第11話 蒼井仁愛は想像する
そうして吹雪くんと一緒に帰ることになったんだけど、恥ずかしいし緊張する。
吹雪くんの親がいる訳でもないのに……いや居ないからこそ緊張してるのかも。吹雪くんの家で2人きりになったことはあるのに……高校生になって感性が変わってしまったのだろうか。
転校した初日に吹雪くんの彼女なんて言ったけど今の光景は本当に彼女みたいで、改めて思うとちょっと恥ずかしい。
(でも吹雪くんは病院で好きって言ってたし……)
「そういや、嫌いな食べ物ってある? 俺って基本的になんでも食べるから他の人がそれを食べれるか分からないんだよね」
「好き嫌いがないってことでいいじゃん。例えば普段何食べてるの?」
「ゴーヤとか普通に食べてるけど、よく嫌いな人が多いって聞くからさ」
私は基本的に苦いものは嫌いなのでコーヒーすら飲めない、ゴーヤなんてもってのほかだ。
でもせっかく用意してくれるんだし今日だけは嫌いなものが出ても我慢して食べないと。
「無理して食べようと思わなくていいよ? 嫌いだったら言ってくれれば俺が食べるからさ」
「それだったらいつまでたっても嫌いなままだから頑張って食べようと思ってるよ」
「”思ってる”なんだ。だけどその心意気は偉いと思うよ」
そんな会話をしていると吹雪くんの家に着いて、中にお邪魔したが入った途端に急に緊張してきた。
吹雪くんは前よりかっこよくなったし、元々かっこいいのを銀髪がより引き立てているし身長も高めでいかにもモテてそうだ。
というか実際紅葉さんが周りにいるから吹雪くんはモテているのだと思う。他の人からしたらそこに私が乱入してきたという感じだろう。
「じゃあ作るからソファーで自由にしてて。それと蒼井が来たかったら紅葉みたいに来てもいいからね、1人分作るより多めに作った方が楽だし」
吹雪くんはそう言ってキッチンに入って料理を初めてしまったので私は吹雪くんの部屋を見渡していた。
特に変なものは無いしいかにも一人暮らしっぽい部屋で、ひとつ扉があるのだがおそらく寝室だろう。
それからしばらくしてご飯を作り終わった吹雪くんがテーブルに座ったので私も座り「いただきます」と声を揃えて言った。
「吹雪くんって料理上手なんだね、私も普段から料理するけど私より上手いんじゃない?」
「一人暮らしを始める前は包丁を握ったら必ず怪我するくらいに料理出来なかったよ? でも一人暮らし始めるならってことで練習したから」
「そうなんだ」
2人でご飯を食べてる光景って夫婦みたい……って何考えてるんだろ、まだ付き合ってすらいないのに。
そもそも吹雪くんとの距離で言えば紅葉さんの方が近い、いや私は過去にはっきりと好きって言われてるんだから!
ということで私はこんな質問をしてみた。
「吹雪くんってさ、付き合ってる?」
「急にどうしたの? 初日に言ったけど俺は付き合ってないし付き合ったこともない。告白されることは何回かあったけど好きな人がいるから全部断った」
その好きな人が誰かは分からないけど、告白されてるって言うのはまぁ吹雪くんは魅力的だし納得出来る……。
私も吹雪くんが思い出してくれたら告白してみようかな?
「好きな人って誰なの? 紅葉さん?」
「紅葉は妹みたいなものだから。俺の好きな人は……いややっぱ言わないでおく、言っても何も意味が無いし」
もし吹雪くんの好きな人が私だったとして、吹雪くんはまだ私がアメリカに言ってると思い込んでるから意味が無いと思ってるんだ。
さすがに自意識過剰かなそれは、そもそも吹雪くんが好きって言ってくれたのはあくまで子供の時の話だから。
ここで私があの時の女の子だと言えば全てが終わるのだろうけど、私の変な拘りで吹雪くん自身で思い出すことを望んでいるから言わない。
「急に変なこと聞いてごめんね、ご馳走様でした。ええっと明日は来ないけど昼は一緒ね?」
「昼ぐらいなら……けど今のことは内緒だよ? ほかの男子たちに殺られるからさ。まぁ紅葉とはもうそんな感じって認められてるから大丈夫なんだけど」
やっぱり紅葉さんに劣ってる……私も吹雪くんとのそういう関係を認めて貰えるようにならないと。
「じゃああんまり長居しても迷惑だと思うしそろそろ帰るね、じゃあまた明日!」
「気をつけて帰ってね、蒼井は普通の人達よりも魅力的で狙われやすいんだからさ」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ、自分の身は自分で守れますー」
※※※
私は吹雪くんの家から出て帰路をたどっている。
「さすがに……さっきのは反則だよ……吹雪くん」
吹雪くんの前では平然を装ってたけど1人になった瞬間に恥ずかしさが込み上げてきた。
素直に褒めてくれる吹雪くんの彼女になれたら幸せなんだろうなって思う、ただそれは吹雪くんが私を思い出すまで叶わないこと。吹雪くんとくっついている紅葉さんが羨ましいばかりだ。
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