第27話 白神吹雪の最高で最悪な過去①

雨の降る夜の路地裏で彷徨う男の子が1人、時雨家当主として可哀想な子どもを無視する訳にはいかぬ。


眠ってはおるが、こんな雨に当たりながらでは体に悪いだろう。


「白神、この子を警察に届けるがもし引き取り手が見当たらなかった場合、儂の養子として迎え入れる。迎え入れたあとの世話を任せたい」


「お任せ下さい当主様」



※※※



僕は知らない場所で目を覚ました。天井がある、ベットがある、ここがあの家じゃないことは理解出来た。


「おはようございます義弟様」


「……」


この場所もこの人も知らないが少なくともあの家よりは過ごしやすいだろう。暴力をしてくる親もここには居ないんだから。


「まだ信用出来ないと思いますが、今日から義弟様の母親となる白神詩しらかみうたと申します。義弟様は当主様の養子ということになっていますが白神の姓を名乗ってください」


誰が母親になろうと前の生活よりまともに生きれるのならそれでいい。養子がどうとか知らないけど僕は捨てられたんだから誰かに拾われてもいいでしょ?


それから僕はこの人と2人で暮らし始めた。髪色のことで虐められることはあったけど前までされてたことと比べたら何も思わない。


仲間はずれにされたって、僕はいつもそうだったから何も思わない。殴られたって全然痛くない、あの時の方が断然痛かったから。


それからお母さんと二人で普通に小学生を過ごしていた。まぁ4年生の時に僕が養子ってことを知られて面倒なことにはなったけどそれでも幸せな毎日だった。


「ねぇお母さん、僕を拾った時雨さん? っていう人はお母さんが働いてる所の偉い人なんだよね? なんでその偉い人が僕なんかを養子にしたの?」


「時雨家の家訓みたいなものとして、困っている人を助けるというものがあるんです。だから当主様は義弟様を養子に加えることにしたのでしょう。それに当主様は元々優しい方でしたから」


その当主様に会ったことはないが捨てられた僕を拾ってくれたことからも優しいと分かる。


それにねぇねは僕と歳が近くて本当の弟のように接してくれるし、人生の運を全て使い果たしたと言っていいくらいには幸せだ。


「今からお嬢様がこちらへお越しになられますが今日はどうされますか?」


「ねぇねと一緒に泊まりたい!」


「分かりました、お嬢様にそう伝えておきますね。本当、義弟様はお嬢様よく懐いておられますね」


僕にとってねぇねは1番大切な存在。もちろんお母さんもその当主さんも僕にとって大切な人だ。


「ねぇね!」


「お久しぶりですね吹雪、最近忙しくて会えてなくて申し訳ないです。菊池さん、送ってくださってありがとうございます」


それから僕はいつも通りねぇねと一緒に遊ぶんだけど、最近ねぇねは忙しくて疲れてるらしいからあんまり疲れるような遊びは選ばない。というか僕も疲れていて眠ってしまった。


「白神さん、どうして吹雪はここまで可愛いのでしょう……。あ、でも中学生にもなったら反抗してくるようになってしまうのでしょうか……」


「義弟様はお嬢様に懐いているので大丈夫でしょう。少なくとも嫌われることは無いと思いますが、呼び方は変わると思いますよ?」


小学生の可愛い間までならねぇねと呼んでいるかもしれないが中学生になって大人になっていく時期なったらねぇねという呼び方は変わるだろう。


「義弟様が中学生になるのはまだ2年も先ですし、お嬢様は来年から中学生になってさらに仕事が回ってきて忙しくなるので義弟様に構ってる時間はなくなりますよ」


「それは時雨家に産まれた以上仕方ないことですから。それに、次期当主の件は順調に進んでいるのでしたら何も問題はありませんよ」


お嬢様と義弟様を結婚させ義弟様を時雨家の跡継ぎに選ばせる件。当主様があの時義弟様を拾ったのはこの考えがあったことも含んでである。


義弟様には何も教えなくていい、このままお嬢様と仲良くしてもらい恋人になるようこちらで手を回すだけである。


「私はこのことには反対なんですけどね。吹雪には自由に恋愛をしてもらいたい、義姉と結婚させるようなことはしたくないのですがお父様の決定ですからね」


「義弟様がこのことを把握し反対した時にどうするか次第ですから。正直なところ義弟様のお世話をしてきて自分の息子のように思ってますから、私も強制させるようなことはしたくありません」


時雨家に女の子しか産まれなかった以上はこういう手を取るしかないことは理解してるつもりですが拾ってくれた恩を利用して言うことを聞かせるというのは従者という立場とはいえ良く思えないものです。


「吹雪が望めばですが白神さんの姓を名乗ってもらい一人暮らしを始めさせてください。その費用は私から出させていただきますので」


「ありがとうございますお嬢様」


義弟様は小学五年生とは思えないほど小柄な子なのでお嬢様がこちらへお越しになられた時はいつもお嬢様の手の中でお眠りになられて、そのままお嬢様も一緒に眠りにつくのがいつもの事です。


「おやすみなさいお嬢様、義弟様」

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