第17話 白神吹雪は※※※※と話し合う

これは先生に呼ばれて応接室に入った時のこと、俺は夏休みの間に何回も会って話していたその人の前に座る。


「学校まで来てなんの用ですか? 俺に出来ることは何も無いってこの前言ったはずですが」


「今回は君に何かをしてもらいたいわけじゃない。ただ伝言だけはしてもらいたい、それならできるだろう?」


「まぁ」


俺はこの人が何を考えているか本当に分からない、この人の様々な手伝いをしてきた俺だが、この人の成し遂げようとしてること不可能に近いことだと思ってる。


そして伝言の内容を伝えられるが不可能に近いと思っていたのが確信に変わった。


「俺は反対ですね。そもそもこんなことになったのは貴方のせいなんですから、どの口が言ってるって感じです」


「やはりな、ただ聞くだけ聞いておいてくれ。拒否されるのはわかっているがな、相手を伝えなくてもどうせここに来たら逃げられる」


そもそもこの人と話すことになったのも偶然のことなのだ。俺はこの人との関係は隠したい、いや隠さなければならない。


本当なら関わるのも耐え難いが俺は仕方なくこの人の話を聞いたりしていた。


「あの時の俺は腐ってた。本当の親と真逆のことをしてしまったからな、逃げられるのも当然だと納得したさ」


「いくら謝っても、自分の罪を認めて償ったとしても心の傷は消えないし貴方の行動がなかったことにはならないんですから。今からの行動を改めるべきです、それで何か変わるとは思わないませんけど」


この人がやってしまったことは心に深い傷を与えることで、人の命を奪いかけた。そんな人がどんな償いをしたとしてもその罪は無くならない、一生背負っていかないといけないんだ。


「俺も仲が戻るなんて思っていないさ。ただ、もう一度だけ話せたら……顔だけでも見れたらと思ってな」


「そんな軽い気持ちなら俺はこのことを伝えません。仲が戻る可能性がゼロに等しくても、自分が仲直りしたいと思っているのならもっと欲張ってください」


何かを求めるというのなら中途半端では手に入れることができない。今回の場合、無理だとほとんど決まっているがそれでも欲張って行動することが大事だ。


無理だと決めつけて行動せずに後悔するよりは行動を起こして盛大に散る方がもはや清々しいだろう。


「そうだな、最低で最悪な俺は適度に欲張って散っていくのがお似合いだ。じゃあ伝言は頼んだぞ」


「えぇ、でも断られた場合はもう諦めてくださいね? それは貴方ためでもあって、何より紅葉のためなので」


紅葉に辛いと思わせないためにもこの人のお願いを聞き続ける訳にもいかない、今回断られたらもう諦めるという条件付きで、俺は紅葉に伝言することを承諾した。


「紅葉が承諾しても俺が一緒に向かいますから。絶対に紅葉は怯える、話せなくなるほどには……」


「それも分かってる、君がいれば多少は会話出来そうだからな、是非とも紅葉と一緒に来て欲しい」


この人がどれだけ丸くなったとしても紅葉と2人きりにするのは不安が残るので何を言われようと俺は着いていくつもりでいたが向こうが承諾してくれたのはよかった。


それから俺は今の紅葉の様子や男性嫌いの進度など、色々話したが元よりこの人がなんで丸くなったかという謎がずっと残っているのだ。


「純粋な質問なんですがあんなことをしておいてどうして急に丸くなったんですか?」


「紅葉から妻が亡くなってから俺がおかしくなったことは聞いているだろ? その妻からの手紙と紅葉もみじの髪飾りを見つけてな……。俺がおかしかったんだって、妻はこんなことを望んでないっていうことを理解したんだ」


こんなこと言える立場では無いが遅すぎる。その期間で紅葉の心がどれだけ傷ついたと思っているのだろう。


そして元々3人で暮らしていて元が優しかったのなら急に怖くなって虐待するようになったのならより一層の恐怖は倍増されてしまう。


「ならその髪飾りも紅葉との話の時に渡すつもりなんですね。まぁ拒否された場合は俺が渡しておきますよ、それが2人の中間にいる俺の役割だと思うので」


「色々任せてしまってすまないね、それにお昼ご飯の時間も授業の時間も奪ってしまって」


ふと時計を見れば昼休みはとっくの前に終わっていたしなんなら6時間目すらも終わりかけている時間だった。


とても大事な話だったので時間なんて忘れて真剣に話していた。お腹がすいてる事に気づく今もないほど今回の話は重要だった。


「それじゃあ俺はそろそろ帰ります。紅葉が帰ってたら伝言を伝えるのは明日になってしまうので」


「いつまでも待っておくさ。昼の時間を奪ってしまったからね、これで昼でも食べてくれ」


手渡されたのは500円でこれでご飯を買ってくれとの事らしいので俺はありがたくその厚意を受ける。


「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」



※※※



そして俺は紅葉にこのことを伝言したが紅葉は「私は……」と一言だけを発して帰ってしまった。


それが容認してるのか拒否しているのかは分からないが俺は‪”‬男性‪”‬と言ったので恐らく拒否だろう……と俺は決めつけてしまっていた。

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