第33話 サラゴサ王国

…………サラゴサ王国…………


「陛下。調査隊の報告では邪龍公の城が消滅しておりました」


「……消滅だと?周囲の被害は?」


「城だけが消滅していた様です。強大な聖属性の魔力で攻撃を受けたらしく、まだかなりの広範囲に聖属性の魔力が残留していますので、影転移が出来る闇属性の魔族のみで構成された調査隊では近づけませんでした。こんな事はおそらく神以外には出来ないでしょう。邪龍公の安否については急ぎ闇属性以外の魔族や人族や獣人族などで調査隊を編成し……」


「邪龍の事だ。そう簡単には死なんだろう。それよりも何を怒らせたのかが重大だ!王都に滞在する邪龍の家臣共を直ちに呼び出せ!」


 邪龍め。俺が外交に苦労しているのも知らず。いつもながら好き勝手しやがって何がだ。今度は一体何を怒らせやがった。


「テオバルド様!メイドのマルタを見掛けませんでしたか?今朝から姿を現しません。あんな生真面目な子が。何かあったのではと心配です」


 我が美しい妻のジョアンナ。高貴なエルフ族である事を鼻に掛けず、使用人の一人一人にまで情愛を注ぐ心まで奇麗な女性だ。


「ジョアンナ。心配する事は無いよ。きっと上司に何か用事を頼まれて出掛けているんだと思うよ」


「そうだと良いのですが」


 ん?そういえば他にも使用人が居ないと誰かが騒いでいたな。






「……ま……魔王陛下に置かれました……ましては……」


「魔王なんて肩書が付いていたのは昔の話だ。それに俺が許すから無理に堅苦しく話さなくても構わない。最近邪龍が何をしようとしていたか知っていたら教えて貰えないか?」


 謁見の間で無いにせよ、雑用係の犬獣人に緊張するなと言うのは酷な話だ。邪龍の別宅に居たのは彼を含めて10人程の雑用係や見習いメイドと料理人のみだった。

 どうやらこれでは大した情報も得られそうにない。今朝起きたら彼ら以外の者は忽然と姿を消してしまっていたらしい。

……これはもしや?







「邪龍公の屋敷を調べましたところ。姿を消した家臣や使用人の自室のどの部屋にも大量の灰が。床にもありましたが大半は寝具の中に。ベッドに撒いて布団を掛けたと言うよりも、まるで眠って居た者が灰になった様な?」


「おそらくその灰は邪龍の眷属だった者達の残骸だろう。闇属性の眷属は親が死ぬと灰になると聞いたことがある。邪龍が滅びたのだろう。王城内での行方の知れない者達の部屋も調べたか?」


「はい。まだ調べ終わりませんが今のところ全てが同様で、その中には第二騎士団長や奥様の専属メイドも自室で灰になっておりました」


……ジョアンナに何と言ったら良いのやら。


「そうか。それにしても重要なところに随分と邪龍の眷属が居たものだな。斃してくれた者には一言礼を言わねばならないな。ははは」


 平和路線を行く俺のやり方には、目の上の瘤だった邪龍が滅びたのはとても喜ばしい事なんだが。この国の者が神に匹敵するような力を持つ何かを敵に回したのは確かで、頭の痛い大問題だ。


「笑い事ではありませんぞ陛下!」


「取り敢えずは同盟を結んでいるコルドバ王国の辺境伯に、今回の件を嘘偽りなく記した手紙をしたためる。急いで届けてくれ。レアンドールなら何か知っているかもしれないからな」


 南に接するグラナダ帝国は南と東の二辺を海に面していて豊かな割に、何故か昔から常に領土を広げようとする野心的な国だ。それどころか人族以外を亜人と呼び迫害もしている。魔族の割合の多い他民族国家のサラゴサとは相容れない国だ。だから先代までは邪龍公の脅威を匂わせ国王は魔王を名乗りサラゴサ魔王国と呼ばせていた。


 80年程前。グラナダ帝国に攻め込まれたものの、逆に領土を奪い取ってコルドバの辺境伯になったグラバスから親書を受けた。当時戴冠して魔王を継いだばかりの俺は彼に会いに行き、その恒久的な平和を願う思想に共感した。だから国も俺も魔王を名乗るのを止めてコルドバ王国と同盟を結んだ。三代目のレアンドール・コルドバもその遺志を継ぐ者だ。

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戦に果てた豪傑。今度は優しい世界で生きて行きたいものだが? うらの何某 @TKmad

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