第15話 2人は懐かしむ

「懐かしいな、春休みの時に紅葉が料理してみたいって言ったことを思い出すよ」


「余計なことは思い出さなくていい!」


春休みの時に紅葉は料理をしてみたいと言って、俺の家で料理を始めたのだがさっきの言葉の通り案の定失敗したのだ。


それから紅葉は料理を1回もしておらず今になっても俺の家にご飯を食べに来ているのだ。


「ごめんって、とりあえず今後のためにも料理するんでしょ。俺は隣で危なっかしいことがないか見守っておくから紅葉は1人で頑張ってみて」


「はーい、オムライスの作り方はなんとなくだけど頑張ります!」


先が思いやられる発言ありがとう。とりあえず隣で見守っておくが正直内心ヒヤヒヤである。


本当に何となくでやっているのだろう。少し油断したら指を切っちゃいそうだがそこは紅葉が几帳面なところがあるので大丈夫だろう。


あの時は紅葉の初めての料理で指をズバズバ切りまくっていたのでそれを考えればちゃんと包丁がにぎれているだけ成長しているのかもしれない。


「俺が手を出さなくても料理できるようになってるじゃん。家で練習してたんだ」


「夏休みから一人暮らしを始めるってなってから料理をし始めたよ。一人暮らしは自炊しないとお金が足りなくなっちゃうからね」


親から貰ってるお金で生活してる身なので節約は大事ということはとても理解している。


紅葉に関しては自分で仕事して貯めたお金で生活してるので俺より節約をしているだろう。


「ねぇ、卵ってどう巻けばいいの? どうやっても巻けないんだけど」


「んー、卵が完全に固まっちゃってるからもう巻かなくていいかな。見た目は悪くなっちゃうけどこのままチキンライスに乗せちゃおう」


「まぁ最初だしこんなもんでいっか。これから練習していけばいいわけだし」


オムライスを初めて作るにしてはだいぶ上手く出来た方だと思うし、こんな短期間の練習でここまで料理ができるようになっている紅葉は料理の才能があると思う。


「急いで作るけど先に食べたかったら食べてていいよ。お腹すいてるか知らないけど」


「そりゃあお腹すいてるけど私は吹雪と一緒に食べたいから待っておくよ」


「そう?」


正直速さを重視すれば1分弱で完成させることは出来るのだが失敗する可能性の方が高いので慎重にやろうと思う。


慎重と言っても手馴れているので2分半もあればオムライスは完成した。


「さすがに速過ぎない? 私もそんな速さでオムライス作ってみたいなぁ……。多分無理だけど」


「頑張れば行けるって。俺がいつも見てる作り方の動画では1分かからずで作ってたから俺は遅い方だよ」


まぁ俺が見てる1分かからずで終わらせる人はオムライスだけを極めたからこその技なので普通に食べたいってだけならそんな早く作る必要はない、ただかっこいいってだけだ。


「紅葉って俺だけには慣れてきたよね。前だったらご飯食べる時も向かい側に座ってたのに」


紅葉は今俺の向かい側じゃなくて俺の隣に座ってご飯を食べている。それだけ俺には慣れてきたということなのでそれはそれで嬉しい。


「吹雪にしかこんなことできないよ。他の男の子だったら一緒にご飯を食べることすら、家に上がることすら無理だって。だから吹雪はとても特別だよ?」


特別と言われてなんか恥ずかしいと思う吹雪だが、紅葉の生活を変えたのは吹雪なので特別と言われてもおかしくないだろう。


「でもさ、どうせなら2人じゃなくて蒼井ちゃんとも一緒に食べたいかな。その分吹雪に負担がかかっちゃうけど」


「別に2人のためなら頑張るさ。今のところ友達は紅葉と蒼井しかいないからさ」


じゃあ夏休み明けに問い詰めてきたやつは誰なのかと言うと、ただ蒼井の一言に動揺したクラスメイトである。友達では無い、その証拠に班活動のときでしか話したことがないのだ。


「というか女子の私が女子の友達しかいないのは不思議な事じゃないと思うけどさ。男子の吹雪が女子の友達しかいないのって不思議だよね」


一般的には男子は同性の友達が多く居てワイワイやっているイメージだが吹雪は違う。


「俺はそんなに騒がしいのが好きじゃないから。女子は男子に比べて落ち着いてるし、あんまり踏み込んでこないからね」


言ってしまえばギャルみたいな女子はそんなに好きじゃない、グイグイ詰め寄ってきそうだし騒がしそうだ。


「話が変わるけどさ、私たちが付き合ってるっていう噂についてはどう思う?」


「俺らは付き合ってるなんて一言も言ってないんだから放置してればいいよ。向こうが勝手に勘違いしてるだけなんだから。でもこっちに被害が及んできたら黙ってはいられないかな」


被害、どちらかと言うと俺より紅葉の方にだ。俺はそんな被害があっても気にしないし1人で解決できるが紅葉には厳しいだろう。


彼氏と勘違いされているのが俺なのだから、紅葉がほかの女子に悪口でも言われたりしたら俺に解決する責任がある。


「まぁあいつらに限ってそんなことは無いと思うけどね。そんな奴らなら蒼井が転校してきた時に俺が死んでるでしょ」


勘違いをしてるのはいいとしてそれは冗談で本気ではないだろう。本気なら蒼井が彼女と言った時に俺が浮気ということでボコボコにされるはずだから。


あの時のクラスメイトも冗談混じりっぽい声で言っていたので本気じゃないことぐらいわかる。


「毎朝一緒に登校してるだけで付き合ってるってどういうことなんだろうね。家が近いだけかもしれないのに」


実際、家は近いし夏休みより前に至っては同じ家からの登校である。


「まぁもしもの事を今考えてもしょうがないし。片付けるからまた明日。明日は3人で食べる?」


「そうする、じゃあまたね!」


俺は家から出ていく紅葉を見送って洗い物を始めた。


(勘違いされてるなら実害が出るまでそのままでいい。出たら出たで俺が動くだけだ)


紅葉は妹のような存在、妹を守らない兄が何処にいるのだろう?

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