うそつき市長(その3)

「ああ、そのことね。警察はまだ公表していない。あくまで裏情報なので、どこまでほんとうか分からないよ」

針と小指のことは、吉原の遊女と馴染み客の話からはじめなければならない・・・。

「吉原の遊女?」

「次に登楼する日を客と約束した遊女が、『指切りげんまん。嘘ついたら針千本呑ます。指切った』と言って小指を絡めて引っぱって約束をしたという話が、わらべ歌になった。遊郭のしきたりがわらべ歌になるのもおかしいね。その昔の吉原では、約束の証として小指を切って相手に渡したそうだが、それだと小指がいくつあって足りない。それで、かたちだけの指切りげんまんになった」

可不可は、そんな遠い昔の遊郭の話には興味はなさそうだ。

「吉原の話がわらべ唄に?・・・げんまんも分かりません」

可不可の自動学習装置はよく機能している。

「約束を破ったら、一万回のげんこつを食らわし、千本の針を呑まして、お仕置きをするということかな」

「ということは、市長は小指を切って渡すほどの固い約束を破ったので、針を吞まされ、殴られてお仕置きを受けたということになりますね。自殺ではなく、お仕置きとして殺されたということですか?」

「そう考えるのがいちばん素直だろうね。・・・だが、そうなると舌を噛み切って自殺したという説と矛盾する」

「固い約束をした相手が、閻魔大王とやらに代って舌を抜いたのでしょうか?」

・・・それには答えられなかった。


「市長は、そんな目にあうほどひどい嘘つきなんですか?」

「当選した当初は公約を果たそうとよく頑張った。ざっくばらんな性格でね、市民の話をよく聞くのですごい人気だった。見てくれもよかったので女性のファンがすごかった。でも、3期目になると、政治にロマンをとか言って、大風呂敷というか法螺話でひとを煙に巻くし、できもしないことを、議会でも新聞記者相手にもリップサービスでじゃんじゃん発言するので、嘘つき市長と言われるようになった」

「それでリコールですか?」

「今回のリコール運動は前の市長が、永田市長の4期目を阻止してじぶんが市長に返り咲くために仕掛けた謀略ともっぱらの噂だ。そして、それはうまくいった」

「とすれば、政敵による謀殺というのもありますね」

「永田市長を完全にノックダウンするためにはやりかねない。前の市長は、そうとうの腹黒だからね」

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