第3話 悲しい知らせ

「うん、蒼井が友達を作れて私も嬉しいよ。でも……蒼井には悲しい知らせが来てしまったねぇ」


蒼井にとってさぞかしこの報告は悲しいはずだから、せっかく友達が出来たというのにここを離れないといけないなんてねぇ。


「どうしようか、蒼井にこの事を言うにしても夏休み中はせっかくの友達との時間を楽しんで欲しい。そもそも向こうの状況が分からない状態では私が結論を出すことは難しいね」


とりあえず向こうにいる姉さんに状況を聞くために電話をかけた。もちろん今家に居る2人に聞こえないように外へ出て。


『姉さん、海外に数年間仕事しに行くのだろう? もちろん蒼井を連れていく気だよね、小6の子を1人置いていく訳にはいかないから』


『そりゃあもちろん、愛する可愛い娘を1人置き去りにする親がどこにいるの? 海外の生活は仁愛には辛い思いをさせるかもしれないけど独りぼっちよりはマシよ』


『それなんだけどねぇ、蒼井に初めて友達ができたんだ。蒼井のその瞳を認めてくれる人が、その人は銀髪で変わり者同士仲良くなった。せっかくの友達なんだ夏休みの間は遊ばせてもいいと思わないかい? その後は私がアメリカに責任もって連れていくさ』


蒼井はもはや私が育ててきたと言っていいだろう。実質の娘がようやく友達を作って、今を楽しく過ごしてるんだ、その日々を大人が壊してしまうのは違う。


アメリカに行くのだって今すぐじゃなくともいいはずだ。私のわがままを言うならずっと2人で遊ばせたいところだが蒼井は姉さんの娘だ、私のわがままでこちらに留めておくことは出来ない。


それに私にだって仕事はある、ずっと蒼井の面倒を見ていられるわけじゃないからねぇ、これも仕方ない話か。


『夏休みの間だけ、夏休みがすぎたらこっちに連れてきてもらうから。……仁愛をその子に依存させたらダメよ、その子がいなくなった時に生活できなくなったら困るからね』


『それは私に止められることでは無い。2人はおそらく私の知らないところでも会ってるさ、それを私が止めに行くのは無理な話……。まぁ何処で会ってるかぐらい予想はつくけどねぇ』


蒼井がいつもお祈りに行ってるあの山頂にある神社、そこで何をお祈りしているかは知らないけど2人が出会うならそこぐらいだろうねぇ。


『とりあえず夏休みの間は私に任せて欲しい。それじゃあ姉さん、またいつか2人で飲みにでも行こう。でもこの事は私から蒼井に伝える、姉さんは何も言わないで』


『えぇ、アメリカに仁愛を連れてきた帰りにちょっとだけね。それじゃあ夏休みの間は任せたわよ』


私は電話を切りいつもの椅子に戻る、とりあえず夏休みの間はここに留めることは出来た……けど逆に苦しめてしまうかもしれない。


3週間もあればあの二人はだいぶ仲良くなってるだろう。そんな2人に唐突な別れが来てしまうのはこっちからしても耐え難い事だ。


「2人にはこの夏休みを思いっきり楽しんでもらえばいい。蒼井に教えるのは夏休みが終わる1週間前くらいかな、その1週間で決断してもらわないとねぇ」



※※※



俺たちは風真さんが仕事を始めるらしいので家から出て、あの山の山頂に戻って石段に座っていた。


「あおいみたいな人だったなぁ、風真さん。いや逆か、あおいが風真さんみたい」


「そりゃあほとんどの時間を風真お姉ちゃんの元で育ってきてるんだから、似るのは当たり前でしょ? お父さんとお母さんはいつも仕事で私に構ってくれた時間は少ないかな」


俺は少し気になるのだ、あおいの母親と父親がどんな人なのか。俺の銀髪が親からの遺伝のようにあおいの瞳も親からの遺伝なのかとか色々。


でも現状あおいの親に会う手段は僕には無い。別に会わなくたっていいんだけどね、あおいとこの山で会えるのなら。


「そういえばあおいは、なんでわざわざこんな山頂にある神社にお祈りに来るの? 神社ならもっと別の場所があるのに」


「7年くらい前なのかな、お母さんの仕事がまだ忙しくなくて私のお世話をしてくれてた頃にお母さんがここにお祈りしに来てたんだ。それで小学校にに入ってから毎日ここに来てる、最初のうちはお母さんも一緒だったけどね」


自分の娘が1人でこんな山に行くのを止めるのは親として当たり前の話だ、そりゃあ一緒について行くだろう。


「じゃあここは、あおいの家族にとってなにか特別な場所なんだね」


「そうだと思うよ、少なくともお母さんにとってはね。私はお母さんを真似てここに来てるだけだからさ」


俺は偶然ここに来ただけなので母親の真似をしてここに来るあおいは凄いだろう。少なくとも俺は親が行っていてもここには来ないと思う。


「そろそろ帰ろっか、一応私たちはまだまだ青い子どもなんだからさ。良い子はもう帰る時間だよ」


「大人みたいな事言うね、あおいだって俺と同学年でしょ。2人とも青い子どもじゃん」


「ふふっ、そうだね。それじゃあ日が落ちる前に一緒に帰ろうか」


一緒に帰ると言っても家の方向が違うので山を降りるまでだ。でもその短い距離だけでも満足だった、あおいと一緒に遊んだんだって実感出来る。


この山に偶然立ち寄って、あおいと出会って、お互いを理解しあって……ほんと一昨日とは全く違う世界にいるみたいだ。

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