第49話マルバラ公

 宮中警備の兵と執事に連れれた一団の脇を通る……その瞬間、筆舌に尽くしがたい美少女と目が合った。

 その大きな瞳は青にも緑色にも見える透き通った瞳の色は美しく、まるで街灯に誘われる蝶のように吸い寄せられてしまう。


「おう、これはこれはシャッテン殿……壮健そうでなによりです」


 挨拶をしたのは壮年の男性だった。

 恐らくは……何れかの公爵家の当主だろうと辺りを付ける。


「お久しぶりですマルバラ公爵、親族の奮戦の御蔭でなんとか十歳祭には出らそうです」


「実のところ儂も気を揉んでいたのだ。ベーゼヴィヒト公爵家は軍事に優れるしかし、モンスター共との戦争では数がモノを言う……遠方を治めるとは言えど儂も公爵、困った時はお互い様だ引き続き食糧支援は一層行う事を約束しよう……」


 どうやらマルバラ公爵家は、長年にわたり食糧支援をしてくれているようだ。

 言葉通り売ってくれるだけなのか、無償で提供してくれているのかで話は変わるが、まぁ概ね味方と思っていいだろう。


「……ありがとうございます」


「なに、儂もベーゼヴィヒト公爵あのジジイには同情しておるのだ。儂と違って孫の晴れ舞台をその目で見れぬのは可哀そうだからな……」


 そう言うと美少女の肩に手を置いた。

 絹のように纏まりのある蜂蜜色の長髪が揺れる。


「おじいさま?」


 鈴を転がしたような耳に残る声音。

 幼い声ながら妙な色気を感じさせる。


「フム。いい機会だ挨拶をなさい」


「はい!」


 元気よく返事をするとドレスの裾をチョコンとつまむと、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋をピンと伸ばし優雅な挨拶をする。


「お初にお目にかかります。マルバラ公が孫娘、エレオノーラ・フォン・スペンサー=チャーチルと申します。どうぞお気軽にエレノアとお呼び下さい」


 あまりの美しさの数舜遅れこちらも挨拶返す。


「お初にお目にかかります。ベーゼヴィヒト準男爵家当主、シュルケン・フォン・ベーゼヴィヒトと申します」


 互いに礼をし終えると、金髪碧眼の美少女改めエレノア嬢が疑問を口にした。


「ベーゼヴィヒト準男爵家? 公爵家ではなく?」


 困惑している顔も美しい。


 だがしかしまだ十歳……せめて15、6歳は超えないと幾ら肉体年齢が同じぐらいとは言えど、前世の倫理感的に手を出す勇気はない。

 法改正されたのだから18歳からダルルォ! と言われ兼ねないが、事実として未成年同士の性交渉は行われているのだから多少は許して欲しい。

 それにこの世界では9歳で嫁ぐこともザラにあるのだ、二十代で行き遅れのこの世界ではかなり真面だと思って欲しい。

「産めよ、増やせよ、地に満ちよ」を地で行く、乳幼児死亡率が高いこの世界では早婚、早き出産が求められる。

 大丈夫、前世では五歳で出産した事例もあるし、平気、平気、俺の性癖は多分正常だ。


 おっといけない。自分の世界にトリップしていた。


「ええ本日、陛下に功績を認められまして準男爵に徐爵されたのです」


「まぁ! それはおめでとうございます。機会がありましたらシュルケン様の武勇をお聞かせ下さいませ」


 ――――と水商売や接客業の人間みたいにヨイショしてくれる。

 大変に気分がいい。

 そう言う婦女子教育の賜物なのか天性の才覚かはともかく、水商売をやれば天下を取れそうだ。


「ええ、是非機会が御座いましたら……領地から出たばかりの私は友人が少ないので仲良くしていただけて嬉しいです。お近づきの印にこれを……」


 と一言添え、婦女子への贈答品にと考えていたものを渡す。

 一定の手応えを感じているとはいえ贈答品に香水や化粧品を、と言うのは好みや肌に合う合わないという観点から却下し、ドワーフ製の小物をプレゼントに選んだ。

 松竹梅とランクを付け相手の家格や立場にキチンと合わせている。


「まぁ素敵な品ですわね……」

「ドワーフ製かしら?」


 流石公爵家の御婦人、目が肥えていらっしゃる。


「御慧眼の通りです。名は通っていませんがお嬢様、年頃の未婚ミス既婚ミセスの皆様は将来のお相手、現在のお相手が居らっしゃいますので無礼にならない程度の贈り物をさせていただこうという訳です」


「しかし公爵の孫である君には必要ないだろう?」


 父上と同じぐらいの年齢の男、恐らくエレノア嬢の父親が割って入る。


「名目上、私は独立した準男爵の長御座います。オマケに私は商会を所有しておりますので、皆さまの覚えめでたい存在となり実家と商会に便宜を図っていただけるようになれば……と考えている次第です」


「ジジイがジジイなら孫は孫。とんでもない子狸だな……まぁそれぐらい早熟でなければ、徐爵に値される功績を挙げるのは難しいだろうな……」


「閣下、お褒めの言葉ありがとうございます」


「褒めてはおらんわ……全く……」


 昭和の頑固ジジイ見たいな人だな。


「閣下、そろそろお時間が……」


 宮廷の人間の言葉でマルバラ公との話は幕を閉じる。


「長話をしてしまったようだな……では失礼する」


 エレノア嬢は公爵家の正妻として家格は見合っている。しかし、十歳ともなれば婚約者がいると考えて置かなければならない。

 が、しかし自身の野望のハーレムのメンバーにはあの娘は欲しい人物だ。


マルバラ公爵家か……


 家格が下なら命令とか金で解決できるだろうが……難しいな……


さてどうしたものか?


俺の思考はどうすればエレノア嬢のような高貴な身分の姫を複数嫁に迎えられるか? と言う者に変っていた。


金を稼ぐ?


領土を増やす?


王に否……帝王になる?


 考えれば考える程にその手段は現実的ではなくなってくる。


一先ずあいさつ回りをやらなくては……


大それた野望を胸に抱き会場へと戻るのだった。




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新作のタイトル

【好きな幼馴染がバスケ部OBのチャラ男に寝取られたので、逃げ出したくて見返したくて猛勉強して難関私立に合格しました。「父さん再婚したいんだ」「別にいいけど……」継母の娘は超絶美少女でした】

https://kakuyomu.jp/works/16817330658155508045/episodes/16817330659866009057

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