うそつき市長~引きこもり探偵の冒険5~

藤英二

うそつき市長(その1)

夜昼逆転の生活をしている。

学校へも行かず働いてもいないので、夜寝て朝起きる習慣がまったくない。

だらだらと本を読み、ネットサーフィンしていると夜は瞬く間に過ぎる。

夜が明けて、門扉の横のポストに朝刊がポトンと落ちる音がすると、ダッシュで駆けつけて、自室で隅から隅までむさぼるように読む。

たいていはネットニュースで知っている記事ばかりだが、メディアの正調たる新聞がどうニュースを伝えるか、その伝え方と解説に興味があった。


今朝の朝刊は特に待ち遠しかった。

昨夜の深夜、ということは、今から28時間ほど前に、市長が死んだというニュースがネットを駆け巡ったからだ。

ネットでは、第一報として、自殺とテロと政敵による謀殺の三つの異なった見方を伝えていた。

その後ネットでは続報がなかったので、朝刊を心待ちにしていた。

これは、覗き趣味というか野次馬根性から出たことで、けっして市長の身の上を案じてのことではない。

一面にも三面にも関連の記事はなく、中ほどの城西版にのみに記事があった。


真夜中過ぎに、市長の自宅のインターフォーンが鳴った。

奥さんが出たが応答がないので、玄関を開けて表に出て、夫の市長が豪雨の中で倒れているのを見つけた。

大学生の息子とふたりでなんとか家の中に運び込んだが、すでにこと切れていた。


警察の公式会見での発表はなかったが、リーク情報では、みずから舌を噛み、その噛み切った舌を喉に詰まらせて窒息死したという。

強い雨の中を、市長はどうやって自宅へ帰って来たのかは、書いてなかった。

その夜は、後援会の幹部との会合があったので、公用車で市内の料亭までは行ったのは分かっていた。

だが、夜10時ごろにその幹部たちと別れてからの足どりは不明だった。

なぜ後援会の幹部たちと会ったかというと、元市長などの政敵によるリコール運動が成功し、失職するのが確定したので、その後の対応について話し合ったからだ。

リコールされて失職した市長は、続いて行われる市長選挙に立候補できる。

そこで当選すれば、市長に返り咲くことができた。

永田市長は、立候補することをほぼ決めていた。

・・・だから、自殺することはありえない。

これが今朝の新聞の記事だった。


その後、裏ネットの犯罪情報を探ると、永田市長はみずから舌を噛み切り、かつ針を数十本吞み込み、左手の小指の第二関節から先が千切れてなくなっていた、と書いていた。

・・・これには驚いた。

もう一本の犯罪情報は、これはテロリストの仕業だとあった。

あまりに嘘とごまかしが多いので「うそつき市長」呼ばれている永田市長を、政治浄化と称して殺害したというのだ。

・・・つまり、自殺説と他殺説の両方の噂が流れていた。


警察のリーク情報はそれ以上はなかった。

あるいは、どちらとも決めつけられないので、リークはしても公式会見は見合わせるということなのか・・・。

もっとも、裏ネットの書き込みなど、信憑性がないことは百も承知だ。

これは、妄想の類だろう。

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