うそつき市長(その2)

「じぶんの舌をじぶんで噛み切るというのはすごいですね」

市長の自殺の話をしてやると、可不可は興味深げに聞いていた。

「いろいろな自殺の仕方があるけど、・・・舌を噛み切るというのは、そうとうな覚悟が必要だね」

「ハラキリと同じです」

「切腹か、・・・たしかに」

前の事件で、可不可がスーパードッグだということがよく分かったが、視覚に関しては、数字と画像は識別できても、文字が読みとれない欠点があるのが分かった。

・・・もっとも、それを欠点と言うのは言い過ぎだろう。

新聞記事とかネットニュースを可不可に噛み砕いて説明すると、逆にじぶんの考えがよく整理できるので、それはそれでよいのかもしれない。


「放っておけば出血多量で死ぬし、舌を呑み込めば窒息して死ぬ。でも、早く見つけて舌を吐き出させて助けることもできる。舌も縫合手術で再生可能だ」

「市長は、わざと噛み切った舌を呑み込んで自殺したのでしょうか?」

「う~ん、どうだろう。・・・でも、自殺する動機がない」

「動機のない自殺ですか?」

「ああ、他殺ならともかく、自殺に動機とは言わないよね。市長の場合、嘘つきと責められてリコールされたのだから、やはり自責の念というやつかな・・・」

「長い間嘘つきと責められ続け、リコールされても、また平気で立候補するお方が今さら自責の念とやらで自殺するものでしょうか?」

それはもっともだ。

「今になって嘘をつき続けてきたのを恥じて、地獄の閻魔大王に舌を抜かれる前にじぶんで、ね。・・・地獄に墜ちて、閻魔大王に嘘つきと断罪された罪人は、やっとこだかで舌を抜かれる。・・・嘘つきは泥棒のはじまりとか言うけど、嘘をつくと地獄に墜ちた上にこんな目にあうぞ、と子供を戒める仏教のおとぎ話だよ、これは」

まるでひとりごとのようにぐだぐだ言っていると、

「針を呑み込んだり、小指を切ったりが分かりません」

賢い可不可が話題を変えた。



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