第2話 夏の日の思い出

あの少女との出会いは小6の夏休みだった。


俺が適当に入った山の頂上にある神社で君が純白のワンピースを着て祈っていたんだ。


俺は別にこの場所に用事がある訳でもないし、あの子の邪魔をしたくなかったので翻って山を降りようとした。


「こんなところに人が来るなんて珍しいね。ちょっと話そうよ」


「暇でここに来たからいいよ。君、名前はなんて言うの?」


彼女はあおい、そう名乗った。


そして驚いたのは俺と同じ小6だってこと、小6にしてはお祈りをしてたり佇まいだったりどれも大人みたいだった。


「髪、珍しい色だね。綺麗な銀髪、アニメのキャラクターみたい」


「良く珍しいって言われるよ。でも君みたいに綺麗って言ってくれた人は居なかった」


人間というのは変わってる者を除け者にしてそれを同じ思想を持つ人間で結託してその変わり者を叩くのが好きなんだ。


実際俺は避けられていたけどそんなのは別に気にしていない、1人ほうがこうやって自由にいろんな所へ行けるから楽だ。


俺の髪は地毛、大人はそのことをわかってくれてるがまだまだ青い子どもの俺たちはその理解がまだ足りてない。


だがあおいは別だ。俺の髪をバカにすることも、避けることもない。


「俺の名前をまだ教えてなかったね、吹雪。出会いたてだけど俺をバカにしない人はあおいが初めてだ」


「うんうん、私たちは似てるね。私だってこの瞳のせいで避けられてるから」


「ふーん、宝石みたいに綺麗だと思うけどね。やっぱ子どもはまだまだ青い、判断能力が足りない」


似た者同士、仲良くなれそうだなと思った。


「俺はまた明日、ここに来るからあおいもここに来てくれないかな? それで学校のことだったり家族の事だったり。お互いの理解者として」


お互い避けられていて、でも避けられてる者同士だからこそお互いを理解できる。


よく考えれば今日会ったばかりの人にこんな約束を言うなんて普通じゃないとは思うが、あおいは他の人達が言う『友達』というものと違う気がしたんだ。


もっと特別な『友達』とは違う何か、言い表すのなら唯一無二の人だろう。


「それじゃあ私は明日もこの時間にここで祈ってるから。夏休みの間はずっと私はここに来るから会いたいのなら君も吹雪くん来ればいいよ」


「俺は毎日ここに来るよ。でも夏休みが終わったら次の夏休みまでお別れだね」


「うん、でも30日もあればたくさんの思い出が作れるね。誰にも縛られないで自由に」


その日から俺に初めて話し相手ができた。でもそんなあおいとの日々も夏休みが終わってしまえばしばらく無くなると考えれば寂しい。


一度2人で話す楽しさと喜びを知ってしまえば、1人で過ごす日々がより辛くなる気がした……いつも1人で生きてきたはずなのに。



※※※



俺は翌日、言ったおり山の頂上に向かうとあおいが、昨日と同じように神社の前で祈っていた。


なんのために祈っているかは知らない。


「今日も来たね。ちょっと待っててもう少しで祈り終わるから」


昨日から思っていたがあおいは俺の方を見ていないはずなのに俺が来たことに気づく。そんなに足音は立ててないはずなのだが、あおいの耳がいいのだろうか?


俺はそんなことを考えながらあおいが祈っている姿を眺めているが、やっぱり小6の少女には見えなかった。


服装は歳相応だが、佇まいだったりが大人だ。それに指には宝石のはめ込まれた指輪が付いていた。


「おまたせ、随分私の指輪を見てたけどそんなに気になる?」


もうここまで見透かされてたら驚きを超えてもはや怖い。


「綺麗な指輪だなって思ってただけだよ。昨日も付けてたけど大切なものなの?」


あおいは指輪を外して陽の光を当てる。その行動になにか意味があるかは分からないがあおいは口を開いてこういった。


「小学校に入学した時にお母さんから貰ったんだよ。私が持ってる物の中で1番大切だよ、この指輪は……もちろん本物の宝石じゃないけど」


「俺は形に残るものを貰ったことは無いな。お祝いの日にご飯を少し豪華にしてくれるだけで満足だった」


俺は山道を歩きながら思い返してみるが、いつも誕生日だけはご飯が豪華だったのを覚えてる。1回物を貰えないことに不満を覚えたこともあったが今思えばワガママすぎた。


その事を理解してから俺は文句を言うことはなくなったし、自分から物は要らないと言うようになった。


「なんか形に残らない物ってのもいいね、その方がより記憶に残ると思うから。でもね、形に残らないからこそいつかは失ってしまうんだよ」


「確かに持ち越す事は出来ない、けど俺が忘れなければいい話で……」


「これから先もずっと覚えておける確証はあるの? 自分の親がそのご飯を作れなくなったあとも私たちは生きている。その形に残らない物を目にすることがなくなってもずっと覚えておける確証なんてないでしょ」


俺はあおいの言葉に言い返すことが出来なかった。だってまさにその通りだ、俺がずっと覚えていられるなんて確証ない。


それに反して形にさえ残っていればその物を見れば思い出せるだろう。でも俺が貰っているものはその一瞬しか見ることは出来ない。


「ちょっとキツいこと言っちゃったね。今のは忘れて、人はそれぞれ違うから」


「いや、別に気にしてないよ。そんなことよりこれはどこに向かってるの?」


「それは秘密だよっ! だってそっちの方が着いた時に吹雪くんが驚いてくれそうだし」


とりあえずあおいに着いて行くのだが昨日と違うのは山道じゃなくて普通の住宅街を歩いているということだ。


そうなれば今俺たちが向かっているところはあおいの家しかないだろう。そうじゃなかったら俺は予想ができない。


そしてあおいはとある一軒家の前で止まった。そしてあまりにも自然に入っていくのでここはあおいの家なんだと思ったが中に入ると1人の大人が本を読みながら座っていた。


「いらっしゃい蒼井。今日はお友達も一緒かい? 君もそんなに固くならなくていいよ、私は堅苦しいのは苦手だからねぇ」


今の言葉でここがあおいの家でないことは理解出来た。それにあおいは普段からここに来ていることも伺える。


「この人は誰なの、あおい?」


「風真さん、私が幼稚園の子から今もお母さんが仕事へ行ってる間だけお世話をしてくれた人。まぁお姉ちゃんのような感じかな、歳は離れすぎちゃってるけど」


佇まいはあおいに似てる気がする、いや風んにお世話されて育ってきたんだから風真さんに似たってことか。


風真さんは髪で片目が隠れているのだが普段の生活で視界が狭くて不便じゃないのかなぁと思う。


「大丈夫、ちゃんと見えているよ。長いことこの髪で過ごしているが不便と感じたことはない」


「そ、そうなんですか」


あおいのように視線だけで考えてることを読まれた。


やっぱりあおいは風真さんに全てを育てられたんだ。佇まいも、その読みも。


俺たちは二階の部屋に案内されてそこであおいと話をしていた。


「あおいにとって風真さんはどんな人?」


「両親が仕事でいない時はずっと私のことをお世話してくれた。さっきも言ったけどお姉ちゃんだよ、とても頼りになる」


2人の絆はだいぶ深そうだ、風真さんはあおい自身のことだって両親のことだって知っているのだろう。だって自分の娘を任せられるくらいなんだから。


「とりあえず今日はここで楽しんで、また明日山頂で会おうよ」



※※※



「うん、蒼井が友達を作れて私も嬉しいよ。でも……蒼井には悲しい知らせが来てしまったねぇ」

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