第13話 風真琴葉は思い返す
『ここまで海外の仕事が多いともはや可哀想になってくるねぇ。蒼井も高校生になってるから一緒に連れてくことは難しいんじゃないかい?』
『……初めて上司にキレそうかもしれない。いつまで経っても海外の仕事で娘に会わせてくれない、もはや意図的にそうしてるんじゃないかってレベルで』
仕事が出来る人ほど重要な仕事を任せられるのは当たり前の話。海外の仕事があるとして、優秀で海外での仕事経験がある姉さんが選ばれるのは必然と言っていいだろう。
『じゃあまた仁愛は任せるわ……。はぁ、本当に優秀っていうのも時には困るものよ。仁愛にはもう言ってるから今日からそっちに帰ると思うわ』
『了解』
私は姉さんとの電話を切って3年ぶりぐらいに蒼井が使っていた部屋の中に入った。
「……さすがにこれはまずいねぇ。学校が終わるまでに終わらせておかないと蒼井が休めない」
3年間掃除も何もしなかった部屋の惨状はお察しの通り壮絶なものでホコリは色んなところに溜まっているし何よりGが大量にいた。ただ誰かが過ごしていた訳では無いので床にゴミが散らかってるということは無い。
とりあえず掃除道具と最も重要なGジェット、そして他の場所にGが逃げないように扉を塞ぐ用のガムテープを持って来た。
「とりあえず扉を開けてガムテープ、私だけが逃げれる状況を作ってからが勝負だねぇ」
それからの動きは素早かった。
扉を開けてすぐにガムテープを貼り付け、中に入ってGジェットを手当たり次第に噴射する。
「いやぁ……さすがにこの数は私でもビビるねぇ。他の人が見たら真っ先に逃げるレベルだぁ……」
とりあえず目に見えるGを処理し終えたのでその死体を処理して普通の掃除を始めた。
※※※
掃除はなんとか蒼井が帰ってくる時間よりも前に掃除を終わらせることが出来たのでいつも通り玄関前にある椅子に座って本を読んでいた。
「ただいまー! 今日からまたしばらくよろしく風真お姉ちゃん。あ、あと友達も連れてきたから!」
そんな聞き慣れた元気な声が聞こえると同時に家の扉が開いて蒼井と言っていた友達が中に入ってきた。
この光景は見たことがある。4年前、蒼井が小学6年生の時に吹雪くんを連れてきた時と一緒だ。
正直なところ蒼井と吹雪くんが今どうしてるか聞きたいところだがそれは私が関わる内容ではないだろう。私はもう青春時代なんてものはとっくに過ぎているんだ、傍から青を眺めさせてもらうとしよう。
風真がした対応だって4年前と同じ、あの日のことを思い返す。
「お邪魔します、紅葉です。ねぇ蒼井ちゃん、この人ってお姉さんなの?」
「姉妹ってわけじゃないよ? お母さんの妹で、お母さんはよく海外に仕事へ行くから海外にいる間はずっと風真お姉ちゃんにお世話してもらってたんだよ!」
蒼井は昔、私のことを本当に姉だと思っていたらしいが海外に送った時の会話で違うって気づいたらしい。
まぁそれでも蒼井のお姉ちゃん呼びは変わらなかったが蒼井からしたら私はお姉ちゃんなのだろう。
「上の部屋掃除しといたから蒼井たちはそこで遊んでね。後で色々持っていくから、自分の家だと思ってくつろいで行ってねぇ」
まだやつが残ってないか心配だが出た場合は私が始末しに行けばいいだけだ。とりあえず持っていくお菓子を用意しないと。
冷蔵庫の中からアイスを2個取って持っていこうとしたのだが上から叫び声が聞こえてきたのでだいたい何が起きたのか察した私はさっき使っていた道具も一緒に持っていった。
「風真お姉ちゃん! あれが出ちゃったよぉ……!」
「さっき掃除したんだけどまだ残ってたかぁ。3年間も何もしてなければあれだけ駆除しても生き残りは出てきちゃうんだねぇ。2人はリビングでこのアイスでも食べてて、完全に消してくるさ」
2人には早くくつろいで欲しいのでさっさと仕留めてもっと念入りに掃除を始めた。
「そういえば吹雪は誘わなくてよかったの?」
「なんか用事があるらしいよ? 内容は教えてくれなかったけど……寂しそうな表情だった」
※※※
俺は数年ぶりにあの山へ登っていた。本当ならあおいと一緒に行きたかったところだがアメリカにいる彼女に俺の願いが届くことは無い。
「あおいからもらったこの指輪はずっと大切にしてる、俺から私だけあのネックレスも大切にしてくれてるかな? それだったら嬉しいよ」
そんな独り言を独りの山で、あおいとであった神社の前で呟いていた。
「もう4年か……。やっぱり会えないと寂しいな。初めて俺の中身を見てくれて、依存しちゃってたんだろうね……だから会えないのは辛いよ、またこの場所で話したいなぁ」
出会ったのが小学生故にスマホもなく、メッセージを送り合うこともなかった。より寂しさが蓄積していってるのだろう。
「今の俺の家からだとだいぶこの山は遠いし、もう帰るとするか」
俺は最後に「あおいと再会出来ますように」と神社にお祈りして山を下って行った。
吹雪はまだ、蒼井仁愛が昔一緒に遊んで別れたあおいだとは到底思っていない。
吹雪が自然と思い出すのが先か、仁愛が折れて正体を言うのが先か……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます