第9話  母のお誘い ~ホラーな話し⑤~

 さて、今回も引き続き母にまつわるちょっとばかりホラーな話にお付き合いください。


 小烏の母はなかなか行動的な人で、祖母(母の実母)が入院したとき隣りの市の病院に通うため50才のときに運転免許を取りました。

元々運動神経のいい人で、おそらく家族で一番スポーツの出来る人でもありました。


 娘たち(妹と小烏)が小学校に上がるとPTAの役員を引き受けたり、今で言うカルチャーセンターで「ろうけつ染め」「料理」「ケーキ作り」などを習い、家でもいろいろ作ってくれました。


 長じて小烏や妹のところにに子どもが生まれると、孫を引き連れてあちこち遊びに連れて行ってくれました。

特に小烏のところの長女は母にとって初孫だったので、とても可愛がってもらいました。

泊まりがけで鹿児島(叔母と母と長女で、鹿児島の従兄弟に会いに行った)へ行ったり、沖縄に行ったり、最後は長女と二人でグアムにも行きました。


 その中でも一番たくさん行ったのは、海です。

夏休みになるとお父さんたちが仕事の平日、母と小烏の2台車に妹のところと小烏家の子どもたちが適当に乗り込み、片道一時間半ほどかけて海水浴場に行きました。

早朝からおにぎりを握りお弁当を用意して、海まで運転。

海水浴場では休憩しつつ子どもたちと遊び、帰りも一時間半運転。

まだ若かった小烏でも帰宅するとぐったりです。

思い返しても本当にパワフルだったなぁと思います。


 さて、お待たせしましたがここからが本題。


 今から10年くらい前のことだったでしょうか。

小烏一家が夫の社宅から一戸建ての借家に引っ越してしばらくしたころのことです。

夫はこの家から(県外の)職場に新幹線で通っていました。

この頃小烏は教育関係の会社で校正のパートをしていました。

校正の仕事は、急ぎのときは出勤してデスクで作業をし、締め切りに余裕があるときは原稿を持ち帰って自宅で作業していました。


 その年の夏は特に暑くてニュースでもそのことが取り上げられていました。

そんな暑いとある日のこと。

急ぎの校正とのことで朝から会社に行っていました。

半日かけて作業を終え、露天に止めて焼けて熱くなった車で帰宅しました。

帰っても食欲はなく昼ごはんも食べる気になれません。

麦茶だけ飲んで、居間の庭に面した大きな窓を開け扇風機をかけて横になりました。

そして横になったまま友達とメールの交換(まだスマホではなかった)をしていました。


 しばらくすると玄関のチャイムが鳴りました。

この暑い最中に荷物でも届いたのかと、重い体を頑張って起こしました。

玄関に向かい、鍵を開け、扉を開けました。


 そこのは何年も前に死んでいるはずの母が立っていました。

家にいたときのようなきれいな色のTシャツに花柄のスカート、庭に出るときのツッカケを履いていました。


 「今日は暑いなぁ。」


いきなり母は、そう言いました。


「うん、暑い。」

「つむぎ、大丈夫なん?」

「ちょっと体が怠くて、横になってた。」

「そうか。」


 母は片手に持った大きな浮き輪を差し出して言いました。


 「つむぎ、それなら海に行こう。」

「いや、体怠いんよ。」

「海に行ったら涼しくなるよ。」

「もう今日は運転したくないし、いいわ。」


 母はどうにかして海に誘いたいようでしたが、玄関で立ち話しをしているのも怠かったので結構強い口調で断ったような気がします。


 その瞬間、目が覚めました。


 夢を見ていたようでした。

扇風機は相変わらずぬるい風を送り、外はもう日が傾きかけていました。

ちょうどパラパラと夕立が降り始め、大急ぎで洗濯物を取り込みました。

携帯には「暑い」だの「バテた」などというやり取りの途中でになった小烏を心配してか、気遣うメールが数通届いていました。


 いきなり玄関先にあらわれた母。

母はバテている小烏を心配してくれたのでしょうか?

その後母の夢を見ることはありません。



追記

 体調が悪いとき母の夢を見るのかなぁと思ったのですが、インフルエンザにかかって一週間寝込んだときも、ワクチンの副反応でのたうち回った時も夢に出て来ませんでした。

どちらも命に別状ないと判断されたのでしょうか?

それとも、もう夢に出てくる気がなくなったのでしょうか?



 さて、小烏のちょっとホラーな思い出はこれにて打ち止めです。

お付き合いくださいまして、ありがとうございました。

次回は楽しい思い出を語りたいと思います。

またのおいでをお待ちしております。


*******************


もう一つの母の話しはこちらです

「母のお迎え ~ホラーな話④~

https://kakuyomu.jp/works/16816927861004084671/episodes/16817330649911246467



ここにも夢の中で親と再会した方がおられます。


甲斐央一様作

「震える心の見た夢」より

「不思議な夢」

https://kakuyomu.jp/works/16816927859867245085/episodes/16816927859867721053










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