第22話 デビュー戦

 ゲーム七日目。


 開始時刻、三十分前。備品室。


 俺はどのマスクを付けるか、選択を迫られていた。もう散々配信で顔バレと名前バレしてるし、マスクつけなくてもいいと思うんだけど。


「マスクは、狩人役イェーガーの目印だから」


 タチバナさんからそう言われてしまい、三日間の内通業務で散々好き勝手やったので従うしかなく……。俺は備品室の棚から側面に「マスク」と乱雑な字で書かれた段ボールを取り出して、途方に暮れる。


 残ってるマスクは……キリン、ニワトリ……そして、なぜか、である。動物縛りだと思ってたんだけど、なぜにひょっとこ?


 俺が床に置いた段ボールの前にしゃがみ込んで、ひょっとこのお面を手にして悩んでいると、マナミさんはおっぱいを俺の頭の上に乗せて覗き込んできた。もう俺の頭、今後はマナミさんのおっぱい置きとして余生を送りたい。


「ヨタ君、その変なのにするの? ウケる」


 マナミさん、直球すぎ。変なのって。でもキリンとニワトリよりは、名前の与太郎にも「ひょっとこ」の方が合ってる気もするしなぁ。


「タチバナさんから連絡。デスネームの登録も早くしろって~」


 グリーンのレインコートを着たシムラさんが備品室の扉から、インカムを指差しながら言ってくる。デスネーム……狩人役イェーガーのリングネーム的なやつなんだろうけど、正直なんでもいいし、もう勝手に決めてほしいまである。


「シムラさん、モリさん、『ひょっとこ』で名前考えてよ」


 備品室前の廊下で待っててくれてる二人に大喜利を頼むと、二人とも腕を組んで考え込んでしまった。


「なんで私にはお願いしてくれないの! ヨタ君、酷いッ!」


 いや、だってアナタ、『ひょっとこ』って名前も知らなかったでしょ。マジで名前決めるのとか本当に面倒臭い。自分の名前も『与太郎』にする男だぞ、俺は。


 ……。……。……。あ~、めんどくせ。


 俺はインカムでタチバナさんに連絡を取る。


「もうデスネームもカタカナで『ヨタロー』でいいっすか?」

『あなたがいいなら、いいけど。まぁ配信視聴者にもヨタローで知れ渡ってるし、わかりやすかもね』


 ひょっとこのお面を被ってみる。見えづら!! ズラして、頭の横につけることにした。みんなよくこんなんで仕事してるな。スゴイわ。


 エレベーターの入口をモリさんが開けて待っていてくれている。俺とマナミさんは滑り込んだ。七日目にしてようやく狩人役イェーガーして正式デビューなわけなんだけど、タチバナさんからは「ジャジャ・ラビットのサポートというか、暴走止めて」と言われている。

 

 ジャジャ・ラビットというビッグスターの黒子なら光栄というものです。ってか、みんなから「戦い方、地味。地味」って言われまくって、さすがに凹んだので、黒子として目立たず仕事するのだ!


 エレベーターの扉が開く。そこは交差点の大型街頭モニターがあるビルの一階店舗内だ。すでにみんな各々自分のキャラクターに入り込んでいる。貫禄のある足取りで外へと向かっていく先輩社員達の後を、俺は慌てて追った。



◇◇◇



 七日目ゲーム終了時刻間際。リゾート施設に隣接されたプライベートジェット用のミニ空港に、中型輸送機が着陸する。中からは迷彩服に身を包んだ軍人たちがゾロゾロと降りてきた。


「ハメル大佐ですね。お待ちしておりました」


 九龍の秘書が軍人たちのリーダーを出迎える。ハメル大佐は、秘書と握手を交わす。


「事前にいただいた情報を元に作戦案を作成しました。直接、九龍氏にご説明させていただきたのですが」


 彼らは民間軍事会社の社員だった。つまり『傭兵』だ。


「はい。もちろんです。他の隊員の皆様もホテルへご案内させていただきます」


 輸送機から装備品が入ったコンテナが続々と、隊員達に続いて降ろされていく。隊員達はホテルが用意したシャトルバスに乗り込んだ。すべてが整然として無駄のない。リーダーであるハメル大佐の性格をそのまま表しているかのような部隊だった。


 ハメル大佐と秘書は、別に用意されたリムジンに乗り込む。


「それで、ターゲットが『不死身』というのは本当のことなのですか? いえ、いただいた動画は確認したのですが、それでもやはり信じられず」


 彼のもっともな質問に秘書は「そうでしょうとも」と深く頷く。


「九龍様がご存知なだけでも、六十年以上は今のままの姿だそうです」


 大口のクライアントの発言とはいえ、やはりまだ信じられそうもない。しかし、そうなれば方法は限られる。殺し続けるか、眠らせ続けるか。


 捕らえられた後のターゲットがどうなるかなどは知ったことではない。


(私の仕事は、対象を捕らえて、クライアントに引き渡すまでだ)


 ハメル大佐は自分に言い聞かせるように、心の中でそう唱えて、金持ちの悪趣味な遊びについては見て見ぬふりをすることにした。



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