ウィー・アー・プレイヤーズ! ~現代社会に突然レベル・スキル制なら、ダンジョンもどっかにあるんじゃないですか? ……だめ? ない? ……ある? ある感じ? ……魔石は?~
19-03 ザ・グレート・コミュニケーター #3
19-03 ザ・グレート・コミュニケーター #3
「色葉、間接だ。表側じゃなくて、裏側、装甲の薄い部分を。首もいけるはず」
「わかってるよそんなこと……! パイプとかチューブ的な部分には、スライ・スライのナイフは通ってた。でも……きいてない……マジで、撤退を視野に入れた方がいいかもしれない……爆弾はあとどれぐらい残ってる? ワンチャン、ビルをあいつの上に倒すとか、いけないかな……?」
「解体業者じゃないんだ、んなことできないって! でも……あいつはここで倒さないとダメだ……!」
「わかってるってば……! でも今の私たちの火力じゃ」
「……うん……よし……」
「なにがいいのよ!?」
「タイミングの話。これを使ってくれ」
そう言って僕は、
シンプルな、ブラックシルバーの指輪。
小さな小さな、豆粒より小さい宝石がついているだけの。
「薬指にはめてくれ……あ、左のね」
「……は、はぁぁぁぁっっ!?」
「いいから、早く! スライ・スライがもたない!」
「な、あん、あんた、な、なにを……!?」
「ああもう、いいから!」
僕は色葉の手を取ると、
「なあ色葉」
彼女を落ち着かせるためにも、大きく息を吸って、ゆっくり、はっきり告げる。
「……僕は人の気持ちを考えるのが苦手だし、できれば考えたくないって思ってる。みんながみんな、自分は今こういう気持ちです、って、横に小型ディスプレイで表示させながら暮らしてくれればいいのに、って割とマジで思いながら生きてる」
色葉は、なにもないのに突然吠えだした犬を見るような目で、僕を見ている。
くそ、伝われ。
ああ、くそ。
……言葉ってやつは、コミュニケーションってやつは、本当の本当にくそったれだ。
こんな曖昧なものを使って社会を作るなんて、人間は本当に、頭がどうかしてる。
……一番くそったれなのは、やり続けるしかないってことだ。
生きている限り、ずっと。
たとえ誰とも会話せず生きられたとしたって、頭の中で常に、このくそったれに曖昧な、言語ってやつはフル稼働してる。
ああ、くそ、本当にくそったれだ。アホみたいなOSで動かしてアホみたいなことをしなきゃいけないのは、PCとスマホだけにしてくれ。
やれやれ、なんかじゃとうてい足りない。
「……君を……君を怒らせたり悲しませたり、不機嫌にさせたり、したくない。君の気持ちは、僕に伝染するんだ。だから僕は、君を喜ばせたい、っていつでも思ってる。だから……この間はごめん。変な言い方をして、変なことを要求してるって、思わせて。本当に、失礼な言葉だった。それもこれも、僕がバカで、陰キャの、コミュ障なせいだ。本意じゃなかった、なんて、炎上したけど何が悪いかわかってないバカみたいなことは言うつもりじゃない」
色葉は目を丸くして、僕を見ている。
「…………壁当てしかしてこなかったせいで、僕は君に、人に投げる速度じゃない速さでボールを投げて、君にそれがぶつかった。悪いのは僕だ。言うなればただの傷害罪だ。それでも……それでも、僕は君との関係を、僕は、ずっと続けていきたいって思ってる。だからこれは、僕なりのお詫びの印だ」
「…………な……ちょ、あ、り…………な、なん……」
「僕なりに、君の喜ぶことを考えた。僕に力いっぱい、できるかぎり! そしたら……できたんだ。君の一番喜ぶものが! 君の一番喜ぶタイミングで!」
「ちょ、竜胆、あ、あ、あ……」
「右手も出して」
「あ、う、は、はい」
「親指と人差し指で、宝石をつまんで」
「ふぇ? あ、は、うん」
「そしたら思い切り引っ張って」
「え、や、そ、そんなの」
「壊れないように作ってあるから! 早く!」
「あ、は、はい……っっ!」
弓を引き絞るように、色葉が宝石を引っ張る。
ぶろろんっっっ。
指輪からは絶対にしない音が、轟く。
宝石は鈍色に光る鉱質の糸で、指輪本体と繋がっている。
その糸、スターターロープが張り詰めて音を轟かせた。
色葉はしばらく、はぁ? って顔をしてたけど……
……やがて、信じられないものを見る目で僕を見る。
その瞳がなにかを問いかけているようで、僕はただ、頷いた。
「もう1回、思い切り」
色葉はこくこくと頷き、もう1度。
ぶろろろろろろろぉぉぉぉんっっっっ。
……ドルンッッッ。
どっ……。
どっ……どっ……。
どっどっ……どっどっ……。
どっどっどっどっどっどっどっどっ……。
エンジン音が大きくなると共に、指輪は光り輝き、その姿を変える。
そして彼女の手の中に、あらわれる。
「うそ……?」
ぎらぎら光る鋸刃をつけた、長大なブレード。
赤と黒でまとめた無骨な
左手は持ち手をしっかりとつかみ、右手はその後ろ。
魔石駆動の、チェーンソー。
「…………結婚するから、絶対」
けたたましい騒音を轟かせるチェーンソーを、恋する乙女のように見つめる色葉は、熱に浮かされたようにぽつり、呟いた。でもはっきり、僕の耳には聞こえた。僕は思わず笑いを漏らして言う。
「なら相手の名前欄は、例の言葉だ」
「…………え、うそやだっっ、なんで聞こえてたのさっっ!?」
「ボディを見てみなって」
色葉がそこに目をやって、再び呆然とする。
〈idkfa〉
無骨なボディに刻んだ五文字。
小学生の僕に親父がくれた、ノートパソコンに入ってたゲームのチートコード。
僕たちにとって、
ゲームといえば、陽気な主人公、かわいいモンスター、でっかい武器と大怪獣、インクの塗りあい、吹っ飛ばしあい、そんなことしか知らなかった小学生の僕らに、ゲームには無限の可能性があるって、教えてくれた言葉。
地獄の悪魔が唯一恐れる、最強のタフガイになれる魔法の言葉。
色葉をFPSに狂わせた、変身の言葉。
僕をゲームの魔界に誘った、解放の言葉。
「あ、ああ……ああ、そういう……」
なぜか色葉が焦ってこちらを向き、しかし、大きくため息をつく。
そして、笑った。
……いや、嗤った、って書いたほうがいいかもしれない。
「……高濃度駆動魔石反応検知。排除優先」
べしん、とスライ・スライを蹴飛ばし、色葉に向き直る
色葉は微塵もひるまず、チェーンソーを構えて、言った。
「
……
満開の桜を纏った少女が、チェーンソーを手にしてそこに立っていた。
(用語解説※1)
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※用語解説
※1
日本の伝統的な配色の一つ。様々な状態の桜をイメージした、それぞれの配色の総称。襲の文字は過去において、上を覆うもの、覆い、という意味があり、
が、色葉は上記を知ってはいるものの、単純に襲の文字がカッコいい、龍がいるし、と考えてコーデの名前にしている。
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