第9話 別れ
「ここ……どこだろう」
上、下……どこを向いても黒い世界しか広がってなくて、ここに私以外の人、物は確認できなかった。
「うーん、風真お姉ちゃんとお出かけしていたはずなんだけど……。歩いても歩いても風景は変わらないし」
───あおい
そんな呼び声が聞こえた気がして、周りを見渡すがやっぱり代わり映えのしない真っ黒な世界。
───走り出せ
この呼び声が誰か分からないけど、とりあえず言われた通りに走ってみると黒い世界から白い世界に変わった。
「眩し……ここ病室?」
体を起こして確認してみるとやっぱり病室で体を確認すれば頭に包帯が巻いてあった。
横の机に置いてあった時計を見てみれば深夜、この時間なら誰も来ないだろう。そもそも私はなんで病院にいるかすらわかってないのに。
「いつから寝てたんだろ……吹雪くんは今何してるんだろ? というか私が入院してることを知ってるのかな」
起きててもこの時間じゃやることがないので私は再度眠りについた。
※※※
俺は今日もあおいのいる病室に足を運んだのだが時計の位置が変わっていた。看護師の人が動かしたのかなぁと思っているとあおいも動いていた。
「看護師の人は横向きに寝かせないでしょ。さっきまであおいは起きててもしかしてもう1回寝た? これ」
1度目を覚ましてくれたということならとても安心できるが、現状は寝てるままなのでこの目で確認するまで確信はできないだろう。
それより……今日は風真さんから聞いていたあおいが海外に引っ越す日。もしここであおいが目を覚ましたのなら直ぐにお別れだ。
「……まぁ短い間だったけど楽しかったなぁ」
あおいが居なくなったら俺は生きていけるだろうか……いや生きていかないとダメなんだ。二度と会えないと決まった訳では無い、また会えると信じて俺は生きるんだ。
俺はあおいが起きるまで隣に居続けようと思ったが風真さんが来たのであおいの隣を譲った。風真さんからしたらあおいは実質娘のような存在なので隣は風真さんの方がふさわしいだろう。
「寂しくないかい? 蒼井と離れて、一人で生活するようになっても」
「……寂しいですよそりゃあ。でも俺にとっての普通に戻るだけですから」
あおいと過ごしてきた時間より1人で過ごしてきた時間の方が長いのだから独りの方が慣れている。いつものように学校に行って、いつものように髪の色が違うだけで差別されていじめられるだけの話だ。
「話が飛ぶが、蒼井のことは好きかい?」
「俺の事をおかしいと思わないですから、もちろん好きですよ。付き合いたいと思いますけど、これから海外に引っ越すってことを知ってますから」
「なるほどねぇ……。寝たフリは良くないよ、蒼井?」
「え?」
後ろを振り向いてみると笑顔でピースをしているあおいの姿があって、安心と同時にすっごい恥ずかしさが込み上げてきた。というか寝たフリをしてることに気づいていたのならあんな質問をしないで欲しかった。
とりあえずはあおいが目を覚ましてくれてよかった。
「蒼井、もう準備は済ましてあるから最後を2人で遊んで来るといい。ただ、私の見守りがある状態でだけどねぇ」
そりゃあ目を覚ましてすぐなんだから子どもだけで遊ばせる訳にはいかないか。
※※※
俺たちはあの山で出会ってあの山で別れる。
「ねぇ、吹雪くん。この指輪あげるよ」
そう言ったあおいは僕に向かって指輪を投げてきたので俺はそれをキャッチする。
「いいの? お母さんから貰って大切な指輪なんじゃないの?」
「今から離れ離れになっちゃうでしょ? 私は吹雪くんから貰ったこのネックレスを吹雪くんだと思うから、吹雪くんはその指輪を私だと思って生活してね?」
俺はキャッチした指輪をあの日あおいがしたように太陽に光に当てた。あおいの瞳みたいにそれは輝いて、これをつけていれば1人でも寂しくないとそう思えた。
残念なことにあおいの指と俺の指では大きさが違ったので俺の指にはその指輪は入らなかった。
「入らなかったかぁ……。まぁそうなると思ってたし、はいこれ、私の目と同じ色のチェーン」
「ありがとう、バレないように学校でもつけておくよ。言葉通り肌身離さずつけておくから」
そして暗くなるまで俺たちは遊んだ。今日だけは神社の周りだけで、風真さんの目が届く範囲で。
そしてついにその時間が来てしまった。
「そろそろ時間だね……。本当に吹雪くんと出会ってからは楽しかったよ、だけどこれでお別れだね」
「短い間だったけど楽しかったよ、次いつ会えるか分からないけどその時まで覚えて置いてね」
「うん、絶対。じゃあまたね」
『さよなら』じゃなくて『またね』、私たちはかなら再会できると信じている。
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