15

「──ってなことがあったのによ、アイツってやつは」


 一人となった家の中で盛大にため息を吐いた。

 あれから人間でいうと成人を迎えてしばらくした後、まだまだよく知らないクロサキの世話に手を焼いていた頃、友人らの間で、天界という清い心を持った者しか足を踏み入れることが出来ない世界で、どんな相手でも優しく眠らせる歌を歌う女性がいるのだという。

 人間界に生者の魂を狩る許可が許されたのがきっかけで、死神の世界と天界の間にある"狭間の扉"に赴いた際についでに行ったのだろう。他の世界には行ってならない掟があるというのに。

 が、しかし、そのお陰で人間界で知った、クロサキが病弱で、しかも悪夢ばかり見てしまい、寝れてないから熱を出しやすいこと、そして、それを歌姫とも呼ばれているその女性の歌を歌うと調子が良くなること。

 だから、ヒュウガはまた歩くこともままならなくなった歩行練習と言葉を覚えさせ、会わせるように促した。

 それがクロサキのいい刺激になると思って。

 が、人間界で言うところの恋愛まで発展するとは、誰が想像しただろうか。

 本人らは気づいていないようだが、ヒュウガは気づき、自分がその女性と一緒にいられないショックを受けつつも、二人の幸せを誰よりも願った。


 そして、あの時のようなことが二度と起きないように、命を賭してでも守ろうと心に誓いつつも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名前しか知らない。 兎森うさ子 @usagimori_usako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ