第26話 体育祭⑤

グラウンドでやる以上は真ん中にいるのは不利なのでこれ以上下がれないという場所まで来た。真ん中は全方向から狙われるが逃げやすく、そして今俺がいる端は後ろから狙われないが逃げづらいのである。


「さてと、どんな感じに動こうかなぁ……。ねぇ女子を狙っても怒られないと思う?」


「一応勝負だし大丈夫だと思うけど……もし何か言われたら私が提案したことにしたら何とかなるよ多分」


とりあえずずっと同じところにいても囲まれてしまうので同じく端にいるペアの元に向かって俺は移動し始めた。


正直紐がなくても蒼井を持ちながら走れるくらいには軽かった。数回だけならジャンプも出来そうだし。


(紅葉と違ってあるからなぁ……。おんぶするとなると色々考えちゃうな……)


紅葉を侮辱している訳では無いが紅葉と比べるとあって、考えることも多いということだ。決して侮辱している訳では無い。(2回目)


「き、来ちゃいましたよ! どうするんですか菊池さん!?」


「落ち着いてくださいお嬢様。私は学生に劣るほど落ちぶれていません……と言いたいところでしたが、あの子 は……」


菊池さん……まさかこんなところでしてしまうとは思わなかった。さっきはサングラスをつけていて誰か分からなかった。


菊池さんは、俺が裏切ったあの人たちは許してくれているだろうか? いいや許されるわけがない、俺の自分勝手な行動であの人たちを混乱させたのだから。


おそらくこの競技が終われば菊池さんに話しかけられるだろう。幸い、あの時とは見た目が違うため彼女には俺だとバレていないみたいだ。


あの噂の先輩が彼女だったとは……、お世話になってしまうのか。もう迷惑は掛けたくなかったから関係を絶って一人暮らしを始めたのに。


「別のところに移動しよう。自分勝手だと思うけどこの人達に関わる資格が俺には無いんだ」


「どういう……」


「聞かないで。蒼井を巻き込みたくない、それは紅葉も奏音でも同じように思ってるよ」


紅葉も出来るだけ巻き込みたくないが紅葉は俺のことを知ってる。俺にが居ないことを知っているからこそ巻き込んでしまうかもしれない。


本当の親が分からない以上は俺の髪が遺伝によるものなのか確証を得ることは出来ないし、わざわざDNA鑑定をして本当の親を確認する必要も無い。


自分のことを捨てた親を知る必要なんてなんてないのだから。今が幸せで満足に過ごせているなら自ら不幸に向かう意味は無い。


「蒼井に一つだけ言っておくことがあるとしたら、俺に本当の親はいないってことかな」


俺に親がいないことを知ったのは中学生になってから。小学生の時は家にいたあの人がずっと親だと思ってた、だけど中学生なってからは髪の色が違うことに違和感を感じてた。


それで聞いてみたら俺が養子だったってことを知ったんだ。


「まぁこの話はいずれするよ。どうせこの後にあの人達と話をすることになるし、もしかしたら蒼井と関わることがしばらく無くなるかもしれない」


(私が知る吹雪くんは小学生から。それより前に何があったの……?)


今は過去のことより体育祭だ。俺個人の事情でクラスを負けさせる訳にはいかない、とりあえず誰かの帽子を取ってもらおう。


「なんで私たちって複数のペアから追いかけ回されてるの? しかも全員上下が男子のペアに」


「少なくとも蒼井が原因だと思うなぁ……。蒼井とペアになった俺に嫉妬してるんでしょ」


俺が蒼井から誘われたことは知ってる奴は居るだろうに……嫉妬した人間っていうのは結構面倒くさいな。


5ペアぐらいが向かってきてるがその追いかけてる奴ら同士で取り合わないということは逃げてるだけじゃ一生追いかけられるだろう。


「じゃあ男子たちの帽子を蒼井に取ってもらうけど……気をつけてね?」


「え?」


吹雪は急に方向を変えて、その男子たちの方へ走り始めた。


「え、ちょっと待ってぇー!」


そんなことを言いながらも蒼井は俺の意思を組んでくれて男子達に手を伸ばして帽子を取っていく。


そしてしばらくする頃には男子たちの帽子を取り終わってこちらの手持ちの帽子は4つ、ここまで取れば悪い順位になることは無いと思うのであとは取られないように逃げるだけである。


そしてその後は逃げ回り騎馬戦は2位で終えた。そして案の定、俺は校舎裏に呼び出されてしまった。


「義弟様、お久しぶりです、家を出てから目にしませんでしたがご無事で安心しました。お嬢様も義弟様が居なくなられてから心配されておりました」


「菊池さん、俺はもう家族じゃないんですから。俺は時雨ときさめ家に拾われただけの部外者でしかないですし、俺は裏切ってしまいましたから……」


俺は時雨家に拾われた、それから時雨家の人と2人で暮らしていて高校生になった時に俺のお世話をしてくれていた俺の実質的な母親と義姉に手伝って貰って一人暮らしを始めると同時に時雨家との関係を絶った。


「確かに義弟様は関係をお絶ちなられましたがお嬢様がずっと会いたがっている以上は時雨家のままです。そうですね都合が合った時にまた連絡してください、話がありますので」


義姉に会ったとしても俺は裏切ったんだ、良く思われないだろう。それに俺を拾った理由が分からない。


俺を拾った当時の当主はもうこの世には居ない、女の子しか産まれなかった時雨家当主は俺を養子として迎え入れ、娘と結婚させて跡継ぎにしようとしたのだ。


そんな時に俺は時雨家との関係を絶った、そしてこそ時雨家の跡継ぎが居なくなり一時期混乱に陥った。


今は義姉さんが当主をしてるらしい。それは俺に生活費を送ってくれているお母さんから聞いた事。


「時雨家にはあなたが必要なんです。お嬢様に申し訳ないという気持ちがあるというのならこちらにお戻りになられてください」


俺がこの話を断れることがないということを菊池さんは分かっているだろう。俺が時雨家の全てを裏切って、義姉さんすら悲しませた俺が罪を償うタイミングは今しかないんだ、断れば俺は生活できなくなるだろう。


「この事は蒼井達には内緒にしてもらいますよ。俺のことは知らなくていい、巻き込むわけにはいきませんから」


菊池さんは俺に2つの連絡先が書かれた紙を渡して去っていった。その連絡先をスマホに入れてみると1つは菊池さんの連絡先、2つ目は……。


───消した義姉さんの連絡先だった。

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