第28話 白神吹雪の最高で最悪な過去②

これは吹雪と蒼井と別れて2年後の話、吹雪達はそろそろ時雨家を抜け出そうと考えていた頃だった。


「吹雪、本当に時雨家との関係を絶つんですか? このまま生きていれば当主にでもなってこの先の安泰が決まってるも同然ですのに……」


「俺みたいな拾われ者が財閥のトップになるわけにはいかないんだよ。最悪、俺が当主になったせいで財閥自体が無くなって無くなるかもしれない、それだけは絶対に避けたいんだ」


当主さんが俺を拾った理由が養子として迎え入れることだったとしても、俺はあの人から当主になるための何かを教えてもらってないし、あの人はもうこの世には居ないのだ。


少しでも恩を返したかったが会うことなく亡くなってしまった。そして今の当主は空席、最大の恩返しは当主になることなんだとは思うが俺は人をまとめる力もないしカリスマ性もない、言ってしまえば当主の席に座る器じゃないんだ。


「俺はこの家で産まれたわけじゃないし俺もまだ中学生、俺が当主になったら反感を買うのは当然だし他の会社からも舐められる。だから当主の席に座るのは義姉さんが相応しいよ」


当主には今まで男性しかなっていないので女性が当主になるなど他の財閥を含めても異例中の異例だろう。そもそも他の財閥には男性の子が産まれているので跡継ぎはその子にすればいい、だけど時雨財閥には女性の子しかいない。


「私は代理にしかなれませんから。いずれ当主を見つけないと近い未来時雨家が崩壊するでしょう。吹雪が当主になるとしても私と結婚しないといけないんですけどね」


俺が拾われた存在だからこそ義姉さんと結婚することが出来る。俺と義姉さんを結婚させて俺を当主にするのが目的とは聞いている。


「お父様が亡くなられて吹雪が当主になることを反対したこの状況は非常にまずいです」


「それは俺もわかってる、何回でも言うけど、俺はトップの器じゃないって。女性がトップになってはいけないという決まりがあるわけじゃない、それは昔の男尊女卑の思想を持っていた人達の勝手な行動でしょ?」


その他の財閥はおそらく跡継ぎも現当主も男性だろう。どの財閥もそんな昔の腐った考えが引き継がれてるだけで女性が当主になってはいけないという決まりは無いはずだ。


「吹雪には分からないと思いますが舐められた暁に待っているのは財閥の破滅。私がなれる限界は精々代理程度なんです」


「もういいよ、俺はこの家から抜けることを前から決めてたんだから。そもそも俺が当主になってもならなくても危機に陥るのは変わらないんだから」


これは俺の命を救ってくれた人に対しての裏切り行為になるとは思うが仕方ないことなのだ。


俺が当主になって仕事をしても、どこかでミスを犯して聞きに陥ることは間違いない、それに俺が当主になってもならなくても誰かが代理として動かないといけないんだから。


そもそも部外者の俺に割いている全ての物が無駄な出費なのだ。高校生になれば1人で生活できるようになる、バイトもできるし俺に気を使わなくていいだから時雨家も色々楽になるだろう。


「俺が仕事をできるやるのもどうせ数年後、それまでの間は誰が支える? それは実の娘である義姉さんなんだよ。だから俺は義姉さんに当主になって欲しいんだ」


「だから女性は当主になることはできないと……」


俺は義姉さんの言葉を遮る。


「当主さんはもうこの世にはいない、そうなれば一番偉いのは実の娘である義姉さんだ。男尊女卑を覆すチャンスなんだよ今は」


幸い義姉さんは一人っ子、当主の席を争うことはない。当主が生きていればどう決断したんだろうな、無能な男性と有能な女性義姉さん、どちらを当主にするか。


男尊女卑を覆せればこれからの跡継ぎに困ることは子供が産まれないという状況にならない限り有り得ない。未来のことを考えると義姉さんが当主になるのが1番いいんだ。


「当主になるかは義姉さんに任せるけど、俺もう時雨家に関わらない。この先の援助もいらないから」


「援助はさせて下さい。吹雪は唯一無二、たった1人の家族ですから」


「ありがとう、さよなら


最後見た義姉さんの顔は涙に濡れていて、とても心が苦しくなった。助けてくれた彼女を裏切って、頭ではこうするのが最適解だとわかっていても心ではずっと義姉さんと一緒にいたかった。


義姉さんが唯一無二の家族だったから、あの時俺に優しくしてくれたから。


そんな時に俺は時雨家の廊下に飾ってあった掲げられた文字を思い出した。


────絆は途切れても、また結び直せる


俺はどうして別れが多いのだろう。あおいと別れて、義姉さんを裏切って別れることになって。


幸せな日々っていうのはずっとは続かないものだ。


死にたい人が死ねないように、生きたい人が生きれないように、幸せが続いて欲しいと思えばすぐに終わる。どうしてこんなにも上手くかない世界なんだろう。


俺はまだ中学2年生だ、残りの1年は義姉さんと楽しく過ごしていこう。


「義姉さん、あと1年間よろしく」


「昔やさっきみたいにねぇねと呼んでくれていいのですよ?」


「それは嫌だ」


「なんでですか!?」


本当に義姉さんと出会えてよかった。もう面と向かって伝えることは出来ないけどあの時俺を拾ってくれた当主さんには感謝してる。


(お父様、養子にしてくれて本当にありがとうございます)



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