十、楽しみなこと
宿に戻ると、店主と
その上で、身なりを整えるべく、まずは風呂に入れてやろうということになった。
店主が自慢していた温泉は、竹を縦に隙間なく括って作られた囲いの中にある露天風呂で、周りを囲む歪な石は黒っぽく、乳白色の温泉が特徴的だった。
頭や身体を洗ってやり、汚れをしっかり落としてあげると、ぼさぼさで固くなっていた髪の毛も、なんとか通常の柔らかさを取り戻した。
「よし、いい感じになったよ」
今は大人しく洗われているが、最初は恥ずかしがってイヤイヤと首を振っていた。
そのこともあって、すっかり綺麗になった
髪の毛もいつもはひと房しか結んでいないが、今は頭の天辺で赤い紐で結び、さらにお団子にして纏めていた。
その姿だけ見れば、
「衣は店主の息子の子供のお下がりがあるそうだから、都に着くまではそれを纏うといい、」
どうやらこの宿の料理を任されているのが、店主の息子だったらしい。
怪異も治まったので、都の実家に戻している息子の嫁と子供たちや、暇を出していた者たちを近いうちに呼び戻すと言っていた。
脱衣所で身体を拭き、用意してくれていた臙脂色の衣を着付ける。膝を付いて
「あとで整えてあげるね?」
首を傾げて、
「
「すでに手配している」
抑揚のない声でふたりを見下ろして返答する。
「ありがとう。じゃあ綺麗になった君を見てもらいに行こうか、」
立ち上がり、長い前髪に触れてとりあえず真ん中で分け、耳に掛けてあげる。小さな手を握って、
(・・・
歴代の
女の身体に生まれても、男の身体に生まれても同様らしい。呪いみたいなものだと言っていた。
「これはこれは。見違えましたよ。十年後が楽しみですね」
姿も衣も綺麗になった
食堂の一角の机に用意した朝餉の前に誘導し、後はふたりでゆっくりどうぞと促す。
「じゃあまた後でね、」
手を振って食堂を後にすると、再び露天風呂の方へと足を向ける。渡り廊下を歩きながら、
「・・・・楽しそうだな、」
「うん!楽しみっ」
「?」
「君とふたりで温泉なんて、楽しみしかないよっ」
弾むように歩き出した
表情に出てしまうほどのその感情の騒めきに、口元を覆いながら、バレないように横を向いた。
(・・・不意打ちだ)
それは自分だけに向けられたもの。
気付かぬうちに、
けれども、どこまでも愛おしいと思った。
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