20-02 そうかも
冷静に考えるとチェーンソーほど武器として適さないのに、武器として考えられているモノも珍しい。チェーンソーの原理を要してしまうと、エンジンの力で鋸状の刃を高速回転させているだけだ。
つまるところ、エンジンですっごく速く動く
人を切るなら普通の刃物でいいし、身体の器官に損傷を与えるならハンマーでいいし、拷問したいなら鋸でもいいけどエンジンはつけなくていい。大体普通に木材に使っていたって、ちょっと気を抜いて使えば、エンジンの力が本体方面にかかってしまってボディが暴れて鋸刃が臑の方向に行って……なんて事故もある。たしか法律で、使用時には保護ズボン的なやつの着用が義務づけられていたはずだ。人に向けて振り回して使ってメリットがあるモノじゃあ、ない。
けどあらゆるメディアにおいて、チェーンソーは象徴だ。
強く、
無慈悲で、
残酷で、
凶暴。
……実際に使っている方々からすると、アホなこと言いなさんな、って感じだろうけど、イメージってものはどうしようもない。たとえば僕がバラバラ殺人の犯人として有名になったら、アメリカのネット民は僕がチェーンソーを持っているコラを作るだろう。いや、外見が弱っち過ぎるから、むしろ、連続殺人鬼だからチェーンソーを持とうと思ったけど重くて持てない、みたいなやつかな……? さておき。
この象徴としての力を物品に持たせるのが、
もっとも、あのゲームをやってからずっと、世界最強の武器はチェーンソーって信じ込んでる色葉には心配無用な話だ。僕がいくら上のようなことを言ったって彼女にとっては、科学的に宗教を否定されているようなもので、まったくききやしない。まあ、信仰の自由を否定しちゃいけない。
こうしてチェーンソーを武器として扱うスキルは
ちなみに、チェーンソーを武器として使うのに問題となる、重量、大きさ、合う鞘があるわけない、という点を考慮して、変身タイプのものにしてみた。とはいえこれは僕が変形機械を作ったってことじゃない。さすがにまだそこまでのスキルも、知識もない。仕組みを言うと簡単なんだけど、普段は指輪部分、チェーンソーの持ち手に当たるところ以外は、
「…………って、聞いてるか、色葉」
僕が解説を続けるも、色葉はうっとり、チェーンソーを眺めている。辺りの光に反射させては、きらきら輝く傷一つついていない刃を、惚れ惚れと見続ける。
「あ、うん、聞いてる聞いてる」
100%聞いていない感じで返されて、僕はため息をつき、彼女に解説するのは諦めた。まあ、この調子なら誕生日プレゼントのゲーム機ぐらいには、大切に扱ってくれるだろう。
「マジかよ、消えちゃった……」
と、スライ・スライが鉄くずの山を見てさみしそうな声を出す。
代わりに落ちて、きたものは。
かなり大きめの魔石が1つ。
スイカかメロンぐらいはあって、遠近間隔がバグってしまったようにしか思えず、見てるとちょっと笑ってしまいそうなぐらい大きい。なのにしっかりと、魔石特有の、内側から強弱をつけて発光しているかのような輝きがある。壱番街で見たときは、握りこぶしぐらいのやつが1万
そしてなにやら、日本語が書かれた紙が1枚。
A4ぐらいのくしゃくしゃのやつ。
さらに、あと1つ…………
……。
……。
……。
……なんで?
「社員、証?」
ライトブルーの紐にぶら下がった、パスケースに入った、1枚のカード。あんまり凝ってない会社名のデザインと、顔写真に、所属部署と役職と名前。昼時のオフィス街で、ビジネスパーソンな方々が、首からぶら下げてるあれ。まんま、あれ。
「……なんで?」
僕は微に入り細にわたり、その社員証を見た。観察した。
株式会社城砦運送、企画開発部門、係長、フィード・フィード・ファード。
顔写真は……
……。
……。
……。
いや
「……はぁ?」
情報を求めて裏面を見ても、会社の住所と会社の電話番号、まあ、社員証の裏に書いてあったら便利だな、みたいな情報だけ。
「…………ここに、行けってことでしょうか?」
まだうっとりしてる色葉と落ち込んでるスライ・スライは放っておいて、僕とリサさんは顔をつきあわせて首をひねった。住所は……
悪鬼国
「……悪鬼国、て……連中もう、ここを国だってことに、してるのか?」
「あ、住所システムのためみたいですよ。郵便、物流システム的なのがだいぶ前から動いているみたいで。アメリカ式な住所みたいですけど」
「まあ……それにしても……じゃま、行ってみるか、ここに」
「ですね……あと、紙の方はなんて書いてありました?」
「それが……読む……?」
「…………じゃあ、えーと……」
なんとも、なんとも反応しづらい文書だった。
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悪鬼歴○○○弐年
悪鬼令第壱○○○弐号
支払督促
諸君らは悪鬼王の所持する財産を、意図的に損壊した。
それによる国庫への損害は、推定で壱百万RMTを超える。
よってその賠償をここに請求する。
詳細については、王自らの説明が為される。
ついては速やかに、九鬼双子塔まで出頭すること。
なお諸君らがこの督促受領の日から2週間以内に、
督促異議を申し立てず、出頭しなかった場合、
悪鬼法に基づき、執行機関による連行が実行される。
悪鬼国 九鬼城塞 参番街 1025
株式会社 悪鬼ロジステイクスサービス
Tel 033-282-0110
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……。
……。
……。
……。
……。
……。
そうかも。
〈第三章 悪鬼王の蟲毒街 了〉
ウィー・アー・プレイヤーズ! ~現代社会に突然レベル・スキル制なら、ダンジョンもどっかにあるんじゃないですか? ……だめ? ない? ……ある? ある感じ? ……魔石は?~ 阿野二万休 @old_town_city
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