おまけ
それは風呂に入りながらなんとなしに再生した、ひとつの切り抜き動画がきっかけだった。
東雲学院芸能科は、元々一部のインディーズ好きには人気のコンテンツだったらしく、その切り抜き動画も有志が趣味でまとめたもの。
タイトルは『【鶴神まとめ3】東雲星光第一の鶴神コンビが今日もてぇてぇ』。
サムネにはイケメンの二人組。
再生すると鉄紺色の髪の男の子が「昨日八百屋さんで栄治に会ったんですけど、最後の大根を私に譲ってくれたんですよ。もう本当にかっこいいですよね。スーパーの方が安いからとか言いながら、肉じゃがにメニュー変更するからいいって、じゃがいもを買って帰りました」と語る。
するとコメント欄から「今時やおやてw」というコメントを拾い「近所の商店街を応援しております。商店街ライブでお世話になっておりますので。みなさんも東雲商店街にお越しの際はぜひご利用ください」と微笑んで『しっかり営業を入れる鶴城』と注釈が入った。
こちらが“鶴”の方らしい。
次に出てきたのも同じ少年。
「栄治の料理が食べた過ぎてお弁当の交換を申し入れたんですが、栄養バランスを考えて作っているから駄目だと断られてしまったんです」と、しょんぼりしている。
コメント欄から抜粋で「どんまい」「さす栄」「安定の塩対応で草」などポポポンと画面に出てから「なので明日は栄治のお弁当を私が作り、私のお弁当は栄治が作ってくれることになりました!」とドヤ顔。
一気にコメント欄の抜粋が「よかったね」「おめでとう」から「ざけんな」「裏切ったな」「栄治の手作り弁当とか嫉妬しかない」「許さん」という攻撃的なものまで。
(どういうことだよ)
コメント欄の抜粋があまりにも面白くて、ふふっと笑ってしまう。
この子の専用チャンネルではなさそうだが、嬉しそうな様子が可愛らしい。
続いてようやく“神”の方の子が登場した。
コメント欄抜粋で「鶴城のお弁当美味しかった?」という質問が掲載され、それを拾った飴色の髪の奇麗な少年が気怠そうに「え? なんで知ってんの?」と眉を寄せる。
「鶴城が自慢してたよ」というコメントに対して「は? ウザ」と一蹴。
表情まで冷淡そのもの。
仲が悪いのかな、と思ったら「まあ、もらったから俺も鶴城に弁当作ったよね」と仕方なさそうに白状する。
(作ったんだ)
思わずによによ、と笑ってしてしまう。
しかも「生姜焼きだった。生姜利いてて美味しかったよ。まあ、俺が作った方が絶対美味しいと思うけどね。一晴は弟多いからボリューミーだったよね。普段あんまり食べない量食べちゃった。その分運動量増やして調整したけど」と、かなり丁寧に感想を言う。
(え? ツンデレ?)
急に胸がきゅーんと苦しくなる。
なにこの子可愛い。
「しかもさー、一晴の弟たちがカレー食べたいって言ってたので今度作りに行くことになったんだよね」と締め括り、コメント欄が高速で流れていく。
「自宅訪問!?」「家族ぐるみ!?」「鶴城一晴許せねぇ!」「通い妻ですか?」というコメントが抜粋され「通い妻って言ったやつ、リアルに俺の前に現れたら吊るすからね」という本気の目の切り替えし。
(やば~い!)
ファンに一切媚びる様子のない美少年。しかもツンデレ。顔のにやけが止まらない。
(え~、料理得意なんだ~)
次にまた鶴城の切り抜き。
コメント欄の「神野君カレー作りに行った?」のコメントを拾い上げ「あ、はい。作りに来てくれましたぞ」と、一気に嬉しそうないい笑顔に変わった。
は? 可愛い。
「私の仕事中に家に来て作って帰りまして、私が帰宅した時にはもうありませんでしたが」と、これまた一気に哀愁の漂う諦めの笑顔に変化する。
目が死んでいる。
ぶふぅ!と片手で口を覆ってしまう。
これにはコメントも流れが速くなり、抜粋も「ざまぁ」「草」「さす栄」「安定の塩対応」「wwwww」「オチが秀逸」「全部食われてて草」と辛辣。
それらのコメントに対して「まあ、皆さんがなんと言おうとも“アイドル神野栄治”のファン1号の座は私なので。精々囀ってくださいませ。今日の配信準備も栄治が全部やってくれましたからな。私のために!」とドヤる。
頭を抱えた。
(なんっだそりゃ~~~! 可愛いかよ~~~!)
画面外から「お前が勝手に設定変えるからだよね?」どブチギレた声が入ってきて湯船に顔を埋めた。
あまりにも、可愛い。
なんだこの二人は。
しかも「今度の定期ライブも私と栄治の二人だけで参加なのですが、栄治が今回も衣装を作ってくれたのでぜひ見に来てくださいね。栄治が私のために作ってくれた衣装を!」と自慢してきた。
何度目か分からない「可愛いかよ」という顔のにやけ。
「同じ衣装二人分作っただけだけどね」という冷たい突っ込み。
ついにコメント欄から「栄治いるなら一緒に宣伝したら?」というコメントが抜粋され、それを読んだ鶴城が「栄治も一緒に宣伝してほしいそうですぞ」と画面外を手招きする。
この可愛い生き物が並んだら、間違いなく尊いではないか。
気づけばすっかりわくわくしてしまっている自分。
「え~~~」という不満げな声のあと、なにやら物音がしてジャージ姿の神野が隣に現れる。
さっきの比ではないコメントの流れ。
「ジャージ助かる」「寿命が延びた」「あああああああ」「栄治のジャージ姿ヤバい」「最高」「鶴城そこ代われ」「ジャージプロマイド待ってる」「需要しかない」というコメント抜粋が画面中にポポポポと表示される。
そろそろこの切り抜きの元のチャンネルがなんのチャンネルなのかが気になってきた。
「東雲学院定期ライブは毎月三十日なので、詳しくは公式ホームページから確認してね。新衣装ってことは、俺たち星光騎士団第一騎士団“ツルカミ”の新曲披露ってことだから、期待してていいよ」とウインク付きで投げキッスのサービスまでも。
コメントの流れが速い速い。
というか、隣の鶴城が「ふん!」と投げたキスを捕獲して画面外へ消えていった。
それを完全にドン引きした表情で見送った神野の表情がなんとも言えなくて、また風呂場で一人肩を震わせて笑ってしまう。
動画はそこで終わり、ふう、とひとしきり笑ってから風呂から上がって『東雲学院定期ライブ』を検索する。
タイミングが合えば、この尊い面白コンビを生で見てみたい。
終
ボーイズ・ベッファルド 古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中 @komorhi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます