第5話 終わりの始まりではなく終わらせたらまた始まったんだが?


 二人は過去じゃなく異世界から来たんだって。ギュルちゃんがお伽の世で物語り続けるストレスから逃げたせい。

 倒されるばかりの鬼も辛いらしい。


 まあ今さらどうでもいいね。

 あいつらはもう帰るから。




 一ヶ月。キュルギュルコンビはウチに居候した。

 1Kのアパートにデカイ男二人、よく収容したもんだ。邪魔だった。

 今台所には寝袋が二つあるし、部屋には男物の服がたくさん増えている。


 私も変わった。

 何よりイケメン耐性がついた。あんなイケメンイケオジと暮らしたんだもん。そこらの男の前でいい子ぶる気が失せた。


 素の私のままでいいんだ。

 私は、ユルフワなんかにならない。



 こっそり調べてみたら一寸法師には辛いバージョンがゴロゴロあったよ。

 育たない子を老夫婦が化物呼ばわりして追い出したとか。

 姫に罪を着せ家を放逐されるよう仕向けて姫を手に入れたとか。それが愛なのか妄執なのかわからないけど。

 どこまでが真実なんだろう。


 立身出世。承認欲求。四字熟語。

 キュルちゃんはそれなりの闇を抱えているらしい。





 満月の夜。川縁かわべりに来て、私は彼らを見送る。


 なんでこっちの服を着て帰るのよ。ジト目で見たら、カッコいいからだとギュルちゃんが胸を張った。まあパンイチよりは。

 キュルちゃんもクール男子モードのまま微笑んだ。


「世話になった」

「そだね。でも楽しかったから、いい」

「そなたは大雑把だが面倒見のよい女子おなごであった」

「オイ大雑把は余計な?」

「何か望みはないか。小槌に何も願わなかっただろう」

「ご飯はお願いしたもん」


 打出の小槌のおかげで生活費はものすごく助かった。あれがなきゃ食費だけでえらいことになったから。

 ギュルちゃんがニヤニヤする。


「いい女になれ、は俺がこっそりやっておいた」

「マジかい」

「おお、まことぞ」


 それはちょっとありがたい。

 素の私でいくと決めたけど、いい女にはなりたいな。自力で頑張るにしても応援歌として受け取っておくよ。

 私はニヤリと笑顔を返した。


「じゃあ彼氏できちゃうなあ」

「彼氏、か」


 キュルちゃんは低く笑って小槌を肩に背負った。あんたは彼女の所に帰りなね。

 姫のことをどう思ってるのか、結局教えてくれなかったけど、そばにいる人は大事にしなよ。


 そばにいるって、すごいことなんだ。

 一ヶ月そばにいたせいで、あんた達のこと、わりと好きになっちゃったぐらいには。




 月の青さが増す。

 もやもやと月影の扉が現れる。

 片手を上げて、二人はその中に消えていった。扉も消える。




 あっさりしたもんだなあ。まあ仕方ないか。


 私は帰ろうとしてきびすを返した。

 そしてヒッと息を飲む。


 ――青年が一人、立っていた。


 後ずさった私を見つめ、素直で明るい笑顔を見せる。


 担いでいるのは小槌じゃなくて、マサカリだ。そしてフンドシいっちょで赤い腹掛け。



 ――なんで!

 なんで金太郎!? 扉から出てきた奴いなかったじゃん!


 そこで私はハッと気づいた。

 「彼氏、か」と言いながら小槌を肩にトン――。


 彼氏?

 半裸の青年に目をやって、私はなんだか赤面した。





 ――最後にとんでもない仕事しやがったな、あの打出の小槌!







                終

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タイムスリップ一寸法師 山田とり @yamadatori

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