20-01 ビッグ・ファッキン・ゴブリン

 ピンク、チェリーピンク、ロータスピンク、カメリアピンク、オーキッドピンク……


 ……世界中の花々からあらゆるピンクを集めて、束ねて編んだような、完璧なAラインワンピース。けれどそれだけピンクを集めても、子ども向けお菓子じみた幼稚さが欠片もない。白より白い、光り輝き薄く透ける純白をベースに、さながらすべての季節の桜の花が、春の穏やかさの中に咲き誇っているかのよう。グラスオーガンジー素材の向こうに見える、ため息が出そうなど手の込んだ花柄ジャガードは、その衣を纏う人を誰でも、いつでも、どこでも、必ず、桜のお姫様にしてくれるだろう。


 採算度外視な、豪奢一点ものドレス……

 ……正しくは、完全受注生産定価298,000円。


 一着で30万円する洋服があるとは、そして受注生産の売買が成り立つなんて僕は、まだ信じられていない。色葉に言わせれば、このクラスになると資産価値があるのでむしろ貯金しておくより良い、とのこと。きっと全世界のコレクターが言ってるタワゴトはさておくとしても……まあ、価値があるだろうってのは、わかる。


 花嫁じみた純白のヴェールと、姫君じみたアンティークのティアラを合わせた、まさしくこれは、頭のドレスなんだ、ってヘッドドレス。

 桜の花弁を繊細に、あくまでも控えめに表現するプリントタイツは、それだけで僕の服が一揃い買えそうな雰囲気。

 金糸で彩られた純白の姫袖から、わずかに覗く細腕は、ナイフとフォーク以外は持ったことがないんじゃないか、って印象さえ与える。

 けど、そんな数々の細部が持つ高貴さは、各所にちりばめられたリボンで和らげられていた。

 この服が表現しているものは、美しさや近寄りがたさではなく、ただただ、ひたすらに、狂おしいまでに純粋な、かわいい、それだけなんだ、それ以外には、なにもいらないんだ、と、リボンの数々が主張している。






 そしてチェーンソー。

 吠え猛る、人間あくまの機械。






(これはね、とっておきのときに着るんだ、えへへ)






 いつか彼女の部屋で、衣装袋に大切にしまわれていたこの服を見せてもらったときの言葉が脳裏によみがえる。

 そのときは、一体全体、一揃え30万円の服を着るとっておきの機会とは……? 叙勲……? 組閣……? としか思わなかったけれど……




 ……ああ、たしかに、とっておき、だ。




 僕の頭の中には今、古今東西のボス戦BGMが流れてる。

 戦車悪鬼タンク・ゴブリンのために流れてるんじゃない。




 不可避の破滅をもたらす壮大なストリング。

 巨人の脈動が如き雷鳴を轟かせる大嵐のドラム。

 狂気で精神を燃やし尽くす溶岩めいたベース。

 歓喜で心を埋め尽くす悪魔じみたギターリフ。




 すべては、色葉のために流れている。




 彼女がボスだ。

 桜の姫となった、この世で一番暴力かわいい彼女こそが。




「一丸色葉ッッ!」




 ヴォォォォォンッッッッ!




 チェーンソーを上段に振り上げる。




「推して参るッッ!」




 物理演算のデモンストレーションじみて、スカートの裾を、ふうわり、たっぷりのペチコートと共に風に翻し、姫袖をはためかせ、リボンを揺らし、歓喜の絶叫を上げるチェーンソーと共に。




 色葉は跳んだ。




 壱番街に開いた地面の穴を、軽々と飛び越え、頭上から戦車悪鬼タンク・ゴブリンを狙う。




「防御。防御。最大防御」




 戦車悪鬼タンク・ゴブリンは鉄槌を垂直に構える。


 宙を舞った色葉は、鉄槌ごと、相手の首を狙う。




 だが。




 鉄槌が火花を出し、すさまじい圧縮空気の放出と共に、手首ごと回転。高速で回転する鉄槌が、まるで体全体を覆い隠す塔盾タワー・シールドのようになる。あの回転に刃を挟むのは、いかにチェーンソーといえども難しいかもしれない。




 が。




 色葉は荒れ狂う鉄槌の旋風圏に、なんのためらいもなくチェーンソーを振り下ろす。




 ガキャッッッッ!!




 次の瞬間、鉄槌の先端が、脇のビルの壁面に突き刺さり、戦車悪鬼は無残に、引きちぎられたような切断面の柄部分だけを持っていた。眼前に着地した色葉は、その勢いのまま、チェーンソーを振り上げる。それでも、柄を槍のようにして色葉に、必殺の刺突を繰り出す戦車悪鬼タンク・ゴブリン




 けどチェーンソーは、槍を持つ右手を捉えていた。




 ギャリギャリギャリギャリギャリッッッ!




 聞いたこともない機械音、金属音が響き、真っ白な火花が辺りに散り、次の瞬間には、がらん、がらん、がらららん……




 ……戦車悪鬼の右手首が、地面に落ちている。




「今の私に、勝てるわけ、ないじゃんか……?」




 ヴェールを揺らし、王冠ティアラを輝かせ、色葉が微笑む。スライ・スライが落ちた右腕をここぞとばかりに奪い取り、亜空筺ボックスにしまっている。戦車悪鬼タンク・ゴブリンはそれを見ることもなく、左手1本で鉄槌の柄を構える。




「世界で1番、かわいいってことは……」




 一閃。

 今度は左手。




「世界で1番、命がけで……」




 二閃。


 ぐじゃり、切り落とされた両足が、重さに耐えかねたのか、戦車悪鬼タンク・ゴブリンの巨体で潰される。だがそれでも残ったすね部分を地面に突き立て、なんとか戦闘体勢を保とうとする。




「世界で1番命がけってことは……」




 四肢を切断され、もはや戦闘能力の残っていない戦車悪鬼タンク・ゴブリンに、ゆっくり歩み寄る。






「世界で1番、暴力かわいいってことなんだからさ!」






 ぐるんっっっ!




 胴回し回転蹴りでも出すかのように、体を横にして回転した色葉。

 だがもちろん、繰り出すのは蹴りじゃない。

 強化された彼女の筋力と、速度と、体重と、すべてが乗ったチェーンソーが、戦車悪鬼の頭部に吸い込まれていく。






 ギャィィィイィィィィンッッッッッ!






 それまでで最大の切断音と火花。






 あとには、

 ただ、

 くず鉄。











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★The Chainsaw 『idkfa』

   Lv.01 概念装備イマジナリー・イクイップメント

   使用スキル-武礼正装ドレス・アップ

   条件mob-自レベル×2

   Fuel-1000rmt/1mob

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 ◇コーデ04  「武装コマンドロリィタ 流法モード 桜襲さくらがさね」 

   ・サクラ Royal Dress

   ・サクラ Royal Head Dress

   ・サクラ Royal Tights

   ・サクラ Royal Shoes

     セットコーデ(他アイテム装着不可)


 効果

    ☆コーデスキル 絶対暴力死ぬほどカワイイ→物理防御無視

    ☆筋力、敏捷力強化アップグレード(練度プラス20)

    ☆全ダメージをコーデが肩代わり

    ★レベルが2倍以上の相手にのみ効果発動

    ★服装破損率5%で狂戦士化

     (半径10m以内の生命反応ゼロまで解けない)

    ★服装破損率99%で死亡


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