第12話 皆月紅葉は相談する

蒼井ちゃん、転校してきて一番最初に言ったことが『吹雪くん久しぶり』ってどういうことなんだろ。その肝心の吹雪はその蒼井ちゃんことを知らないみたいだったし、知り合いなのか知り合いじゃないのかわかんないよ。


でも蒼井ちゃんも可愛かったし、吹雪を取られる可能性は全然ある……今のところ私がリードしてると思うけど吹雪と蒼井ちゃんが本当に昔からの知り合いなら私は2歩ぐらいリードされてしまう。


「ねぇ紅葉、今日は俺と一緒に昼ごはん食べようよ」


「うん、吹雪と二人きりで話したいこともあったしちょうどいいね。屋上でいいか、あそこなら誰かに盗み聞きされる心配がないから」


「あの話だよね?」


誰かを好きになるのには必ずと言っていいほどキッカケがあって、一目惚れなんてものは存在しないと私は思っている。吹雪は唯一私が気を許してる男子、他の男子とは話すことはおろか、近づくことすらできない。


それは昔の出来事のせい、それを助けてくれたのが吹雪だった。



※※※



「で、最近はどう?」


屋上に来て早速そう問われた。


「一人暮らしを始めてからは何も無いよ、夢で見るくらいはあるけど……吹雪がいるから」


「男嫌いだってのによく学校来てると思うよ。というか俺以外に大丈夫な人いないの?」


吹雪以外の男は無理だ、近づいてくるだけで暴言を吐いて傷つけちゃうし、それくらいなら最初から関わらない方がマシ。


他の男の人が近づいて来ないように普段は吹雪にくっつかせてもらってる。まぁ吹雪は周りの目を気にしてるみたいだけど。


「気が済むまで俺の家にご飯を食べにしてもいいけど、料理をする努力はしてね? 急に一人暮らしを始めた紅葉だから料理が出来ないのは仕方ないと思うけど」


私は親の同意があって一人暮らしを始めたわけじゃない、お父さんの虐待から逃げて一人暮らしを始めた。ただ、逃げてきた私に一人暮らしをするためのお金なんてなくて、それに男に近寄れない私はバイトを始めることすら出来なかった。


そしてそんな私を助けてくれたのが吹雪で、しばらくは家に泊めてくれたしご飯だって作ってくれた。最初は吹雪だって警戒してた、だけどその優しさに気づいて吹雪だけは信用できるようになった。


それで家の中でできる仕事でお金を稼いで、夏休みが終わると同時に学校近くのアパートを借りた。しばらくの間は吹雪の家に泊まって、学校に登校していた。


「いつでも頼ってね。そういえば梅雨の時期は大丈夫だった? すごいうなされてたと思うんだけど」


「それは……私が死の境だったのが梅雨で、逃げて吹雪に助けて貰ったのもこの時期だからどうしてもあの時のことを夢で見ちゃうんだよね」


あの地獄のような毎日からは逃げられたけど、その面影は残ったままで完全に消し去ることは出来なくてトラウマとして残ってしまった。


「周りにいるだけなら大丈夫になったけど、話すのはまだ吹雪しか無理。努力はしてるんだけどね……」


「……偉いよ紅葉は。でもさ、他の男が近づかないために俺に抱きつくのは違うと思うんだけど」


彼氏が居ると他の男子たちに思わせれば近づいてこないと思っていたが吹雪本人はそんなことを知らないので意味がわかっていない状態だ。


そのことを紅葉が恥ずかしがって言えてないのでこんな会話が生まれているのである。


「それは、彼氏が居ると思わせれば他の男子は近づいてこないかなぁって……」


「まぁ確かにそれでは寄ってこないと思うけど普通に友達になりたいだけの男子は来ると思うけど? だってこのことは俺しか知らないから」


このことは吹雪以外の誰にも言っていない、男子にはもちろん言えるわけないが女子にもこのことを言っていないのだ。


人間というのは怖いもので、たった1人の意見でみんなが変わってしまう。もしこのことを言ったとして、みんなが寄り添ってくれればいいが1人でも『目立ちたがり屋』とか『嘘乙』とか言ったらみんなその一言に流されてしまうのだ。


「このことを蒼井ちゃんに話したら信じてくれると思う?」


「大丈夫、信じてくれるよ。紅葉の話を聞いて態度を変えるってことは無いんじゃない? まぁ言うか言わないかは紅葉に任せるけど」


蒼井ちゃんとは関わり初めてまだ数日だけど悪い子って感じはしない。そもそも私が関われないのは男子であって女子は別に大丈夫なのだ。


でもこのことを言うのは吹雪だけでいいや。私のことで考え込んで欲しくない、自ら踏み込んでこない限りは言うつもりは無い。


「純粋そうだし蒼井ちゃんにこの話をするのは辞めておく。それに転校したてでこんな重い話を聞かせたくないし、私のことで考え込んで欲しくないから」


私がそう言うと吹雪は私にデコピンをしてきた。


「紅葉がそうするなら俺は何も言わない、迷惑だと思ってるから勘違いしすぎだよ。迷惑を掛けてもいいから頼って欲しいと蒼井も考えてると思う。俺一人じゃ救いきれない時もあるかもしれないんだから蒼井にも話しておいた方がいいと俺は思うよ」


とっくに昼ごはんを食べ終わっていた吹雪は屋上から去っていった。


「迷惑を掛けてもいい……。それじゃこれからも迷惑を掛けさせてもらうね、吹雪」

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