第3話(最終話) サバイバーズ・ギルト~事件はまだ終わっちゃいない!

 由紀子は命を落とす前に、人と会う約束をしていた。そこで、身の危険を感じつつも、祐介は陽子と会う約束をし、待ち合わせ場所へ向かった。


 そして……


「あなたが相原佑介さんですか? 由紀子からつねづねお話は伺っていました。このたびはご愁傷さまです」杉本陽子は悲しみにくれた表情で祐介に話しかけた。

「前田さんは今日、あなたとお会いする約束をしていたのですよね」

「そうです。まさかこんな事になるなんて」


 祐介は陽子を疑っていた。しかし、実際に会ってみてすぐに陽子はシロであると確信した。そうするといったい真実は……


「失礼ですが、あなたは由紀子とどのような関係なのですか?」陽子は祐介に聞いた。

「インターネットで知り合いました。私も前田さんも共に住田佳奈がなぜ自殺したのかを知りたいと思っていたんです」


「そうでしたか。私もファンクラブの会長を務めるくらいのファンでした。本当に残念でしたよね」

「はい」


「由紀子は住田佳奈の自殺原因の証拠をつかんだと言っていました」

「本当ですか? 私にはそんな事は一言も言っていません」

 祐介はびっくりして聞いた。


「由紀子は、住田佳奈がデビューする前にアルバイトしていたレストラン『マミー』で仲の良かった藤森まどかさんという方と知り合って、大変な事を聞いたと言っていました」

 まどかは祐介とも面識があった。まさかまどかと由紀子が知り合っていたとは。


 でも、良く考えてみれば不思議ではない。なにせ由紀子はずっと佳奈の自殺の原因を調べていたから、佳奈の周囲の人物とのコンタクトを取る事は十分あり得る話である。


 まどかは祐介より年はかなり下だけれども、マミーでは先輩だった。新人の頃はずいぶん世話になっていた。仕事を教えてもらった事やミスをカバーしてもらった事は数知れず。だから祐介は彼女には頭が上がらなかった。


 まどかは佳奈ととても仲が良かったのだ。祐介と佳奈が付き合うきっかけとなったキューピット役(?)のような存在である。


「由紀子は、藤森まどかさんとかなり親しくなっていたみたいです。それで絶対に誰にも言わないという約束で、住田佳奈の遺書のような文章を見せてくれたそうです」

「そうだったのか」


 祐介は驚いた。まさかまどかと佳奈の自殺原因がつながっていたとは。

 祐介は、久しぶりにまどかと会う必要があると思った。佳奈との一件があって以来、まどかとも音信不通になっていた。なぜならせっかくキューピットを務めてくれた彼女の事も、結果的に裏切るような形になってしまったからである。

 

 祐介はいてもたってもいられず、まどかに電話して会う約束を取り付けた。

「ひさしぶりだね。祐介君」まどかは元気そうだった。


「まどかさん元気だった?」祐介も平静を保ち、答えた。

「私は元気。今日私に会いに来たのは佳奈と由紀子の事だよね?」


「そうなんだ。話は聞いた。君と佳奈にはどんなに謝っても足りない。今更僕がこんな事をするなんて偽善者だと思われても仕方がないよね。でもどうしてもじっとしていられなくて」


「ううん、そんな事思ってないよ。あのときは仕方がなかったよね。祐介君裕美の事本気で好きだったんだよね。私も知ってた。だけど私は佳奈の味方だったからね」

「本当にごめん」


「佳奈がなぜ自殺したのかの直接の原因は、噂通り江口義之で間違いないと思う」まどかは自信たっぷりに言った。

「やっぱりそうか」


「でもね……」まどかは少し言いにくそうな顔をしている。

「何? 何でも言って」

「ここから先は、あなたは知らない方がいいかもしれない」

「それでもさしつかえなければ教えて欲しい」祐介は、どんな事実も受け入れる覚悟は出来ていた。


「佳奈の遺書らしき文書にはこう書かれていたの。『私はデビュー前にアルバイトしていたファミリーレストランの先輩と付き合っていましたが、すぐに別れることになりました』とあって、『その人とはほんのちょっとしか付き合えなかった。他に好きな人がいるって知っていた。なぜ自分が好きになった人からは好かれないんだろう、なんとも思っていない人からばかり好かれるんだろう』


 そして、『義之も同じだった。久しぶりに本気で好きになったと思ったのに、この人には他に本命の彼女がいた。とても悲しかった』とあった」


「その『ファミリーレストランの先輩』って……」

「あなたにきまってるじゃない」

「そうだったのか」

 祐介は絶句した。まさか自分が佳奈の自殺に関係していたとは。


 陽子は祐介が佳奈の遺書に書かれていた「バイト先の先輩」だという事は知らない様子だった。


 でも、由紀子はどうだろう。もしかしたら知っていたのかもしれない。そうだとしたら……


 他殺ではなく、警察の見立てどうり自殺なんだろうか。そしてその原因はやはり……


「祐介君、由紀子は今好きな人がいるって言ってたけど、それってあなたの事なの?」

「実はそうなんだ。由紀子とはつき合ってた。結婚も考えてた」


「そっか。あなたも色々大変だったんだね。でもこれだけは約束して。絶対に生き抜いて」まどかは急に悲しそうな顔をして、ぼそっとつぶやいた。

「えっ」祐介はすぐにはまどかの言葉の意味する所が分からなかった。でも……


「祐介君ってすごく真面目だから、佳奈の事も由紀子の事も相当責任を感じてるんじゃない」

「もちろんそうだよ」


「そんな風に考えないで。あなたには責任はないから。お願い。もうこれ以上私の周りの人達を奪わないで」

 まどかはそう言い、一筋の涙を流した。


 そうなのだ。この人は自分以上に悲しい思いをしているはずなのだ。

 祐介は由紀子を失った悲しみから、真相を明らかにしたら自分も死のうと考えていた。あるいは誰かに殺されるかもしれないが、それでも構わないと思っていた。でも……


 まどかは、そんな祐介の身を案じていたのである。その事を感じ取った祐介は、毅然とした表情で伝えた。

「心配しなくていいよ。僕は自殺なんかしない。佳奈の分も由紀子の分も生きて見せる。絶対長生きするから」


「本当?」まどかは祐介を見つめて、少しだけ笑顔を見せた。

「ああ。約束する」


 サバイバーズ・ギルトとは、戦争・災害・事故・事件等にあいながら生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して、しばしば感じる罪悪感の事である。祐介は少し違うが、類似した罪悪感に常にさいなまれた。


 由紀子を失った悲しみと、サバイバーズギルトで、祐介は何度も命を断とうとした。


 でも、まどかとの約束を果たすべく、かろうじて生き抜いていたのだ。

(絶対に生きなきゃ。まだ死ぬ訳にはいかない。まどかとの約束、守らないとな)

 祐介の真面目すぎる性格が、結果的に彼の命を救ったのかもしれない。



◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


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元カノはアイドル!~彼女はなぜ死ななければならなかったのか 北島 悠 @kitazima

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