5-4 コルンバ成敗
●本編「5-4-2 コルンバ成敗」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860525904739/episodes/16817139556789611447
の、改稿前バージョンがこちらです。
音のする部屋の前まで来た。またランに指でカウントして、そっと扉を開ける。
ここには人がいた。目隠しとさるぐつわをされ、大きなテーブルの脚に荒縄で縛り付けられている。こいつが脚をばたばたさせて、音を出していたんだ。
この野郎……。
コルンバだった。目隠し姿で、首をきょろきょろさせている。
「今、さるぐつわを外してやる。だから声を出すなよ。わかったか」
「んぐーっんぐーっ」
誰かがいるのがわかったからだろう。全力でがくがく頷いている。
「下を向いてじっとしてろ。頭を動かすと切れるぞ」
「んぐーっんぐーっ」
今度は全力で首を横に振る。どんだけ度胸がないんだ、こいつ。
「動くなっての」
さるぐつわと後頭部の間に剣を入れ、切ってやった。
「ほどけっ。俺様は、エリク家の偉大なる次期当主だぞ。どういう扱いだ」
途端に、コルンバは大声を出した。
「だいたい約束が違うじゃないか。うまいこと魔導印を持ち出しマルグレーテを嫁に差し出せば、親父を潰して俺様を当主にしてくれるって話だっただろ」
こいつ、警告を無視してぺらぺらと……。敵に感づかれるだろ、アホ。
剣の先を、コルンバの首に押し着けた。
「ひ、ひいーっ!」
「静かにしろ。黙らないとこのまま殺す」
「わ、わかった」
がくがくと頷く。コルンバの腰のまわりに、黒い染みが広がった。この野郎、小便漏らしやがった。逃げるときのセミかよ。
「小声で答えろ。マルグレーテはどこだ」
「あっ! その声はモーブだな」
間抜けの頭でも、やっと気づいたようだな。一応小声にはなっただけ、マシってところだろう。
「俺様を助けに来たのか。遅いじゃないか。は、早く縄をほどけ」
「ほどいてほしければ、マルグレーテの居場所だ」
「知らん。今朝方ひとりで来たらしいが、その途端、俺様はここに押し込められたからな。とにかく、早くほどけ。ほら」
「自分でマルグレーテちゃんを売ったくせに。なに、その言い方」
温厚なランも、さすがに頭に来たみたいだな。
「曲がりなりにも、マルグレーテちゃんのお兄さんでしょ。それなのに陰謀に加担して結婚契約書を偽造した挙げ句、ノイマン家がおかしな連中だとわかってからも、マルグレーテちゃんの心配すらしてないじゃない」
「お、俺様は知らん。結婚はマルグレーテの意志だ。大好きな俺様と家に大金をもたらすための」
「嘘つけ、さっきお前、陰謀を全部、自分で洗いざらいしゃべったじゃないかよ」
「あ、あれは嘘だ。助けてほしくて、つい嘘を」
この期に及んでも言い繕うとか、とことん見下げ果てた奴だ。
「コルンバ……」
怒りを抑えて、俺は語りかけた。なるだけ平静な口調にしようと努めながら。
「マルグレーテはどこだ。悪いことは言わん。思い出せ」
「そ、そういえば……」
目隠し姿のまま、首を傾げて天井の方を見つめた。
「そういえば、数人で揉み合うような音と、マルグレーテの叫びが聞こえた。放してと。階段をずっと下まで下りる気配だったから、多分地下だ」
「そうか……」
このカスの話を信じていいか、一瞬迷った。これもノイマン家の偽情報ではないかと。
……だがこいつを縛って嘘をつかせるくらいなら、そもそもゴーレムだって砂に還ったままにしないはず。マルグレーテ救出隊ないし交渉の使者が来ると予測していたなら、表面上だけでも普通の貴族邸宅に、絶対に取り繕うはずだからな。
マルグレーテが詠唱すらせず揉み合っていたということは、なんらかの手段で魔法を封じられた挙げ句に、ゴーレムだか操り手だかの手により拉致されたんだ。間違いない。
「俺は話した。助けてくれ。約束だぞ」
コルンバが叫んだ。
「約束なんかしてないな」
俺は言い放った。
「ほどいてほしければマルグレーテの居場所を教えろ――と言っだけだ。俺がほどいてやるなんて、ひとことも言ってない」
「この嘘つきっ!」
「どっちがだ、コルンバ」
「俺様を解放しなければ、大声でノイマンの連中を呼ぶ。ここにモーブがいるとな」
いやもう充分大声だわ。
「俺に助けてもらえるとか、どの面下げたら思えるんだ、このカスっ!」
剣を振り上げた。
「ぐふっ!」
刀身の腹で思いっ切り頭を殴りつける。ボキッと、頬骨が折れて陥没する感触があった。コルンバの頭が、ぐったり垂れる。
気絶しやがったか。
「てめえは地獄行きだ、アホ」
とりあえず黙らせておかないとな。ここで延々大声で騒がれたら、いずれ敵に気付かれる。
なに、コルンバの始末は、後でいくらでもできる。人間を斬るのは気持ち悪いから、このまま放置したっていいんだし。水が飲めなきゃ、数日の命だ。
「行くぞラン」
「うん。地下だね」
小便池に漬かったままのコルンバを置き去りにして、階段を一階まで下りた。その先、階段は暗い地下へと続いている。
「いいかラン。もうはっきりした。ノイマン家の嫁取りは、なにかの陰謀だ。つまり相手と話や交渉なんか、できやしない」
「戦闘だね、モーブ」
「ああそうだ。力づくでマルグレーテを奪い返す」
「私、今ものすごく怒ってるんだ。だからどんな魔法だって使ってみせるよ」
ランの瞳は、強い意志を宿していた。
「よし行こう」
「うんっ!」
暗い階段を、俺達はそろそろと進み始めた。
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