第8話 君のいない夜を越えて

今日、あおいはいつもの山に姿はを表さなかった。昨日の台風のこともあるし、普通に風邪なんだと思った。


この前看病してもらったこともあるし、看病しに風真さんの家に行ったのだがいつもと違って鍵が閉まっていた。


「病院にでも行ってるのかな……。俺の自由時間はお母さんが帰ってくるまで、時間は残ってるけど用もなしに病院に行くのはなぁ……」


そもそも用があったとしても子ども1人で病院に行くのは少しおかしな話だ。普通なら親と一緒に来るであろう病院に1人で行こうものならお母さんが何か言われてしまうかもしれない。


まぁ風真さんの家で待っていればいつかは帰ってくるだろうと思って待っていたが、2人が帰ってくるより先に俺が警察の人に見つかってしまった。


「君、ここで立ってるけどどうしたの?」


「いや、友達と遊ぶ予定だったんですけど家の中に誰もいなくて。ここで待ってたらいつか帰ってくると思って立ってました」


「そう、それじゃあ待ってるのはいいけど気をつけないよ。最近不審者が多いから、男子が狙われないとは限らないからね」


警察の人はそう言ってどこかへ去っていった。まぁあおいは風真さんと一緒にいるだろうし、俺も多少の護衛術なら不登校だった時に学んだ。


あの時の俺は心が非常に弱かった。たった一言何かを言われただけで泣いてたっけ、今となれば何を言われても気にしなくなった。


それから何十分、何時間経ってもあおいは帰ってこなかった。海外に行くのは夏休みが終わってからのはずなのでその可能性は無いしもし今日行くならあおいのことだし、俺に一言何かを言うだろう。


「うーん、なんで居ないんだろ。さすがにこれ以上待ってるとお母さんが帰ってきちゃうし家に戻ろ」


「ちょっと待とうか吹雪くん、少し話したいことがある。とりあえず家の中に入ってくれるかい」


帰ろうとしていた時に俺に声をかけたのは風真さんで、だけど近くにあおいの姿はなかった。


そのことを問うより先に俺は風真さんさんによって家の中に入れられた。


「なんですか、風真さんらしくもない。それにあおいも居ないですし……」


「今から話すのは蒼井の事だ、蒼井はしばらく吹雪くんと遊ぶことは出来ない。言っておくが命に別状はないから安心はしていい」


「入院でもしてるんですか? それなら俺はお見舞いに行きたいんですけど」


「そう言うと思っていたさ、蒼井も君に会えないことを寂しく思ってるからねぇ。じゃあ今から病院に行くが、多少の覚悟はしておいた方がいい」



※※※



風真さんと一緒に206号室と書かれた部屋の中に入るといつもの元気なあおいの姿はなく、ベットで眠っているあおいの姿があった。


頭には包帯が巻いてあって、いかにも重傷そうな感じだった。そんなあおいの姿を呆然と見つめていると風真さんが口を開いた。


「蒼井は私と買い物に行ってる時に転けてしまってね。当たりどころが相当悪かったのか意識を失ってしまったのさ。さっきも言ったが命に別状はない、毎日ここに来てくれると蒼井も喜ぶと思う」


「言われなくても毎日お見舞いに来ますよ。でも夏休みが終わっても目を覚まさなかった場合、この前の話はどうなるんですか?」


「ただ延期になるだけだろうねぇ」


もしかしたらと、聞いてみたがやっぱりそんな俺に都合がいいように物事は進まないか。とりあえず今はあおいが早く目を覚ますことを願うだけだ。


「風真さん……ちょっと願いがあるんだけど」


「あの神社にお祈りしに行来たいんだろう? 今回は私も一緒に願いに行くとしよう、私にとっても蒼井は大切な人だからねぇ」


俺はあおい以外の人と初めてこの山を登った気がする。登った先にあるのはやっぱり少し古びた神社。


とりあえずあおいの意識が早く戻るように風真さんと一緒に願った。これで早く元気になってくれるといいけど……。


「……蒼井が居ないと私は1人だ吹雪くん、私も君と同じなんだよ。蒼井以外に仲のいい人はいない、居たとしても仕事仲間でそれもその仕事の時しか関わることの無い人だ」


「風真さんも俺と同じなんですね、あおいに生活を支えられてるという点で」


やっぱりあおいは理解ができる人には好かれる。年齢を重ねて、周りに理解ができる人が増えたらもっとあおいの友達は増えるだろう。


それはもちろん俺にだって言えることだ。ひとつ言うとしたらあおいの隣は譲らないってことぐらいかな。


これからしばらくはあおいのお見舞いで遊ぶことは出来ないけどあおいに会えるだけでそれでいい。


(そういえば、手を繋いだりキスをしたら意識が戻るって本当なのかな……。キスは辞めとくとして手を繋ぐぐらいは明日試してみようかな)


今日はとりあえず家に帰ったのだが、普段ならまだあおいと遊んでいる時間なので少し退屈に思ってしまう。


そんか時間を我慢できないとあおいが海外に行ってしまった時に俺は生きれなくなってしまうので俺は慣れたはずの独りの時間を過ごすのだった。

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