十一、君はずるい



 背中を預けるように膝の上に乗って、触れあう熱に心ごと絆されているような気持ちになる。誰かのモノではなく、確かに彼のモノだと自覚する。


 束縛の中でひとであることを思い出せた。首筋に唇が触れてくる。ゆっくりと、吸い付くような口づけは、背中の肩甲骨の左上あたりに咲く、赤紫色の花びらのような紋様に辿り着く。


 それは神子である証。五枚の花びらは四神と黄龍おうりゅうとの契約の印。白い肌に浮かぶその印はとても目立つ。


 結われた髪の毛のせいで項が露わになっていて、いつも以上に妖艶さを感じさせる。湯につかっているせいか、それとも先ほどまでの情事のせいか、ほんのりと色づいている肌が愛おしい。


「くすぐったいよ・・・、」


 今度は耳の後ろや髪の毛にまで口づけをしてくる黎明れいめいに、もぞもぞと身体を捩らせて訊ねる。


 解放するつもりはないらしく、後ろから抱かれたままだった。そろそろ上がらないとのぼせてしまいそうだ。


「君を・・・独占できるのは今だけ、だから」


 当分はこんな風にふたりだけの時間は無くなってしまうだろう。たくさん痕を付けて、見るたびに今日のことを思い出すように。


「もう少しだけ、このままでいさせてくれ」


 頬をすり寄せて、耳元で囁く。低い声は耳を通って身体の中に振動するように響く。小さく笑みを浮かべ、宵藍しょうらんはゆっくりとただ頷いた。


 しばらくして、色づいた白い肌に咲くたくさんの痕に満足し、黎明れいめいは最後に正面を向かせてもう一度強く抱きしめる。


 触れ合う身体に熱が移り合う。黎明れいめいは見た目は細身だが、程よく筋肉が付いていて男から見ても美しいと思う。


「君はずるい」


 胸の真ん中に指先だけ触れて、つぅと上になぞる。そのまま頬に手を伸ばして、むぅと頬を膨らませて見せる。


 なにが?と首を傾げ、黎明れいめいは頬に触れられたその手を取り、指に口づけをする。


「・・・そういうところだよ、」

「君にしかしないが?」


 よく解っていない様子で困った顔をする黎明れいめいに、宵藍しょうらんは誤魔化すように苦笑した。


「もう十分あったまったよ。こんなにいっぱい痕も付いたし、これ以上はさすがに身が持たない」


「すまない・・・無理をさせた」


「ふふ。いっぱい楽しめたねっ」


 腕にしがみついて無邪気な子供のように見上げてくる表情は、本当に楽しそうだったので、黎明れいめいは安堵する。


 温泉から出た後、少し遅い朝餉を食べ、幼子おさなごと一緒に宿の部屋へと戻った。


 夜通し動いていたので、今から昼過ぎくらいまで眠るのだ。いつの間にか幼子おさなごを真ん中にして同じ寝床で眠っていた。


 まるで本当の家族みたいに。

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