終章

「隔離世・解」


 キド君がそう唱えると、ふいに校庭で遊ぶ生徒の声が響いてくる。改めて考えると、それまで聞こえてこなかったのが不思議。

 キド君が言ってた結界の影響なのかな。

 ぼーっと見ていたら、


「ナガタさん、ちょっと」


 と手招きをされる。

 おとなしく従う私。

 なんだろう、と様子を窺えば、急にキド君に手を握られた。


「!」

「『幽遠閃華・楓』」


 キド君は何でもない表情で呪文を唱える。


「えっと」

「怪我治しておいたから」


 キド君にそう言われ、私は視線だけで膝の傷を確かめる。傷は、キド君の言う通りきれいさっぱり治癒していた。

 そっか。

 怪我、治すためか。

 急に手を握るから何事かと思っちゃったよ。

 キド君は今はコノカちゃんの姿だけど、どうしてもキド君という認識が強いから手を握られたらびっくりしちゃう。

 しちゃう、というか、してる。


「えっと……」


 握られたままの手を見る。

 よくわからないけど、傷を治すのに必要な行為なんだよね?

 だったら、放してもいいのでは?

 隣に立つカナタ君も驚いた顔してるよ。


「あの……」

「ナガタさんさあ、俺らのこと興味あるだろ」

「え……?」

「俺らって言うか、化け物退治。さっきそんな顔してた」

「……」


 カナタ君に関わる必要ないって言われたときのことかな。

 正確に言うなら化け物退治に興味があるわけでも無くて。さっき名前を呼んでもらえたことでだいぶ救われてて。

 ということを、なるべくわかりやすく的確に伝えるにはどうしたらいいか考えていたら、カナタ君がキド君の頭をペシっと叩いた。


若葉わかばちゃんが困ってる」

「うるせーな。お前だってナガタさんといられたらいいとか思ってるだろ」

「そ、それは……」


 え、そうなの?

 カナタ君は私なんかが関わるの反対なんだと思ってた。

 キョトンとカナタ君を見れば、カナタ君は言葉に詰まったような表情を浮かべ、


「……まあ、うれしいけど」


 と、顔を背けつつ答える。

 表情は見えない。

 これは、何というか、渋々言わせてしまった感。

 本人を前にして迷惑だとはっきり言う性格ではないよね、カナタ君は。

 辞退すべきだと察し、愛想笑いを浮かべる。


「私なんかじゃ無理だよ、別の人を──」

「お前、それ、気の利くクラスメイトのロールプレイしてるつもりなら勘違いだからな」


 私の言葉にかぶせるようにキド君が言う。

 うっ、冷たい。

 ダメな奴でごめんなさい。

 少し心がえぐれつつ、どういえばいいのか考える。

 この場で一番適した返答ってなんだ……?


「いや、本気で分かんないのかよ」


 私の様子にキド君があきれた口調で呟きながら、本を閉じるしぐさをした。

 すると、コノカちゃんの姿が消え、キド君本来の姿に戻る。

 私の前には、試すように私を見る黒髪転入生と、少し顔の赤いクラスメイト。

 二人は、本当に私を必要としてくれてるのかな。

 だとしたら、それはとてもうれしくて──。


「あの、えっと」


 おずおずと、でも、しっかり口に出して言う。


「私、がんばるね」


 その答えに二人は、


「おう」

「よろしくね」


 とそれぞれの答えを言う。




 これから私はこの二人とともに、人格どころか人生変えちゃうような経験をすることになるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロールプレイング! 水野むつき @mizuomutsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ