Chapter4 運命

Chapter4-1 侵攻

 長崎県佐世保市。市ヶ谷から入間に行き、輸送機とヘリを乗り継いで、海上自衛隊の佐世保基地に着陸した。いや、正確には接岸している空母のような全通甲板を持つ護衛艦いせに着艦した。


 機体側面にあるドアを開き、甲板に降りる。足元は滑り止めの細かなデコボコの表面をしており、大体2mずつでヘリを固定するための、フックをかけるへこみがある。


 白いヘリコプターだ。日の丸を掲げ、海上自衛隊と書かれたSH‐60Kは案外大きく、最大で十二人も乗ると言う。

「お待ちしておりました。影森三尉」

 青いデジタル迷彩の作業服に身を包み、同じ柄の作業帽を被った隊員が敬礼で出迎えてくれた。彼はヘリコプターのローターが生み出す風を受け、作業着が揺れる、動くことなく直立している。


 対して、私のネクタイは風に煽られ、羽織ったトレンチコートの裾も同じように宙をランダムに揺れる。

「ご苦労」

 同じように敬礼で答える。ヘリから部下が八人降りてくる。二機目が同じように着艦すると、部下がさらに出てくる。


 全員で二十名ほど、皆がオフィス勤務のサラリーマンのようにスーツに身を包んでいる。

「エレベーターで待機してください」

 下士官の指示に従い、25mプールほどの広さがあるスペースに集まった。

『前方エレベーター、降下します』


 ジジジジ、と警報音がなると、少し足元が浮いた。そしてすぐに、真下に向かって下がっていった。ヘリコプターを二機載せることができると言う巨大なエレベーターは、全く揺れることなく、格納庫に到着した。一分もかかってはいない。

「どうぞ、お進みください」


 格納庫に進んだ。照明は明るく、目に見える範囲で四機のヘリコプターが羽を休めている、どれも私たちが乗ってきたヘリコプターと同じ機体だ。

 格納庫の中央には、壁の一部を開き桟橋のようになっている。ここから外に出ると、目の前には四台、黒のアルファードが止まっている。


 皆が乗り込むと、ゆっくりと動き出す。佐世保基地から一度出るが、すぐに隣接する在日アメリカ海軍佐世保基地の敷地内に入る。

 ゲートでは通行証を提示し、難なく入ることができた。


「室長代理、作戦は予定通りでよろしいですか」

「ああ、1600(ヒトロクマルマル)、決行だ。各員、時間合わせ」

 私の号令で、各員が腕時計を確認する。

「……三、ふた一と、合わせ……1537ひとごさんなな


 全員が時刻を確認する。

「相違なし」

 全員から同じように応答がある。

「では予定通り、RF作戦を開始する。第一段階、佐世保基地D地区の制圧に取りかかれ」


 アルファードが所定の位置に到着する。ところどころに雑草が生い茂る荒いコンクリート造りの駐車場。

 この地区は、補給物資の保管が中心で人通りも少ない。それに山の影になり、探知されにくい。


「作戦開始。抵抗があれば迷わず殺せ」

 私の号令で、一斉に武装した部下が降車する。あるものはアサルトライフルを、魔法術を扱うものはすでに原点解放(オリジンレリーズ)し、展開する。地図は頭の中に皆入っている、誰もがすでに作戦行動をとれる。私含め、そのように訓練してきた。


 第一段階は通信網の遮断。在日米軍は旧海軍の施設の上にそのまま設備を設置するので、把握、攻略は容易だ。

 作戦開始から七分。無線機が鳴った。


『こちらシュライク。中央通信の準備完了、オーバー』

「予定通りダミーを設置しろ」

『了解』

 人間で例えれば、動脈を切ったのと同じで、通信ラインの中心を切った。だが、ただ切ればエラーが発生する。


『設置完了。およびメインラインの分断に成功』

 ダミーは通常通り回線が生きていることを基地司令の方に知らせる。勘付かれてはまずいのだ。

「総員フェーズ2へ移行。アメリカが仕掛けた魔術結界を破壊せよ」


 ここから先は通常兵器は意味を成さない。

 遠くから、発砲音が聞こえる。米軍人と接触したのだろう。裏は山肌で、一般道は避けてひかれている。この炸裂音が民家や通行する者に響くことはないだろう。


『三名撃破』

「被害は」

『無し』


 私は敷地の奥にある、赤いレンガ組みの建物に向かった。ここが七十二年前、全ての始まりであり、終わりだった。

 もう誰も私を止めることはできない。

「結界の破壊には細心の注意を払え」

 無線の返答を聞いたあと、扉を開いた。




 ***

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