれぞれの異なる属性を持つキャラクターを操作し属性ごとの特性や、その相性について実践経験でプレイヤーに説明させる為のものだった。


天幕たる空の眷属、風は全てを巡りその息吹は他者すら干渉する“天”

ゆりかごたる大地の眷属、大地より力を授かり植物の恵みを散らす“地”

虚を照らす光の星の眷属、極光は癒しを与え闇すら浄化する“日”

安らぎの陰の星の眷属、影に紛れ安堵と恐慌は夜を映す“月”

始まりの焔の眷属、紅き行燈と蒼き燭台に宿る恐れを知らぬ“火”

源たる海の眷属、静寂の凪と獰猛な嵐を従え全てを飲み込む“水”

最も新しき眷属、天より与えられた神秘たる雷鳴は神外と生った“金”


登場するキャラクターは主人公を除き全員がこの属性によって区分された、属性相性などを加味しパーティを組むのも戦略のひとつだった。


テイムは天属性に組み分けられる魔法だ。

月の妖精を契約しているフィーアには使用することができない魔法なのだ。

とある特定の魔法アイテムを使用すればフィーアであってもテイムを使用することはできるが、元々その気もないフィーアは当然の如く所持などしていない。


なにが言いたいのかというと、テトラを気に入っているからなのか彼女の言葉に従うサンダーウルフは飽くまで使役しているように見えているだけ・・

気に入っていないらしい上にテイム契約を交わすこともできないフィーアの言葉など聞く気もなく、だから実力行使しかないわけだが。


(あの2人ずっと背に乗ってるし、なんか気に入ってるし……俺…あの言葉に言いくるめられたし……)



『ねぇおにいさん、みたくないの。とうとつで、りふじんで、まぎれもないぼうりょくできずつけられたこのこがうちかって、みじめにたおされるやつら。』


『そういってやることくらいゆるされるでしょう。』


____あぁ、わかるとも。

そしてフィーアもサンダーウルフも相手を間違えて幼い子供2人を殺しかけた。

毒を吐いて倒れた姿を見てなお、グレイリーフを置くことだけしか、出来なかった。


妹が誇ってくれた兄でいたかった、その信頼を裏切ったクソッタレはどいつだったか。

だから今度こそ間違えたくなかった。

どうしたって引く気がないのであれば、引かなくとも傷など負わないように、守りきる。


元々そういう役目だった。

子供っていうのは理不尽で、無垢で、我儘で、きらきらしていて、メントウクサイ生き物で、そんな子が絶望なんてせずに子供時代を送れますようにと願われたのが“フィーア・シャッテン”だった。




終ぞ使わなかったナイフを構え、フィーア自身も穴へと飛び込んだ。









_____その先にあったのは敵意と憎悪だけだった。

不思議とテトラもシックスも、怯えはしなかったけれど。


(隠れ家っていうより、子供の秘密基地みたい。それだけ見つけられるわけないとでもたかを括ってたんだろうけど。)


地下に掘られて作られた隠れ家には魔法動物が詰められた・・・・・金属製の檻が乱雑に積んであった。


「な、なんだ!?サンダーウルフがなんでここに?!」

「あいつは森に放しただろ?なんでここがわかったんだ…!」

「餓鬼を乗せてやがるぞ、誰だアイツら!」


うっすらと橙色に光る裸の電球が所々に掛けられ、積まれた食糧や散らかった酒瓶、お世辞にも綺麗だなどとは口が裂けても言えない有様。


(………シックス、連れてこない方がよかったかな…)


ここで初めてテトラは後悔した。

置いていくことは論外で、でも盗賊団をこのまま逃す恐れのある中で放置することもしたくなかった。

元々シックスに森の小屋だけの狭い世界で子供時代を過ごさせることないようにの第一歩が“これ”は流石に、ちょっと…


(……………わかってたでしょ私…こいつら大したことない小悪党って……でもゲームの盗賊団はもっと小賢しい感じのまさしく敵役!って感じだったから……まさか…)


「こんないいとしこいたさけにおぼれたおっさんのごみやしきみたいなかくれがとは…」

「あぁ?そこの餓鬼いまなんていった!?」

「……きょういくにわるい、きたない、くず…さいあくのさんけー……!」

「おじさんたちも傷つくんだけどな!?」

「どうぶつたちきずつけておきながらひがいしゃぶらないでよ。」


隠れ家はそこまで広くはなかった、檻が積まれていることも理由の一つだろうが長居する気もなかったとはいえこれはない。

檻の中の魔法動物たちが地上から突然現れたテトラたちに威嚇の唸り声をあげる。


そのどれもに、赤く光る紋様があった。

テイムされた魔法動物にはその証として“テイムの紋章”が刻まれる。

その親密度、関係性に伴い色が変化するのが最大の特徴でゲームのサブイベントでは特定の親密度以上でなければ参加できないものもあった。


赤は最低ランク、場合によっては逮捕の可能性すらある状態だ。

(特に獰猛な種であればテイム直後の場合は赤状態であることがあるので、必確ではない。)


「シックス、つれてきたのはわたしだけどめをとじてるんだよ、きたないから…」

「はーい?」

「さんだーうるふもかみころしちゃだめだよ、きたないから。」

「どんだけ汚いいうんだよォ!」

「汚い。」

「めっちゃ流暢に喋りやがって!くっそ、やれお前ら、所詮餓鬼2人と俺たちにテイムされた間抜けな狼だ!」



「は?こんなとこにわたしたちだけでくるわけないでしょ、ってことをかんがえれないからざこっていわれるんでしょ。」



わぁわぁと喚いて、テトラの酷く口の悪い罵りに反応をするだけ。

サンダーウルフがテトラの指示を聞き威嚇するだけだったから勝手に見くびって。



そんなんだからとっくに背後をとっているフィーアにも気がつかないのだ。



フィーアは月の妖精と契約している。

夜闇に紛れ月影に潜むことが、彼の戦い方の真骨頂。


サンダーウルフの雷撃さえなければ隠れ家を発見されていたことにも気がついていなかったらしい彼らが、そんなことに気がつく訳もない。


「え?」


一瞬にして意識を失わされたことに間抜けな声。

鞭のようにしなり襲いくる影の刃に引き攣った叫び声が上がった。


「ぎゃあぁぁああ!な、なんだ!?」

「たすけてぇ!」


彼らからすればよっぽど、姿を影に潜ませ攻撃を繰り出すフィーアは化け物然としていることだろう。


「こ、この餓鬼なにしやがったがぁ!」

【ガァッ】


テトラに襲い掛かるということはつまり、テトラを背に乗せているサンダーウルフへ向かうということ。

碌に考えもせず特攻した盗賊は忘れているのだろうか。

サンダーウルフの腹の短剣は既にない

完治はしていないが魔法嚢も治癒されている。

だから岩が割れたのご存知で?


放たれた電撃に体を麻痺させ、そのまま気を失った姿は哀れに尽きる。


「ていうかここにあなあけたのこのこのかみなりだし。ばーかばーか。」

「ねぇちゃんおこってる?」

「むかついてるかも。」


きちんと目を瞑ったままのシックスの言葉に素直に頷いた。


あっという間に戦意喪失戦線離脱、拘束された盗賊たちに白けた目を向ける。

こんなにこんな・・・な癖に、よくもまぁ自信満々でいれたものだ。


(…末端の末端……盗賊団の本体の情報とか知らなそうだし、これ結局シックスが盗賊団の相手することになるのかな、騎士の人たちが捕まえててくれればいいのに。)


テトラはゲームの物語などどうでもよかった。

“わたし”が好きなゲームだろうと、原作なんて既に崩壊してるんだから。


どうしてシックスが国が追うような盗賊団を相手しなければならない。

メインイベントの進行で偶々関わってしまっただけの主人公は当然の義務のように盗賊団討伐を求められる。

それがゲームの主人公であるから、の言葉で片付けられるのは結局ゲームだからだ。

ただ厄災を封印されただけの学生の主人公が絶対にしなければならないことじゃ、もとよりないだろう。


(そこに友人や仲間とかが関わってるとかならともかく、道すがらに絡まれるってだけだし。……まぁ、結局はお兄さんフィーアに任せきりになっちゃうことだったから、こんなポンコツで逆によかったかぁ。)


もしかしたらフィーアがいなくてもなんとかなったかも、なんて思い上がれるくらいにはポンコツだった。

サンダーウルフがテイムされてしまったのが疑問に思えるほど。


(この子小柄だし、まだ子供なのかな。ウィンディーネの水薬だけじゃなくて身の丈に余る魔法道具とか持ってたんだろうなぁ。)


木箱からチラリと覗いて見えた少しだけでも、ゲームで見たことのある魔法道具があったのでテトラの推測は間違えていないだろう。

それを手に入れたのも褒められた手口ではないだろうに。


【ヴヴヴ…】


ザリ、と爪が砂利を踏んだ。

呆れてしまうほどのポンコツでもサンダーウルフにとっては当然の憎悪の対象だ。

意識を失えなかった盗賊が、牙を剥きその鬱憤を晴らそうとするサンダーウルフに表情を青ざめさせた。

凄惨な野獣の地の底から響く声。


生殺与奪の権利は既にサンダーウルフにあった。














「さんだーうるふ、あんなくさくてきたなくてきょーいくにわるいやつくちにいれたいの?たぶん……すごい……きもちわるいよ…」

「えっ、あのおじさんたちたべるの?おれもねぇちゃんがただしーとおもう!」

【ヴェッ】


幼く、舌足らずな故に最も残酷な一言だった。

ぺっ、と唾を吐いた。

テトラの若干引いた声に想像したのか、心の底から嫌そうなえづきにもにた鳴き声だった。


「それにねさんだーうるふ、きずをつけるだけがきずじゃないんだよ。ごにょごにょょ…」


ひそひそと三角の耳に口を寄せたテトラの囁きは多分、心の底から心を折ってやろうとしているんだろうなァ、とフィーアは遠い目をした。

だいたい、テトラのことが分かってきた。


テトラの内緒話に耳をぴるぴると震わせた後、大きく鼻から息を吐いた。

今からメチャクチャ嫌がらせしますよ、っていう悪戯坊主みたいな表情だった。


【ガァッヴ】


眩い閃光と共に放たれた雷撃はフィーアが驚くほど殺傷性を伴わなかった。

否、攻撃性を低くしても雷撃であることに変わりはないので皮膚がうすらと焦げ、衣服が所々裂けてはいたが特筆すべきは頭部・・である。


髪がチリチリに焼け焦げパーマを失敗したよりも酷い膨らみを作り出したかと思えば、威力の高い電撃の線が走ってしまったのか剃り込んだように特定の場所だけ髪の毛が焼けてしまった。

剃り込みというヘアースタイルは自身で、美容室で、こだわり完成された芸術性を持って演出されているからこそお洒落なので、ただ雷が走って焼け落ちた姿は哀れとも言える。

悲しいことに雷は高温性で、髪焼け落ちている、つまり毛根もお亡くなりになられている可能性しかない。


傷薬も万能ではない。

あまりに時間が経てば完全な効力を失うし、ランクの低い物であれば完治に至るまでの効果を発揮しない。

(サンダーウルフの腹に傷跡が残ってしまったのもこのせいだ。)


これから騎士を呼び、牢に入れられるまでの間死に体でもない彼等に傷薬が使われることはないだろう。

哀れまれたとしても犯罪者として囚われた彼らに高ランクの傷薬を与えられることも、またないだろう。



数を与えられ、屈辱を与えられ、生きる事を利用されたサンダーウルフの苦しみを考えれば、たかが、でしょう?



「ふん、ざまーみろ!」



子供に馬鹿にされて、たった1人の騎士に敗れ、利用していると思っていたサンダーウルフに笑われ、みっともない姿を晒して生きていくのはさぞ惨めなことだ。

ざまぁみやがれ、だっせーの!


フン、と馬鹿にした笑いで幾許かだけ溜飲が下がったのはサンダーウルフも同じだったのかようやく、その牙を収めた。


ぴょんこ、とシックスがサンダーウルフの背から飛び降りた。

テトラもいい加減ずっと背に乗っているのも申し訳なくて降りると、するりと尻尾がテトラの腰に巻き付いた。

シックスは檻の中に詰められた魔法動物たちを見遣り、眉を下げた。


「このどうぶつさんたち、どうなるの…?」

「…騎士団が責任を持って預かることになるだろうな。」

「おうちには、かえれないの?」

「人間の匂いが随分とついているから…すぐには、難しいだろう。」


紋章を刻まれた魔法動物たちはその意に反して人間の匂いや魔法痕がつけられてしまっている。

テイムされた魔法動物を自然に還すというのは、非常に難しい問題だった。

匂いや魔法痕をきちりと消し、自然に還すことが出来るようにとする機関が専門の騎士団主導で存在してはいるもののどうしたって時間がかかってしまう。


「じゃあ、あのこは?」


テトラに擦り寄るサンダーウルフに、フィーアは頭が痛いと額を抑えた。



魔法動物を一般家庭で飼育することは原則的に禁止されている。

しかし仲間として、相棒として、友人として、家族として、魔法動物を迎えたいと思うものは少なくない。

そのための“テイム”で“紋章”だった。


結局無責任に魔法動物を家にへと迎えることは愛でも許容でもなんでもなく“無責任”だ。

何かがあった時、責任も取れず野生だなんだと言い訳されれば傷つくのは魔法動物の方だ。


例えどれだけテトラに懐いていようとそれだけで迎えることはできない。


(ていうかなんでこんなに懐いてるんだよ…狼型って実力行使でボスって認めさせたりしない限りこんな風に懐かないって聞いたぞ…)


テイムの契約が結ばれていない。

テトラは契約妖精がまだおらず、フィーアは月の妖精と契約している以上天属性のテイム魔法を使えず、シックスはシックスなので不可。

サンダーウルフは結局騎士の専属機関に預けるほか、ないのだ。


サンダーウルフの尻尾が頼りなさがにテトラの腰に巻き付いても、子供のわがままでは通せないこともあった。














【ゥゥゥゥゥゥ】

「ばいぶれーしょん。」

「だーかーらー!説明しただろ!?」

【ヴヴヴヴヴヴ】

「威嚇をひどくさせるんじゃない!」



『おにいさん、わたし、ほんとうはたんじょうびぷれぜんとほしかった。これからさきいっしょういらないから、いっしょうぶんのぷれぜんとをいまちょうだい。』



テトラが望んだプレゼントは魔法道具“テイム紋章の証”。

天の妖精と契約を交わしていなくとも魔法動物をテイムすることができる、一回使い切りの魔法道具。


テトラには責任があった。

人間にここまで慣れさせてしまった責任と、サンダーウルフの復讐を手伝った責任と、そして、心を寄せてしまった責任があった。

無責任に背負っていい命でも咎でもない。

そしてほんの少しの画策。


(この子は、きっと私を裏切らない。厄災なんて関係なくシックスを傷つけない。)


幼い子供であれば常套句の「一生で一度でいいから!」はテトラが言えば信憑性があった。

まだ5歳児の子供の願いとは思えないほど、誕生日プレゼントなんてただの体裁で口実だなんてこと、フィーアにだってわかった。


『………わかった。』


それに対して一生に一度じゃなくていいから、来年もあげるよなんて言ってあげられる資格がフィーアにはない。

今まで散々誕生日なんて無視していた分際でそんなことを言っていいとは思えなかった。


テイム紋章の証はすこし値が張るがフィーアからすれば端金(ちょっと言い過ぎだが事実だ)で、流石に街にはないが王国都市であればすぐに用意できる代物だ。

しかし問題があった、1番の問題だ。

例え魔法道具を手に入れても解決できない最もな問題があった。







テイム紋章の証は、魔法道具だ。

魔法道具は魔力を必要とする。

テイムは魔力を流した術者を主人とする。

人間は妖精と契約をしない限り魔力を持つことができない種族である。


シックスはシックスなので不可。

テトラは契約妖精がいないので不可。


【ヴヴヴ…】


サンダーウルフを森の小屋へ迎え入れるには必然的にフィーアがテイムするしかない。


「テトラが妖精と契約すれば契約の変更は出来るって言ってんだろ!?」


サンダーウルフはフィーアには懐いていない。

テトラが1番で、シックスは背に乗せてやるほどには認めてる。

フィーアは、威嚇する。

仕方ないことだったとは言え仕方ない事実だ。


「俺にテイムされるか、騎士団に連れられるかの2択だ。」

「さんだーうるふ、むりしないでいいんだよ。きみがいやなら、うけいれるひつようひいの。わたしがわがままをいってるだけだから…」


するりと頭を撫ぜたテトラの手に擦り寄った。

手を離そうとすれば慌てて伸びてもっとを促すその様子に、結果は決まっていた。












色々と端折るが、後日森の小屋ではテトラに満足げにブラッシングされるサンダーウルフの姿があった。

その体には青色の紋章が淡くひかっていた。




RPG主人公の生き別れた姉で悪の組織の中ボスに生まれ変わりましたが“盗賊撃退クリア後発生の新たな家族”イベントをクリアしました

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