第16話 蒼井仁愛は問い詰める

「ねぇ、その指輪って誰から貰ったの?」


私は吹雪くんと出会うなりそう問い詰めた。


「蒼井にはこれが貰い物って言ってなかった気がするけど……。まぁ貰い物だよ、小学生の時に一緒に遊んでた女の子から貰ったんだ」


そして吹雪くんは私も知ってる小学生の頃の話をしばらくしてくれた。以外だったのが私のことを友達じゃなくてそれ以上の存在としてみてくれていたこと。


何で気づかないのか不思議なだが吹雪くんの本音が聞けるのなら無理やり思い出させる必要はない、このあとも問い詰めて色んなことを聞き出そう。


「その子とまた会いたいって思わないの? 聞いた限りだと依存してるよね、その子に」


「確かにその通り、でも俺に会いに行く余裕は無いし資金もない。また会いたいとはずっと思ってた、でももう会いに行くのは諦めた」


一人暮らしの高校生としてはアメリカに行くなんてことは到底できないし、アメリカに行ったとしてもどこにいるか分からないのだから無駄足になることが分かりきってるからこそ吹雪はを諦めた。


「だから俺はここで待ち続けることにした。いつかここに帰ってくることを信じてずっと」


「ふーん、私のことを思い出した?」


「急に何? 思い出す……? だから俺は蒼井とは会ったことがないから。面影は結構似てるんだけどね」


面影が似てるも何も本人ですから……と仁愛は言いかけてなんとか堪えた。ここで言ってしまえば今まで堪えていた意味が無くなるから。


もうちょっと問い詰めたいけどそろそろ授業が始まってしまうので私はノートを開いて前を向いた。



※※※



吹雪くんが先生に呼び出されてしまったので昼ごはんは紅葉さんと二人で食べているのだが女子だけでしかできない……いや、吹雪くんが居ればちょっと不都合な会話をしていた。


「紅葉さんって夏休みより前は吹雪くんの家に住んでたんだよね? 吹雪くんは高校生になって一人暮らしを初めて、その家に紅葉さんがなんで住んでるのかなぁって」


(蒼井ちゃんなら大丈夫って吹雪は言ってた、それに吹雪にだけ総てを背負わせる訳にはいかない……か)


私のその質問に紅葉さんはしばらく答えなくって、それからゆっくりと口を開いて放った言葉は私を泣かせるのには十分すぎた。


「お母さんさんが亡くなっちゃってから、お父さんがおかしくなって……。そしてお父さんからの虐待から逃げて、行き倒れてたところを一人暮らしを初めてすぐの吹雪に助けられて、私が一人暮らしを始めるためのお金が貯まるまで一緒に住んでた。父親のせいで私は男性不信、吹雪以外の男性とは関われなくなった」


「……そうなんだ。ごめんね辛いこと思い出させちゃって、軽々と聞いちゃって」


でも紅葉さんの表情は暗くはなく、この事はもう気にせず過去の事として割り切っているような感じだった。これも吹雪くんが手を差し伸べてくれたおかげなのかな。


「私はもう親には会わないし、他人だから。吹雪と一緒に入れたらそれでいいけど、吹雪に他の友達も作るよう努力してって言われたからね」


吹雪くんは数ヶ月一緒に紅葉さんと過ごしてきて色々理解してるところがあるのだろう。だからこそ紅葉さんにとって辛いことでも男友達を作って欲しいのだろう。


そういえば先生に呼ばれた吹雪くんはご飯を食べずに行ったけど大丈夫なのかな……。


「いやぁ昼ごはんっていう幸せな時間の時にこんな重い話しちゃってごめんね。早く食べよう? 昼休み終わっちゃう!」


本当に強い子だと思う。壮絶な過去を乗り越えて周りにこんな明るく振る舞えるんだから。


それから昼休みが終わっても、吹雪くんは帰ってこなかった。


先生はとても大事なお話なので授業より優先するということで吹雪くんを呼び出したままにしているらしい。


そして吹雪くんは5時間目も6時間目も終わったあとの帰りにようやく戻ってきたのだがとても深刻そうな顔をしていた。まるで何かを抱えているような顔で、俯いていた。


「紅葉、俺が先生に呼ばれて応接室に入れられて、そこにお客さんがいたんだ。それで昼休みの間はずっとその人と話してた。その人とはもっと前からその人とは話したことがあったけど、あんなことを言われるのは初めてだった」


それが深刻そうな顔をしてるのに何の関係があるのかと私が悩んでいると吹雪くんが言葉を続けた。


「それでその人が紅葉と話して見たいって。男性なんだけど紅葉はどうする……? 無理はしなくていいからね、相手も紅葉の事情は知ってるから」


「な、なんで私の事情を……2人にしか言ってないのに……。吹、雪?」


「俺は言ってない、元からその人は紅葉のことを知っているだけだ」


紅葉さんは知らない人に自分を知られてることに完全に脅えており、吹雪くんは申し訳なさそうか顔をしていた。


「話すというのならそれ相応の覚悟がいると思う。それでも紅葉は……その人と話してみたいと思う?」


「私は……」


紅葉からそれ以上の言葉が出ることはなく、廊下に出て一人で帰って行った。


「……それが正しい判断だと俺は思うよ」


俺は最後にそう一言呟いて蒼井と一緒に学校を出た。


ただし吹雪は勘違いしている。紅葉は一言も『無理』、拒否の言葉は口にしていないのだ。

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