第28話 その勇者、戦いの結末


 半壊した学園をいつもと変わらぬ朝日が照らす。壮絶な戦いの爪痕を残して・・・


「・・・ま、守り切ったのか?」


 誰ともない疑問の言葉に、答えを返す者はいなかった。


 『百鬼夜行』の狂気を切り抜けた者たちは、皆疲弊し傷ついていた。


「ユキト先輩・・・」


 学生寮前の芝生で倒れ込んでいるみんなの元へ重ぃ足を引きずりながら歩いていく。


「みんな、無事か?」


「スズちゃんと、先輩たちが倒れて・・・そ、それと・・・さ、サラサ先輩が・・・ううう」


「サラサのとこに連れてって、ミオちゃん・・・」


 泣きじゃくるミオちゃんを急かして、重症者が集められた簡易治療所に向かう。


 身体に重大な欠損を受けた患者が4〜50人、担架に乗せられて並んでいた。


 いつもポニテにしていた綺麗な黒髪のほとんどが包帯に覆われて、赤いシミが浮かんでいる。


 俺は無事だった左手をそっと握り、サラサの耳元に口を寄せてささやいた。


「ごめん、遅くなった。」


 サラサの頭がピクっと動いたが、両目が包帯て隠れているので、サラサに伝わったかどうか分からない。


 俺は、サラサの荒れた唇にそっと唇を重ねながら、空になった魔力を生命力で補いながら、魔法を発動した・・・


神級回復魔法エリアハイヒール


 俺を中心に黄金の魔法陣が横たわる重症者たちを囲み、包帯に覆われた彼ら彼女らを金色の光で包み込んだ・・・


◇◇◇


 すめらぎは冷静な怒りの炎で身を焦がしながら、箱根山中の大きな建物に侵入した。


 それはとある新興宗教団体の施設だったが、怒りに燃えた皇には何ら関係のないことであった。


 人気のない建物の中を、皇は堂々と歩いていく。もし、今の皇の前に立つものがいたとしたら、それは直ぐにこの世と別れを告げることになっただろう。

 

 それ程までに皇は怒っていた。同僚や教え子の多くを殺されて・・・


ガチャ!


 皇は地下の一室のドアを開けて中に入った。


「まだ学園に、転移陣が、残っておったの、か・・・」

「なぜ、ここが・・・わかたか?」

「・・・」


「お前たちの臭い壺の匂いを追ってきた。この日ノ本の地に、汚い呪怨の臓物を垂れ流しやがって、この死に損ない共が!」


「我らは王家の影・・・」

「・・・だが、西欧、化の、名で切捨て、ら、れた・・・」

「・・・この恨み、はらさで、おくべきかァ!」

「皇!お前、の、血肉、臓腑や髪の、毛の1本まで・・・」

「・・・我ら、が、使い潰して、やるわ!」


 老人たちの中心にあった魔法陣が火柱を天井まで吹き上げ、炎の魔人が皇に襲いかかる!


 すかさず皇は両手の指で4角を作り、その焦点を炎の魔人と魔法陣に向けた。


極黒絶無獄ごっこくぜつむごく


 ちょうど魔法陣の真上に出現した野球ボール大の『ブラックホール』!

 ほんの一瞬の出現であったが、それでも地球の自転をコンマ数秒狂わせるだけの超質量をもつものであった!


 広い地下室の構造物と共に、ミイラのような老人たちと炎の魔人を一瞬でミニブラックホールは飲み込んで行った・・・


「そんなにこの世が憎いのなら、事象の地平線のかなたで、未来永劫そこを彷徨さまよえ!!」


 そう言い残して倒壊し始めた建物から、皇は急いで脱出した。


◇◇◇


 夜明けの少し前、在日C国大使館の一室で、張 上校大佐は豪華な革張りの椅子に腰を下ろして作戦の進捗を監視していた。


 張 上校大佐は最高級のコイーバの葉巻をくゆらせて、電子機器を操作している部下たちに誰とはなく語った。


『どうやら作戦は失敗だな。あれだけでかい口を叩いたくせに、王 中校中佐め!どの面を下げて帰ってくるのか見ものではないか!ふはははは』


 この部屋にいる駐留武官はみな政治的エリートであり、党中央の勢力図を熟知した者たちであるため、張 上校大佐の言葉に口を挟む愚か者はいなかった。

 ただ、これで軍中枢の支配構造が変化することを予感し、それぞれが所属する派閥の首魁しゅかいに報告する内容を頭の中で検討し始めていた。


 すると、大使館内部でも、最高のセキュリティに守られたこのオペレーションルームのロックが解除され、室内に侵入してきた者たちがいた。


『王 中校中佐に、馬 少校少佐だと!貴様生きていたのか!

 なぜ貴様たちがここにいる!』


 張 上校大佐は混乱しながらも、乱暴に入室してきた男たちを観察した。


 みな一様に血や泥て汚れていたが、武装はしておらず、ホット警戒心を解いた。


『張 上校大佐!貴様、この失敗の責任はどの様に取るつもりなのだ!

 おい!この敗北者を拘束しろ!生まれてきたことを後悔するまで痛めつけてやる!貴様の家族共々ともどももな!ふははは!』


『作戦の責任は果たしてもらいますよ、これからね。』


 そう言って入ってきたのは、在日華僑の幹部である劉 安暉だった。


 血みどろの戦闘服を着た張 上校大佐たち超務部隊の隊員たちとは対象的な高級スーツに身を包んだ劉からは、いつもの彼らしからぬ異様な雰囲気が感じられる。


『劉!貴様、どうやってこの部屋まで入ってきた!貴様にその権限はない!誰か・・・』


『黙れ!汚い党の豚!』


 劉の一言に、張 上校大佐は激怒し、胸のホルスターから拳銃を取り出した!


『劉!貴様を党への反逆こ・・・ギャァァァァ!』


 拳銃を構えようとした張 上校大佐の眼球には、劉の手から放たれた長さ10センチ強の太い針が刺さっていた!


『張 上校大佐。あなた方は慎ましくこの国で平穏に暮らしている我々を、党の愚かで下劣な方針のために使い潰そうとしている。これは我ら在日同胞からの答えだ!』


 劉の命令で、王 中校中佐元超務部隊たち20名のが、一斉に生者たちに襲いかかった!


 劉 安暉は事の成り行きを見届けることもなく、凄惨なオペレーションルームから消え去った・・・


 ・・・この日、在日C国大使館は動くによって壊滅した・・・


◇◇◇


『ユキトー!スズネー!』


 俺は母さんの叫び声で目を覚ました。


 俺はいつの間にか、学生寮が立ち並んでいた敷地の外れにある、木立の日陰で横になっていた。


 「「ユキト先輩!」」


 クルミちゃんとミオちゃんが俺の胸に抱きついてきた。


「2人とも、ごめん。ちょっと待って

・・・」


 俺は必死になって、母さんとのをたぐった・・・


 すると、母さんを取り囲む男たちの姿が


「母さんが、危ない!早く行かなきゃ!!」


「ユキト先輩!無理です!魔力もほとんど残っていないのに!」

「そうです!ユキト先輩が魔力切れで倒れてから、まだ30分も経ってません!いくらも魔力は回復してませんよ!」


 クルミちゃんとミオちゃんが泣きながら俺を止める。


「ここで行かなきゃ、じゃないからな!それに、家族が危険な時に黙ってる俺じゃ、ガッカリだろ?2人とも。」


 そう言って、2人のおでこにキスをいてあげた。おまじないさ。


「・・・分かりました。でも、でも、どうかお気をつけて!」

「私たち、ユキト先輩が無事に帰るのを、ここで待ってます!待ってますから・・・!」


 それ以上、ミオちゃんは言葉に出来なかった。


「ありがとう、2人とも。行ってくる!スズネたちを頼む!」


『フライ!』


 俺は東北の空、故郷の家を目指して全力で飛んだ!


「母さん、頼むから無事でいてくれ!!」



*************


新作投稿始めます。


ダンジョン経営ものです。

よろいしかったら、こちらもお楽しみください。m(_ _)m


題名: 欲望のダンジョンの貧乏マスター 〜 最弱のゴブリンだけのダンジョンって・・・詰んでね?


https://kakuyomu.jp/works/16817330659844174873/episodes/16817330659898679446

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