第25話 体育祭④
騎馬戦が始まる前、クラスの男子たちから余計なことをするなよと言われたがあいつらみたいに欲望で動いてるわけじゃないんだから何もしない。
というかあいつらが何かをするつもりだったのなら俺がペアになってよかったと思う。まぁ俺より他の女子がペアになっていた方がより良かったのだが、既に女子たちは仲のいい人とペアを組んでいる。
転校生だからといって無視されてる訳じゃなく、聞いた話によると蒼井が俺の近くにずっといるから俺とペアにさせた方がいいかなと思ったらしい。
「ひとつ聞いておくんだけどさ、蒼井は俺におんぶされても大丈夫? もう手遅れだけど一応聞いておこうと思って」
「いやぁ、私は何も思わないけど騎馬戦中ずっと私をおんぶして耐えられる?」
女性の体重なんて気にしたくないが途中で下ろしでもしたら遠回しに重かったと言っているようなものなので俺は無理してでも競技が終わるまでおんぶは続けようと思う。
「鍛えてるから多分大丈夫。紅葉と体格は違うけど持ち方が変わるだけだから」
「無理はしないでね?」
無理はします、鍛えてるなんて半分嘘だし、紅葉に関しては身長が低いからおんぶできていたまである。蒼井も重くは無いと思うが身長が高いからバランスが崩れるかもしれない。
「……男女のペアって大変だなぁ」
そんなことを誰にも聞こえない声量で呟きながら騎馬戦が始まるのを待っているが、なんか本部の人から結構頑丈そうな紐を渡されたのでおんぶした後にその紐で固定しろってことだろう。
つまり固定されるということなので下ろすことは出来なくなる。紐で支えられるので多少負担は減ると思うが下ろしたくても下ろせないって倒れる人が出るんじゃないか?
まぁ余程限界が来たらわざと……いや下の人が限界を迎えても上の人がやる気なら終われないか。
騎馬戦なんて1歩間違えれば怪我してしまうような危険な競技なので本当に無理をするのは良くないと思うがそんなことを忘れるくらいには白熱してしまう競技でもある。
もし俺が後ろ向きに倒れでもしたら怪我をするのは上に乗っている蒼井なので俺はなんとしてでも持ちこたえるつもりだが、そもそも下になってるのが男子で上が女子のペアなら誰もがそう思うだろう。
「……先輩のペアの人あの護衛の人じゃん。あの人疲れなさそうだし動きも速そうだな」
「先輩って噂の人だよね? 男子が会話してて聞こえてきたんだよね、お嬢様で誰も近づけないって」
普段は黒スーツの人を連れたりをしていないらしいが同じクラスに護衛の人が居るとか居ないとか……。
「まぁ関わることないでしょ、学年も違うし。関わることがあっても生徒会ぐらいじゃない? 確か入ってたと思うし」
俺は今のところ無所属だがもう少ししたらどこかの委員会に入らないといけない。
委員会は前期と後期に別れており、どちらかの期間に絶対入れとものなのだが圧倒的に前期の方が期間が短いので全員が前期を選んで俺はじゃんけんに負けたってわけだ。
「生徒会になったら面倒くさそうだな……。お、そろそろ始まりそうだよ」
「……生徒会に入ることになったらあの先輩と仲良くなっちゃうんだろうなぁ」
「なんて?」
「何もないよ」
確実になにか言ったと思うが誤魔化すということは俺に聞かれると不都合なのだろう。
それ以上問い詰めることは無いが女の子がどうとか言っていた気がする。聞き間違いかもしれないがとりあえず言っておこう、俺から話しかけている訳じゃないと。
「そういやこの紐ってどうやって結ぶの? 他人の手伝いがないと絶対にきつく結べないよね」
「誰かに頼むしかないと思うけど……俺この中に知り合いが一人もいないんだよね。蒼井が誰かに頼んできてよ、蒼井なら初対面でも仲良くなれそうだし」
俺がそう言うと蒼井は持ち前のコミュ力でそこら辺の女子たちに紐を結んで欲しいと頼んでいた。
「えー、なになに彼氏くん?」
「ち、違いますよ!?」
まぁ騎馬戦に男女ペアで出てるなんて初対面の人からしたら勘違いされても仕方ないか。クラスの人だったら俺が紅葉と付き合ってると勘違いしてるから蒼井との関係を疑われることがないんだかな。
「ん、でもこの子って紅葉ちゃんと付き合ってるんじゃなかったっけ?」
「紅葉とは仲がいいですけど付き合ってないですから。確かに深い事情があって一緒に登校してた時期もありましたけどね」
紅葉の事情は蒼井と奏音しか知らないこと。紅葉は委員会に入っているのでこの人は委員会の人だと思うが紅葉が自らあの事を言うわけもない。
「そもそも俺が紅葉と付き合ってたら他の女子と出るわけないので噂は噂ってことです。まぁ勘違いされるくらいには抱きつかれたりしてますけどね」
「紅葉ちゃんからしたら白馬の王子様だもんねー。そりゃあ抱きつきたくもなるよ」
言ってないと思っていたが紅葉は言っていたらしい。その事には俺が関わっているので同棲していた事などを聞かれるかもしれないが言うか言わないかは紅葉の自由で、俺に話が来たとしても文句を言うつもりがない。
そんなことで文句を言っていたらあの時助けなかったら良かったといずれ思ってしまいそうだからだ。
「無駄話が過ぎたね。それじゃ紐結ぶけど、終わったら私たちのも結んでね」
2人に俺たちの紐を結んでもらって俺はその2人の紐を結んだ。
そしてグラウンドに全てのペアが散らばって騎馬戦が始まった。
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