コウと若のおまけラブコメ 『放課後おうちデート』

放課後、俺と わかは共に教室を後にする。


「今日の数学の公式が分かんなくてさ」


「ああ、あそこね。確かに難しいわよね」


「そうそう、先生の板書消すスピード早すぎて」


みたいな会話を わかとしながら下駄箱へ。




……ヤバい。なんだろう、すごく感動する。




俺、いまめちゃくちゃ充実した青春を送っているのでは?


俺も若も、一度は諦めた青春をふたりで追い直している気分だ。




「……ところでさ、あえてここまで訊かなかったんだけど」


「何かしら」


わかって俺より1個、歳がうえ──」


「──なんのことかしら?」


「学年がひとつ──」


「──何を言っているのかしら?」


「……なんでもないです」


強めに言われて、俺はおずおず引き下がる。


……まあ、JAS.Labジャス・ラボにある謎のコネでも使ったのだろう。


ツバメ先生もかつてはそうやって俺の担任になったわけだし、 まあそんなことしなくてもわかはハッキングとかが得意なようなので、いろいろ改ざんすることもできるんだろうけど。


「ところでそんなことよりも、コウくん」


「はい?」


「今日のその、これからの予定だけど……」


わかが、クールなこれまでの素振りから一転、らしくなくモジモジとする。


「その……空いてる?」


「もちろん。なんせ、今日も病室に遊びに行くつもりだったし」


わかさえ疲れていないのであれば、これからお邪魔して追加で わかとの時間を楽しみたいところですらある。


「そ、そう。それは良かった。それなら、その──」


わかはひとつそこで言い区切り深く呼吸をすると、意を決するように、




「──コウくんのおうちに行ってみたいのだけれど」




そう言った。


「……」


「……」


「……えっ? 俺の……【おうち】……!?」


「……うん。ダメ……?」


俺は呆気に取られつつも、


「ダメじゃない、ぜんぜん、ダメじゃない」


ロボットのようにカクカクと首を横に振った。


「ぜんぜん来てオッケー。ぜんぜんオッケーよ。むしろウェルカムね」


「……コウくん、何故かカタコトになってるわよ?」


そりゃカタコトにもなるさ。


だって──恋人が家に来るんだぞ……!?


わかだって、だからちょっと言い出すのに緊張してたんじゃないのかっ?


……もちろん、俺にやましい気持ちなどこれっぽっちも──少ししかない。2割か3割……多くて5割といったところだろう。


「……えっと、じゃあ、俺ん家に向かうとしようか……」


「うん……」


「その、何しよっか……?」


「何、しようかしらね……」


「……」




……やましい気持ちが6割くらいに上昇した。




いや、しないよ? そんなことは。断じて。


まさか病み上がり早々の恋人にそんな【おイタ】を働くわけないじゃないか。


でもさ、ちょっとくらいイチャイチャとかさ……チューとかさ……全然そういうのもまだですし。




まあ、そんな風にふたりでカチコチになりながら家まで帰ってきた。


ガチャリ。ドアを開ける。




「──あ、おかえりコウ。あのさ、迷探偵ナコン君の18巻が無いんだけど」




ダボTシャツを着こなしたシルヴィエが俺たちを出迎えた。




「……はっ?」


低音の「は?」とともに、 わかの視線が俺に向けられる。


「これ、いったいどういうこと……?」


「あー……そうだった……忘れてた……」


俺……シルヴィエを家に住まわせているんだった。




……ちなみに、すでに わかとシルヴィエには面識がある。 わかの意識が回復してから、紹介がてら病室へとシルヴィエを会わせに連れていったのだ。




ただ、その時に【シルヴィエといっしょに住んでいる】と伝えたかというと──伝えてませんでしたね、ぜんぜん。




「コウくん。まさかウワキ……」


「違う違うっ! こんな堂々としたウワキあってたまるか!」


俺は慌てて事情を説明する。いつまでもハロワに行かないシルヴィエのぐぅたらっぷりを添えて。




「──事情は分かったわ……でもね、ダメよっ! うら若き男女が朝も夜も同じ屋根の下なんて! それが私の彼氏だっていうならなおさら!」




「うっ……」


それは確かにごもっともだ。逆の立場で、 わかが他の男とひとつ屋根の下で過ごすことになったら……俺は発狂することだろう。


人にされて嫌なことを、自分がするわけにはいかない。


「……そんなわけでシルヴィエ、スマンが出てってくれ」


「突然の追放宣言かっ!?!?!?」


シルヴィエが悲鳴を上げる。


「頼むよ、コウ! 行く宛ても無いし、ナコン君もまだ80巻以上残ってるんだよぅ……!」


「うーん、どうしたものか……」


まあ、さすがに今日の今日で出て行ってもらうつもりはない。そこまで鬼ではないつもりだ。とはいえ、シルヴィエの住まいをどうするかは本格的に検討しなければなるまい。


「とっ、とりあえず大乱闘スマッシュシスターズでもやりながら考えないかい?  わかさんも『近接良し離れて良し』のシャムスで無双したら多少は気が晴れると思うし……!」


シルヴィエはそう言うと、 わかの袖を引いてリビングへと入って行く。




──その後の話し合いの結果を言うと、 シルヴィエは退院後にわかといっしょに住むことになった。それまでの間は俺の家だ。




ちなみにシルヴィエは弱キャラのはずのブリンで俺とわかに無双してきた。


……やり込み過ぎなんだよな、コイツ。ニート根性が染みついてやがる。




* * *




──夏が来た。




朝、起きる。歯を磨いて、顔を洗っているとガチャリと部屋のドアが開く。


「朝ご飯、作りに来たわよ」


「うん、ありがとう」




──わかは退院して、俺の部屋の隣に引っ越してきた。それからというもの、毎日こんな感じでお互いの家を行き来して一緒に朝ごはんを食べている。たまに俺も作るけど……圧倒的にわかが作ってくれた方が美味い。




「シルヴィエは?」


「まだ寝てたわ。昨日も徹夜でオンラインゲームやってたみたい……そろそろ本気で働かせるか、あるいは一緒に学校に行ってもらうかのどっちかにしないとね」


「そうだなぁ……あいつ、異世界じゃ大事なところで足は引っ張るけど普段は有能、って感じの参謀ポジだったのに……」


まあでも、それも猫を被っていたからこその見掛け倒しな有能っぷりだったのかもなと、今では思う。


ハムエッグとトースト、ホットコーヒーの並んだ食卓で、「いただきます」とふたりで手を合わせる。


「コウくん、宿題はちゃんとやった?」


「やりはしたんだけど……応用問題で分かんないとこがあって」


「もう。いつでも呼んでくれたらいいのに。分からないところを放っておいたらダメよ。医学部受験するんでしょ?」


「する……俺は人を癒せる人になりたい」


「……うん。だったらしっかりやらないとね。朝ごはん食べたら教えてあげるから、ちゃんと予習していきましょ」


そんな風に、俺とわかの日常は続いていた。


敵が襲ってくることもなく、不幸なことが起こることもない、幸せな日々だ。




宿題を終え、予習も済ませ、そうして俺とわかは部屋を出る。外には雲ひとつない青空が広がっていた。




「今日もいい天気……」


「そうだな。今日もいい天気だ」




俺とわかは進む。俺たちの新しい日常を。


いろんな事情があって他の高校生たちよりかは遅れた青春かもしれないけど、それでも俺たちは再スタートを切った。


なら……あとは全力でこれからの日々を楽しむだけ。


わか、今日さ、放課後ちょっと寄り道しない?」


「なぁに? 勉強はいいのかしら」


「それも大事だけど……やっぱりさ、他の恋人っぽいこともいっぱいしたいから」


「……そうね。じゃあどこに行く?」


「そうだな──」


俺たちは手を繋ぎ、学校への道を歩き出した。






===================


いったん終わりです。


ここまでお読みいただきありがとうございました。


無事に最後まで書ききることができてよかったです。


本作、ドラゴンノベルズコンテスト参加中です。


少しでも、


「おもしろかった!」


「続きも読んでみたい!」


などご感想がありましたら、ぜひ☆評価をいただけると嬉しいです。




それではっ!

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異世界帰り元勇者の俺ですが、初恋のクール系美少女が全世界の最強異能力者たちに命を狙われてるようなので、そいつら全員を敵に回してでも初恋を成就させようと思う 浅見朝志(旧名:忍人参) @super-yasai-jin

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