スタンプカードについて。あるいは、ひらがなのくまぱんちゃんについて。
『スタンプカードは、本店支店どちらのお菓子屋さんでも、共通でご使用いただけます』
猫のお菓子屋さん支店の新米店長三毛猫ミケちゃん。なにやらブツブツ言いながら、ポスターやサインボード、スタンド看板を書いています。
「スタンプ3倍くらいにしたいんだけどな。だって、本店はお当番さんによっては、2倍とか3倍とかあるんだし。だけど、押し忘れるお当番さんもけっこういるから、まあ、全体を
ミケちゃんはいそいそと書き足しました。
『スタンプカードは、本店支店どちらのお菓子屋さんでも、共通でご使用いただけます。
なお当店では、じゃんけんぽんでスタンプの数が決まります。
お客さまが勝てば、下記のようにスタンプの数がプラスされます。
グー✊ 1スタンプ
チョキ✌️ 2スタンプ
パー✋ 5スタンプ 』
「これで、よしっと」
さすが、商売上手を見込まれて支店長に抜擢されたミケちゃん。
なんせ、本店は相も変わらず、日替わりのお当番制ですからね。
とはいっても、ここだけの話。
仮店舗ができてお菓子屋さんが2店舗になると、どちらのお店のお当番だったのか、まちがえる猫さんが続出しました。だったら、このさい仮店舗が支店に昇格したついでに、店長を決めてしまおうということになったのです。
「えっと、お知らせは、他に何があったっけ。あっ、そうだ。定休日と特売日。あと営業時間。開店時間と閉店時間を決めなきゃね…… うーん、どっしようかな」
「ミッケちゃぁーん」
「あら、いらっしゃい、くまぱんちゃん」
くまぱんちゃんといっても、ミケちゃんの大親友のくまのパン屋さんのクマパンちゃんとはちがいます。大親友のクマパンちゃんは、カタカナです。
そのカタカナのクマパンちゃんは今は留学先の学校で見込まれて、指導教官の職に就いています。
そのあたりの詳しい事情は、本店の『パン屋さんの秘密』をご一読ください。
くまのパン屋さんとうさぎのパン屋さん
https://kakuyomu.jp/works/16816452220652521266/episodes/16817330651078448248
ラパンさんへのお手紙
https://kakuyomu.jp/works/16816452220652521266/episodes/16817330651855524692
で、このひらがなのくまぱんちゃん。実は、カタカナのクマパンちゃんの
はじめはウルちゃんとかウルマリちゃんとか呼んでいたのですが、それもなんだか落ち着かなくて今ではみんなが「ひらがなのくまぱんちゃん」と呼んでいます。
本人も尊敬してやまない
閑話休題。
それで、どうして、ひらがなのくまぱんちゃんがやってきたかというと……。
「ミケちゃん、あのさぁ」
「うん。なに? あっ、そうだ。くまぱんちゃん、開店時間と営業時間、どうしたらいいと思う? 本店だと、日替わりのお当番さんによってまちまちじゃん。支店はあたしが店長なんだし、やっぱり決めといた方がいいのかなぁ」
「ミケちゃん、それよりさ」
「じゃんけんぽん! パッ✋」
「? グッ✊」
ミケちゃんの勢いに釣られて、くまぱんちゃんは思わずグー✊を出してしまいました。
「アハハ。くまぱんちゃんの負け。あたし、スタンプ5個ゲット♪ 開店早々、幸先いいなあ」
「なに、それ」
不満顔のくまぱんちゃんに、ミケちゃんは書いたばかりの張り紙を見せます。
「だけどさ、ミケちゃん。お店、始まってるんだから、スタンプの数よりもっと先に決めなきゃならないことがあるんじゃないの」
「なによ。スタンプカードはお客さまの最大の楽しみじゃないの。ポイ活だって人気なのよ。猫のお菓子屋さんでスタ活よ!」
「最大の楽しみは言い過ぎだよ。お客さんはスタ活より、もっと楽しみにしていることがあって、お店にくるんだし」
今度はミケちゃんが不満顔です。
「くまぱんちゃん、お言葉を返すようですけど、スタンプカードより楽しみなことってあるわけないじゃないの」
「ミケちゃんさぁ」くまぱんちゃんは呆れてお店の中を見回しました。「肝心なこと忘れてない?」
「肝心なことって?」
「お・菓・子」
「なに言ってんのよ。猫のお菓子屋さん支店の店長のあたしが忘れるわけないでしょ」
「この店、もう、開店してんだよね」
「あったりまえ」
「だったらさぁ。なんで、お店にお菓子、なんにも並んでないの?」
「あっ」
「さっきから、お客さんたち、外からお店を覗いてもお菓子がないから、がっかりして『まだ準備中なのか』って帰っちゃってるよ」
「あ〜〜あ〜〜〜あ〜〜〜〜〜」
そうなんです。ミケちゃんたら、スタンプカードとか色々決めることに夢中で、肝心要の今日のお菓子をなんにも決めていなかったのです。
猫のお菓子屋さん支店長の前途は多難。
この先、いかなることになりますのやら。
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