第10話 蒼井仁愛は嫉妬する

吹雪くんがずっとあの指輪をつけてくれていたのは嬉しかったなぁ。だけど私のことを覚えてないのはちょっと残念、でも髪色が変わってるんだし仕方がないかな。


私が吹雪くんと遊んでいた頃の髪色は黒だけどあれは学校の決まりで黒に染めてただけ、私の本当の髪色は銀だ。目に関してはどうしようもないから青色のままだったというだけの話。


「吹雪くん、嫌だって言いながらも結局一緒にご飯食べてくれるよね」


「蒼井さんが勝手について来てるんでしょ? 俺は好きで蒼井さんと食事をしてるわけじゃないから」


よく考えればあの時でも一緒にご飯を食べたことはなかった気がする。それを考慮すれば今一緒にご飯を食べれてることは嬉しい。


仕方ないことだと理解してるけど、さん付けになってるのはちょっと嫌だ。あの時は普通に蒼井って呼んでくれていたのに。


「ねぇ、さん付けを外してくれないかな? 私って正直に言うと堅苦しいの嫌いなんだよね、だから蒼井か仁愛で呼んでくれない?」


「えぇ……じゃあ蒼井でいい? 仁愛って呼んだら色んな人から勘違いされそうだから」


「えへへ〜」


堅苦しいのが嫌いなのは風真お姉ちゃんの影響で、どちらかと言うと吹雪くんには仁愛じゃなくてあの時と同じ蒼井で呼んで欲しかったからこれでいい。


そしてそのまま吹雪くんと一緒に昼ごはんを食べて教室に戻った。


教室に戻ったら色んな男子たちに明日は一緒にだとか言われるけど私は吹雪くん以外の人と食べる気は無いから断ってるんだけど、この調子だと明日も誘われそうかな。


「明日も一緒にご飯食べようね、私まだ話せる相手が吹雪くんしか居ないからさ」


「まぁそれくらいならいいんだけどさ、俺以外にも話せる人を作っておいた方がいいよ? そうじゃないともし俺が居なくなった時に大変だよ?」


1度経験したからこそ理解していることで、吹雪は依存している相手がいなくなった時にどうなるかを知っている。


「それは私も理解してるつもりだけど、見た目がこんなだからさ?」


「別に見た目なんてどうでもいいと思うけどね。別に蒼井の目は宝石みたいに綺麗だし髪もおかしいと思わないけどね」


やっぱり吹雪くんは見た目で差別したりしない、あの時と同じように私の目を綺麗と言ってくれた、変わった髪色もおかしくないと言ってくれた。


正直早く私があの時の子だと認識して欲しいけど、やっぱり私から言うんじゃなくて吹雪くんから気づいて欲しい。


こんな特徴的な目だけど分からないってことは髪色って大事なんだなぁって思った。


「吹雪くんって案外恥ずかしいことも普通に言うんだね……。でも嬉しいっ!」


「声大きいよ蒼井。周りの奴らがそろそろやって……来たじゃん」


吹雪くんの首元に手を回してほとんど抱きついているのは身長が低めでどちらかと言うとロリっぽい印象を与える女の子。


私は吹雪くんに抱きついたことは無いので少し嫉妬してしまう。


「あのさ、事情があるとはいえ普段からこういうことしてると色々勘違いされるからやめてくれない? 紅葉くれは


「吹雪は女の子に抱きつかれてるって言うのに何も思わないんだぁ。可愛くなーい、もっと恥ずかしがってくれてもいいじゃん」


吹雪くんは全く恥ずかしがってないし、というか少し面倒くさそうな顔をしているのでいつもの事なのだろう。


それより吹雪……かぁ、呼び捨てで呼び合うほど仲がいいってことだよね。


「紅葉さん? さ、さすがに近すぎないかな。付き合ってもない男子と女子の距離じゃないよ?」


「紅葉はそういう人だから何を言っても無駄だよ? よく言えば関わりやすいから蒼井もすぐ友達になれるんじゃない?」


確かにフレンドリーな性格っぽいが男子に抱きつくのは違うと思う、普通の男女の距離じゃない。


「ねぇ、蒼井ちゃん耳貸して」


紅葉さんにそう言われたので耳を貸すが、耳打ちで言うということは吹雪くんに聞かれるとまずいことなのだろうか?


「予想でしかないんだけどさ、私が吹雪に抱きついた時に嫉妬したでしょ? もしかして吹雪のこと好き?」


急にそんなことを言われてしまったので私の顔は熱くなり、おそらく赤くもなってるだろう。こんな状況を見られたくは無いので私は顔を隠した。


好きか好きじゃないかで言えば好きなんだと思う。でもそれは吹雪くんには伝わっていない、私はあの日に付き合ったと思ってたけど違ったみたいだから。


「まぁ2人とも仲良くなれそうでよかった。それと紅葉、今日はどうする? 一応紅葉の分も用意してあるけど」


「うーん、吹雪のご飯美味しいから悩むけど今日はやめておこうかな」


紅葉さんは吹雪くんの家で一緒にご飯を食べたことがあるんだ……。入ったことはあるけど一緒に食べたことは無いなぁ。


なんか私の方が先に吹雪くんと出会っているはずなのに距離は私の方が遠く感じられる。吹雪くんがあの時の私と今の私をイコールで繋いでない以上は先に出会ったというのは無理な話か。


「もう二人分の材料買っちゃったんだけど……。もし良かったら蒼井、来る? 来たそうな顔してるし」


「うん!」


私は吹雪くんのご飯を食べられることをすごく喜んだ。吹雪くんと再会したことの次ぐらいに嬉しかった。


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