第22話 魔法少女と彼女は言う2

 さて、問題は呪いと彼女の姿勢である。いかなるお題目を掲げようと、我が校の生徒を実験台に使うそのやり口、未成年の占い師とて容赦はしない。

 しっかり指導せねばと思ったが、機先を制するよう彼女が先んじた。


「ところで、お客さんお名前なんでしたっけ」

「ん? 昨日送った通りだ。疑問があるなら我が校に問い合わせるといい。必要なら身分証を持参しよう。マイナンバーカードを悪用するなよ。学生証ならここにあるが」

「読みはどうなんだろう。ふりがながなくて」

「柿の谷の要でカキタニカナメだ」


 へーとカナタはまた笑みを浮かべる。全く、こちらは町内市内県内の安全の為、今から厳しく注意しようというのに。一体どういうつもりだ。


「お客さんさ、ずっと見てたよね」

「ずっとではないが見ていた。人が少ないから気づいていたか」

「さっきのお客さんがね、同じ名前を名乗ったの」


 なんだと。内間とは親しくないぞ。面識がある程度なのに、人の名前を流用するとは。おのれイケメン、真のイケメンだからと調子に乗りおって。

 と憤る必要はない。恐らく本名を名乗ることに抵抗があり、適当に浮かんだ俺の名を使ったんだろう。


「なるほど。名前を必要とする占いだったのか」

「そういうわけじゃなくて、また来てくれたらなあって確かめたんだ」


 悪びれもなくカナタは言い切った。完全に常連客にしようとするショップ店員の手口。なんと悪どい。聞いていられない。我が校が鴨にされている。

 いずれネギを持参する輩が出かねない。常連客が出来るのは喜ばしいが、我々は未だ学生である。

 鴨られて借金沙汰にでもなったら血で血を洗う展開に、なんてことにはならないだろうが、禍根を残す。カナタにとってもよくない。

 未成年相手に違う意味で本気になる生徒が出かねんぞ。彼女は率直に言って美人なのだ。本人にはもう使わない表現だが。

 そんな彼女は遠くを見るような目をしていた。


「でも凄い偶然だね。お客さんの名前が出るなんて」

「うち、うちの学校では名が知られている。そこそこな、恐らく。言っておくが彼は柿谷ではない。個人情報は伏せさせていただく」

「うんそうだね。うちなんとかさんなんだ」


 ぐぬ、迂闊にも口を滑らせそうになったところを。ギリギリ耐えたのに勘のいい。


「知りたくば本人に確かめるがよい」

「そうする。で、今日はコーヒー奢りに来てくれたの?」

「なわけなかろう。昨日の続きだ。遅れて申し訳ない。所用で外交問題を解決していた」


「外交問題?」とカナタは頭に疑問符を浮かべたが、すぐに人間関係か学校関係と勘づいた。


「なんか用事があったんだね。なら連絡してくれれば良かったのに」

「確かに。定期連絡の約定は交わしておらんが、遅れたはこちらの落ち度。詫びにコーヒーを受けとるとよい」

「もう開けちゃった」

「見れば分かる」


 カナタはそう言ってマスクを顎にずらす。そしてプルタブを開けたコーヒー缶に口をつけた。

 そうして自慢げな顔をする。


「お客さんもワルですね」

「なんだ、その缶は君が開けたもの。何も仕込んだりしていない。人を松永久秀や宇喜多直家のよう疑うか」

「ごめんなさい、一人分からない」

「どっち?」

「宇喜多さん」

「備中の謀略家。暗殺に暗殺を重ね戦国乱世を生き抜いた、豊臣政権五体老の一人宇喜多秀家の父親だ」


 へーと感心し、カナタはまたコーヒーに口をつける。


「あ、そうか分かった。西軍、関ヶ原だ」

「そうだ。獅子奮迅、まともに戦ったの宇喜多だけとは言わないが、彼らが主力だった」

「そうなんだ。えっと、それで暗殺の話になったんだよね。お客さんは私の命を狙う悪い人だ」

「だから違うと言うておろう」


 なんで意味なく未成年の占い師を始末するのだ。今は令和、新型コロナと物価上昇への対応が社会の課題。俺の手には負えないが、とりあえずみんな頑張れ。俺は今からこの占い師をなんとかする。

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魔法少女だった彼女達へ。大人びた俺はたとえ異世界に飛ばされようと呪われた魔法少女を救わざるを得ない 文字塚 @mojizuka

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